10 死に戻って魔物討伐へ

 暗闇に堕ちた後、私の視界は急に光に包まれる。

 すると、世界に色が戻ってくる。


「……っ!?」


 私は周りを見渡した。

 すると、そこは見に覚えのある公爵家の衣装部屋の室内だった。


「……? アリエルお嬢様、どうかしましたか?」


 私の動揺に気付いた一人のメイドが尋ねてくる。


「……い、いえ、何でもありません」


 確かに私は死んだはず……また、以前と同じような事が起きて頭は混乱するばかりだ。

 ひとまず、私は綺麗なドレスに着替え終わって衣装部屋から出る事にした。


 衣装部屋から出ると、待機していたポールが目を輝かせながら話しかけてくる。


「わぁ! とてもお似合いです! アリエルお嬢様!」


 ポールは以前と同様な反応をしてくる。


「ありがとうございます」


 今回は恥ずかしがることなく、返答を返す。

 すると、隣で待機していたレイモンドも続けて話す。


「えぇ、とてもお似合いですアリエルお嬢様。……さ、ソフィアお嬢様のご用件も終わった頃合いでしょうし、公爵様の元へ向かいましょう」

「……そう、ですね」


 私は一度繰り返したやり取りを終えた後、以前と同様に三人で大広間へと向かう。

 到着するとソフィアと義父が大広間で話しており、私達は以前と同様のやり取りを行った。


(……また、あのやり取りをする気になれないわ)


 以前は私の苛立ちを二人に向けて爆発させたのだけれど、ある程度の苛立ちは既に解消されている。

 なので、再び怒りをぶつける気にはなれなかった――


「――それでは座ると良い、今この近隣で起きている事を共有させてもらおう」


 それから義父は近隣で起きている魔物の被害について話始める。

  

 「我らの公爵領域内にある農業を営んでおる者達が軒並み魔物の被害にあっているのだ。連日近隣の騎士隊で対応しておるが、数が多く鎮圧できないようでな……今は農業を営む者達を退避させて様子を見ている状況なのだ」


 義父はソフィアに視線を向けて続ける。


「ソフィアの治療魔法を持ってしても、負傷者の治療が追い付いておらぬ状態だ。……そこでアリエル、お前の力を借りる為に街の騎士隊に探させたのだ」


 前は力と言われても何のことか全く分からなかったが……今なら分かる。


「……分かりました、私がその騎士隊に協力すればいいのですね?」

「ほう、話が早くて助かるではないか。……だが、お前の死んだ親が残した文献には封印されていると記載されていたのだが?」


 私の本当のお父様に対して非常に無礼な物言いに、私は少し苛立ちを感じてしまう。


「……ご心配いりません」


 私は義父に向かって右手を向けて――


『アイスニードル』


 ――シュンッ!

 尖った氷を義父の顔にかすれるように放出した。

 さすがに顔に風穴を開ける事はできなかったが、頬にかすり傷ぐらいはつけてやった。


「うわっ! ……あ、危ないではないか!」


 義父の頬からツーと血が滴り落ちる。


「お父様っ!?」


 ソフィアは席を立ちあがり、義父に近づいていく。


「……何をそんなに驚いているのですか? 見ての通り、魔法を使って見せたのです。何か問題でも?」


 すると、近くで待機していたポールとレイモンドも反応する。


「あ、アリエルお嬢様! やはり魔法使いの家系……魔法が使えたのですか!?」

「……おやおや、力は封印されていたと聞いておりましたが……既に解放されているのですね」


 ソフィアは義父の傍に到着すると、頬に手を添え――


『ヒール』


 ――すると、ソフィアの魔法により義父の頬にあった傷が塞がっていく。

 残った血を小さな布でソフィアが拭う。


「すまないな、ソフィア」


 私が以前ポルンに使った治療魔法をソフィアも使えるみたいね。


「……だが、先ほどの魔法では治療に使えないではないか。お前は治療魔法は使えぬのか?」

「使えるわよ。なんならもう一度、傷つけて証明してあげようかしら」


 私はそう呟き義父に向かって右手を向けると――


「……いや、やめておこう。先ほどの魔法でお前に力がある事はわかった」


 義父は手で私を静止してくる。


「……そう、残念ね」

「よし……では早速、私の方から例の魔物が暴れている近隣領地の者と騎士隊に連絡を入れておく。数日したらすぐに向かってもらうぞ、アリエル!」

「……えぇ、わかっているわよ」


 こうして、私は魔物討伐に向かう事になった。

 どちらにしても、この公爵家から出られるのでだから私としては有難い。


「ソフィア、お前にもアリエルに同行してもらう事になるが、くれぐれも怪我のないようにな」

「わかっているわ、お父様。心配しないで」

「……っ」


 二人のやり取りを見て、私の胸にモヤモヤがつのる。

 私にもお父様やお母様がいれば、あんな風に私の心配をしてくれるのだろうか……と。


 ――ガラッ

 私は席を立ち、ポールの方をチラっと視線を向けた後、義父に尋ねる。


「……それで、私の部屋はどこかしら? それにポールの部屋も用意してほしいのだけれど?」

「ん? ……あぁ、レイモンド。開いている部屋に案内してやれ」


 義父はソフィアとのやり取りに夢中だったので、話半分で返事を返す。

 娘離れが出来ていないのだろうか……とても気持ち悪い。


「それではアリエルお嬢様、お部屋へ案内致します。ついてきてくださいますか?」


 そんな私にレイモンドは話しかけてくる。


「そうね。……ポール、行きましょ」

「はい! アリエルお嬢様!」


 こうして私達は二人を残して大広間を後にした。




 大きな通路をレイモンドについていく形で歩いている中、私は思考を巡らしていた。


(前回も、その前も寝ている間に誰かに殺されている……そうなると、誰かに一緒にいて貰った方が良いのかしら?)


 そう考えた私は、レイモンドに提案する。


「レイモンド、私の部屋だけど……ポールと一緒の部屋にするってのは出来る?」


 すると、途端にポールが驚きの声を上げる。


「ふぇっ!? あ、アリエルお嬢様、何を言い出すんですか!?」

「……驚き過ぎよ、ポール。勘違いしないでほしいのだけれど、一緒の空間にいるだけで、室内では何か仕切り壁で区切るような感じでそれぞれの生活空間は確保出来るようにしたいの。……身の安全の為に」


 すると、先ほど私が義父から襲われようとしていた事をポールも思い出したのか、驚きの表情から真剣な表情に変わる。


「……確かに、そうですね」

「ねぇレイモンド……そういった部屋にできるかしら?」


 少し考えたレイモンドはすぐに答える。


「えぇ、造作もありません。少し時間を頂ければご用意致しましょう」


 レイモンドは即答してくる。

 ……なんだかレイモンドは、お願いした事は何でもしてくれそうな、そんな不思議な魅力が滲み出ている執事だなっと思ってしまう。




 それからレイモンドに少し部屋を改造すると言われ、公爵家の中庭で待機する私とポール。


「……はっ!  やっ!!」


 先ほどから剣を取り出して、凛々しい表情をしながら稽古をしているポールを眺める。


「ポールって……剣を持つと何か雰囲気が変わるわね」


 ふと私が呟くと、ポールの動きが止まる。

 以前、スラム街で私達を守ってくれた時には分からなかったが、ポールは普段と剣を持つと雰囲気が変わるようだ。


「……え? あはは……そう言われると……確かに。剣を持つと……昔、家族を守る事が出来なかった弱い私から切り離す事が出来るんですよ」

「……っ!? ……そう、だったのね」


 何の気なしに話しかけた言葉だったが、ポールの辛い過去が垣間見えた気がした。

 踏み込んで良いのか悩んでいると、ポールから話しかけてくる。


「……あ、アリエルお嬢様、申し訳ありません。湿っぽい話になってしまいましたね。家族の事ならもう大丈夫ですからご安心ください」

「……私も、昔に両親を無くしているわ。……強いのね、ポールは」

「ありがとうございます。ですが、私はもっと強くなります。なにしろ、今はアリエルお嬢様をお守りする専属騎士という使命を持っていますからね!」


 ポールは満面の笑みを浮かべて答えてくる。


「……えぇ、そうだったわね」


 私も自然と笑みを浮かべて、ポールの稽古風景をレイモンドが来るまで眺めるのだった。

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