07 ミダデス公爵の断罪
私の声が大広間に響き渡ると、義父を抱きかかえるソフィアは私を睨んでくる。
「そんなのできる訳ないじゃない、この家の当主はお父様よ! ……それに、この家では私が絶対なの、お姉様の好き勝手にはさせないわ!」
「……貴方の意見なんて聞いていないわ。私がそう決めたのよ」
私はソフィアにそう吐き捨てながら、二人に手を向け――
『アクアバインド』
――二人の手足を水で形作られた拘束具で拘束させる。
「な、なによこの水は! ……う、動けない!」
自身の手足を拘束する水を見ながら抜け出そうとジタバタするソフィアを横目に、私は傍にいたポールに視線を向ける。
「……ポール、今の内にこの二人を牢獄にでも入れておきなさい」
「ふぇっ! ……わ、分かりました!」
急に話を振られてポールは体をビクつかせながら返事をし、ポールは隣のレイモンドに視線を向ける。
「……あの、レイモンドさん、この屋敷に牢獄ってあるんですか?」
「はい。ございますよ。後で案内致しましょう」
レイモンドがやけに冷静に答えた後、顎に手を添えながら考え込む。
「……ですがアリエルお嬢様。公爵家の当主になるには余程の理由が必要ですし、国王からの承認も必要になりますよ」
「あら、そうなの? いろいろ面倒なのね。……でも、理由なら腐るほどあるわ。私にこれまでしてきた事もあるし……なにより、そこの男は私のお母様を殺してしまった張本人なのだから」
私の言葉で大広間の時間が一瞬止まる。
「……ど、どういう事よ。お姉様! でたらめを言わないで!」
さすがのソフィアも動揺している。
私も義父から初めて聞いた時は混乱したのだから無理もない。
前回、そこの義父から襲われた時に言われた言葉――
【ほぉ……その嫌がる素振り、今は亡きマリアの面影が出始めているではないか。……ふふ、お前も母親と同じように殺める事もできるのだぞ!】
――この言葉を私は決して忘れない。
「……でたらめではないわ。私は直接そこの男から聞いたのよ」
私は義父を見ながら呟くと、ソフィアに視線を戻して睨みつける。
「……それにソフィア? 貴方も世界が自分を中心に回っていると思っていたら大間違いよ? ……私が公爵家の当主になった後、すぐに処刑をしてあげるから牢獄で少し頭を冷やすと良いわ」
「……っ」
ソフィアは義父が自身の母親を殺したという事に驚き、動揺と困惑が入り混じった表情を浮かべる。
私はそんなソフィアを横目に、ポールへ視線を移す。
「さ、ポール。しばらく二人を牢獄に閉じ込めておいてくださるかしら」
「わかりました! レイモンドさん、牢獄の場所を教えて頂けますか?」
「えぇ、では共に向かいましょう」
(ポール……意外と力があるのね)
――と、妙に感心しながらポール達を見送った後、私は席に座り直す。
「……ふぅ、慣れない事は疲れますね」
あまり他者に物申す事を経験しておらず、酷く疲れてしまった。
だけれど、今まで溜まっていた感情を全て吐き出す事ができたので清々しい気分だった。
(……確か、レイモンドは公爵家の当主になるには国王からの承認が必要だと言っていましたわね)
冷静になり、魔物の対応や国王からの承認など、やる事が一度に押し寄せてきた感覚になり少し後悔の念を感じ始めた。
でも、前回のように最悪な公爵家生活を送るより数百倍はマシだと思えてしまう。
そこまで思考を巡らした後、私は一人の男性の事を思い出す。
「……リオラルド様」
私を暖かく迎えてくれたあの方とまたお会いしたいな……。
……と、ふいに弱気になってしまったので顔を左右にふって雑念を振り払う。
「……そうよ、今はそれよりもやるべき事をしなきゃ!」
両手をグッと握りしめ、気合を入れていると大広間にポール達が戻ってくる。
「アリエルお嬢様! ただいま戻りました!」
「あら、お帰りポール。……それにレイモンドも」
ポールに続いてレイモンドも大広間に入ってくる。
「……でも、よかったのレイモンド? あなたはこの公爵家で長い間お勤めになっていたのでしょ?」
私の暴走を止めることなく傍観していたレイモンドに、私は疑問の念をぶつける。
すると、レイモンドはふっと笑みを浮かべながら答える。
「いいのです。……アリエルお嬢様にはお伝え致しますが、私は……国王から配属された諜報員なのです」
レイモンドの傍にいたポールが盛大に驚く。
「……えぇっ!? 国王ってこの国で一番偉い人ですよね!?」
「そうなりますね」
驚くポールにレイモンドはサラッと答える。
ポールが驚いてくれたおかげで、私は冷静さを保てていた。
「……そうでしたのね。でも、何故国王がこの公爵家に諜報員を差し向けていたのですか?」
「アリエルお嬢様もご存じの通り、ミダデス公爵は非常に貪欲なお方で王国からも危険視されていたのです。私はミダデス公爵が何か問題を起こさないか監視を命じられていたのです」
レイモンドの言葉で全てが腑に落ちた。
前回、私をいろいろ救ってくれたレイモンドは国王の使いの者だったのだ。
「でも、突然現れた私に加担してもよかったのですか?」
「もちろんです。ミダデス公爵の身勝手な振る舞いに毒されたソフィア様も数多くの問題を抱えていたのも事実でして、今は亡きマリア夫人が素晴らしい方であったお話は国王からも聞き及んでおります。……そのマリア夫人の忘れ形見であるアリエルお嬢様ですので、丁重にお仕えしたいと考えております」
「……あ、ありがとうございます」
子供の頃に微かに覚えているお母様の顔が脳裏に浮かぶ。
お母様の事を褒めて貰えると、私も無性に嬉しくなる。
「さて、狂暴化した魔物の事もありますし、早く王国へ出向き、国王から公爵家の当主になる承認を貰いにいきましょう」
「そうですわね。……ポールにレイモンド、これからもよろしくお願い致します!」
私が二人に笑顔を向けると、私に微笑み返してくるポールとレイモンド。
「もちろんです! アリエルお嬢様!」
「畏まりました。アリエルお嬢様」
私達三人はお互いに微笑み合い、固い絆で繋がれたのだった。
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