最強の剣専用スキル・クリムゾンブレイク

 ――蒼白い光が頬をかすめた。



 メテオゴーレムの握る『流星刀・アランヒルズ』は、豪快で鮮烈な一閃を繰り出し、俺のインビジブルソードへ激突した。


 激しい火花を散らし、武器破壊に連携させようと身を強くひねらせてくる。


 ……恐ろしい。


 俺は、はじめてこのダンジョンにきて戦慄せんりつした。



 なんてバケモノだ。

 恐れを知らないメテオゴーレムの一撃、一撃が侵入者をはばむ為の“殺戮さつりく”でしかなかったからだ。


 けれど、白旗を上げるにはまだ早い。




【インビジブルフェザー】

【レアリティ:SSS】

【部位:下段頭装備】

【詳細】

 勇者ルドミラの飾り。

 ATK +30、MATK +30。

 STRが99以上で、片手剣・両手剣を装備している場合、剣専用スキル[クリムゾンブレイク]Lv.5を使用できる。



【クリムゾンブレイク】

【Lv.5】

【剣専用スキル】

【詳細】

 消費魔力:300。

 このスキルを使用した時、武器に[火属性]が強制付与される。破滅的なダメージを与え、敵を駆逐する。この攻撃は回避不可能の“必中攻撃”である。


 Lv.1:火属性攻撃 1000%。

 Lv.2:火属性攻撃 2000%。

 Lv.3:火属性攻撃 3000%。

 Lv.4:火属性攻撃 4000%。

 Lv.5:火属性攻撃 5000%。




 スキル一覧に新たな技があった。これでいく。


 鍛えぬいた今の俺なら、使いこなせるはずだ。

 敵の隕石攻撃をくぐり、俺はローザのヒールを受けながら高速移動していく。思ったよりもジャイアントインパクトは落下までが遅かったのだ。


 これなら余裕で回避できる。


 ただ、メテオゴーレムは今までのゴーレムと違って“刀”という武器を使ってくる。接近物理攻撃をしてくる厄介なモンスター。



「ローザは、俺にヒールをしてくれ! ミランダ、なんでもいい……隕石をぶっ飛ばしてくれ!」



 俺の指示通り、ローザはヒールを超連打した。



「うけたまわりですっ! ヒール!!」



 こうしないともう回復速度が追い付かない。ポーションも使えるだけ使いまくって、後先考えず使った。もう今はこれしか方法がない。


 敵の激烈な剣戟けんげきをインビジブルソードで受け、俺は手がブルブル震えた。……クッソ、なんて重いんだ。



 これで隕石が落ちてくる?


 無茶苦茶すぎる!!



「だけどな……ミランダ、頼む!」

「スプラッシュ!!」



 水属性魔法攻撃・スプラッシュの最高威力が隕石の軌道をらす。……ナイス! 隕石攻撃に関しては俺も全力で回避しつつ、ミランダに補助してもらうしかない。



 メテオゴーレムは容赦なく、刀を振るう。俺は、それをうまく防御していくが後退ばかり。これでは反撃ができないッ。



「けどな……コールブランド!!」



 敵のボディに剣を突き刺し、スキルを放つ。それでも、まだメテオゴーレムの体力を削り切れなかった。



『ギギ……』



 不気味な声を上げるゴーレム。

 なんて体力してやがる。

 やはり、新スキルで仕留めるしかない。



 だが、メテオゴーレムは流星刀・アランヒルズを横に払って猛烈な一撃を俺の横っ腹に命中させてきた。


 ――しまった。この前、大けがを負った部位だぞ。



「がはッ」



 かなり吹き飛ばされ、壁に激突する俺。なんて衝撃だ……。内臓がやられたのか、俺は口から血を吐く。


 朦朧もうろうとする意識の中、俺はローザとミランダの姿を目で必死に追う。


 二人を死なせるわけにはいかないんだ。



 だが、メテオゴーレムは、ローザの前に立っていた。



「……!」



 ローザは恐怖で震え、その場にへたり込む。……まずい、俺が守らなきゃいけないのに、この最強のSSS装備でも勝てないっていうのか。


 いや、違う。

 俺は恐怖に飲み込まれそうになっていたから。怖気づいた結果がこれだ。


 恐怖を克服せねば未来はない。

 俺はもう、なにも失いたくない。


 だから!



「アビス様、ローザ様が危険です! 今、わたくしのたった一本しかない『回復の矢』を貴方に届けますから!!」


「! 回復の矢だって!?」



 ミランダは俺に対して矢を放ち、ケガの部分に刺した。一瞬、激痛で死ぬかと思ったが、それは錯覚。むしろ痛みが消え、体力が一気に回復した。

 回復の矢は自然消滅し、消えた。



 これでまだやれる!

 ローザを助けに動き出す。


 だけど、メテオゴーレムは刀を振り上げ、ローザに斬り掛かった。


 遅かった!



「わ、わたしは大聖女です! そこらのボケ聖女と一緒にしないでください!! てやああっ!! 奥義・真剣白刃取り!!」



 ――う、嘘だろ!!


 もちろん、SSS級のグローブをつけた上でのキャッチ。見事にメテオゴーレムの刀を両手で受け止めていた。



「す、すげぇ……! ローザ、そんなスキルがあったのか!」

「それほどでも――ありますけどね!! 今です、アビスさん!!」


「ああ、これで道は開けた! 俺の恐怖もおかげで吹き飛んだ!」



 やるべき事は、ただひとつ。

 この剣の一撃に全身全霊を込める。


 このインビジブルソードにな!



「くらえッ!!」



 剣が真っ赤に染まっていく。


 赤い剣だ。


 やがて、刃は炎をまとい――加速していく。



『……!』



 メテオゴーレムも俺の剣に異常を察知したのか、ローザの奥義・真剣白刃取りから抜け出そうとする。だが、ローザは必死に掴み離すまいとしていた。



「この物騒な刀、離すわけには参りません!! 勝つまでは!!」

『ギギ……!! ギギギギ……!!』



 焦りまくるメテオゴーレム。

 だが、もう遅い。



 助走をつけ、俺は飛び跳ねた。




「クリムゾンブレイク―――――!!!」




 爆炎がメテオゴーレムを包み、連鎖的な爆発を与えていく。

 クリムゾンブレイクは、必中攻撃。加えてモンスターの全身を破壊し尽くす火属性攻撃。一度浴びれば、脱出不可能。もう逃げられない。



『ガガガガガガガ……』



 崩れていくメテオゴーレム。

 ついに体力が突き、バラバラに砕け散った。



【EXP:33,340】

【ITEM:エクサニウム×1】

【ITEM:A級メテオシールド×1】




「終わった、のか……」



 周囲にモンスターはいない。

 メテオゴーレム自体、出現数がかなり少ないようだ。そこが救いでもあるけど。



「はぁ、はぁ……アビスさん、これはキツすぎです」

「ローザのおかげで助かったよ。なんだよ、あの“奥義・真剣白刃取り”ってさ」


 ミランダも「そうですよ、あんなの聞いてなかったですよ」と困惑していた。これは説明してもらわないとな。


「そのぉ、わたしって殴りですから、接近物理系のスキルもそこそこあるんです。だから、さっきのような真剣白刃取りも習得しているんです。でも、運要素がありますし、かなり接近しなければならないので、タイミングが難しいんです」


「なるほど。でも、メテオゴーレム相手ならいけそうじゃね?」


「ちょ! あんなバケモノ相手に何度も奥義・真剣白刃取りを? 嫌です……」



 危険も伴うしな。

 さっきは偶然だったけど。


 しかし、この先はまだ長い。

 となると、ローザの『奥義』は必要かもしれない。



「ローザ、攻略の為なんだ。いや、そりゃ……俺も出来れば任せたくはない。危険すぎるし」

「はぁ、分かりました。アビスさんの為ならいいですよ」


「いいのか? 死ぬかもしれないんだぞ」

「アビスさんが守ってくれますよね?」


「も、もちろんだ。任せろ!」



 そう断言すると、ローザは笑顔で指切りを迫ってきた。指切りとは、約束する時にする儀式的な行為らしい。ああ、俺も知っている。



「嘘ついたら針十万本のーます」

「十万って……死ぬじゃん」


「ええ、わたしとそれにミランダさんも含めて一蓮いちれん托生たくしょうですから!」



 運命を共に、か。

 そうだな、けど死なせはしない。

 この剣に誓って。


 その後、ローザの奥義が炸裂。

 俺は『クリムゾンブレイク』でメテオゴーレムを爆砕した。



 ――地下二十六階、攻略完了。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る