初回ログインボーナスの受け取り方

 突然現れて助けてくれた銀髪の少女。彼女は“大聖女ローザ”と名乗った。どうやら、昔に会ったようだけど、まるで覚えがない。



「君はいったい……」

「言ったでしょう。ローザと。わたしのことはそうお呼びください」



 そんな女神のように微笑まれてもな。いや、だけど顔は可愛いな。どこかのお姫様と言われても信じるレベル。けど、ローザは“大聖女”と言っていた。


 大聖女?


 帝国にそんな存在いたっけな。


「助かったよ。それじゃ、俺は行く」

「なっ! わたしを置いて行くというのですか!?」

「え……助けてくれたことには感謝してるけど、お礼もできないし。文なしなんだ、俺」

「お礼は言葉で十分です。それに、貴方は『無限初回ログインボーナス』を持っているのですよ。アイテムボックスではなく【◆】のボタンを押すんですよ」


 左手でバッテン×を描くと、現れるステータス画面。その右上に【◆】があった。……ああ、これか。気にしたことなかったな。


 そこを押すと今まで受け取ってこなかったログインボーナスのアイテムが山ほど溜まっていた。



「なっ、なんだこれ! 三年前からいっぱい増えてる」


「アビスさん、ガチャが回せる“魔晶石ましょうせき”とか、特別記念で貰える“金の魔晶石”とか数え切れないほど受け取れますよ」



 マジだ。

 ローザによると通常の・・・ログインボーナスは朝の四時に受け取れるもの。普通の人は、起きた時に【◆】を押してアイテムを受け取るものらしい。


 俺は、元々貴族だったし、親も親父ひとり。その親父は最近、夜逃げしたからな。どこにいるやら。


 ともかく俺は、魔法学院とか通ったことがないし、冒険者の知識にうとかった。



「はじめて知ったよ。ていうか、ログインボーナスってどういうことだよ」

「さあ? わたしも詳細は分からないのです。でも、普通の人は初回だけ・・・・貰えるボーナスらしいです。以降は、通常ボーナスだけですよ」



 う~ん、意味が分からないな。

 何なんだ、ログインボーナスって。

 でも、毎日受け取れるようだし、事実、俺にはたくさんのアイテムが届いていた。いったい、誰がこんなことを――あ、この子か。



「そうか、達者でな」

「って、ええー! アビスさん、クールキャラなんですか? 少しは話しを聞いてくださいよぉ~」


「そりゃレアアイテムがたんまりあって嬉しいよ。でもなあ、金にはならないしな」

「お金だって受け取れますよ?」


 その言葉を耳にして、俺はギョッとした。なんだって……お金も受け取れるのか、このログインボーナスとやらは。


「説明を求む」


「初回ログインボーナスにつきましてはお金の『ベル』が10,000~100,000ベルをランダムで貰えるんです。それと先ほども言った『魔晶石』が50個。これはA級ガチャが10回引けるのです。あと最後に『金の魔晶石』は10個です。S級ガチャが1回だけ引けるのですよ。 あと、おまけでE~SSS級武具アイテムが1個だけ貰えます。ですが、アビスさんの力はSSS級に固定されているようですね」



 なるほど……分からん。

 けど、お金が貰えることだけは理解できた。あと石とかお腹がふくれそうにないので、今は後回し。けど、武具アイテムは魅力的だな。


 強くなれるなら、それに越したことはない。



「分かった。まずは一通だけ受け取ってみるよ。その初回ログインボーナスとやらをな」

「おぉ! アビスさん、ノリがいいじゃないですか~。そうそう、素直が一番ですよ」

「悪いな。今の俺は女の子があんまり信じられないんだ」


「へ……それってどういう意味ですか?」


 もちろん、俺は答えない。

 昔の別れ話なんて初対面の少女に出来るわけがない。笑われるだけだ。


「さてと、この【◆】を押して一覧がズラリ……と。まあ、適当に一通受け取ってみるよ」


 ポチッと項目を押すと――



【初回ログインボーナス】

①15,000ベルを受け取ました!

②魔晶石50個を受け取りました!

③金の魔晶石10個を受け取りました!

④SSS級インビジブルガントレットを受け取りました!


アイテムは『アイテムボックス』へ転送しました。


*****運営よりお知らせ*****

このボーナスは一度だけ受け取れます。

あなたの第二の人生に祝福を。



 ひとつ押しただけで、こんないっぱい貰えてしまった。嘘でしょ……こんなアッサリ!?



「無事に受け取れましたね、アビスさん。それは本来は一回のみです。ですが、貴方は特別ですから、まだ三年分・・・が残っていますよ~」



 これは凄いぞ。

 この力があれば俺は、またやり直せる……? そうだ、没落貴族どころか、ただのホームレスになってしまった俺。

 あのレイラをギャフンと言わせてやるくらい成り上がってやる。



「ありがとう、ロー…マ?」

「ローザです!! 覚えて下さいですぅ!!」



 ああ、そうだった。ローザだ。

 彼女のおかげで助かった。

 これで俺はまた人生をやり直せる。



 ▼△▼△▼△



 洞窟を出て、俺は改めてローザに頭を下げた。


「それじゃ、俺は成り上がる」

「なるほど、当面の目標ですね。分かりました」


 俺は帝国を目指した。だが、ローザもついてくる。ので、別の道を使おうとした。だが、ついてきた。


「なんだ、ローザ。俺はもう帝国に帰るんだが」

「えっ、わたしはアビスさんについて行くつもりですけど」

「マジ?」

「マジです。だってもうパーティだって組んじゃいました。あ、パーティリーダーは、わたしなので!」


 パーティ? なんの話だ。

 どうやら、そういう冒険者のシステムがあるらしい。二人以上で組める『パーティ』は、相手の同意があれば何人でも追加できるようだ。

 人数が多ければモンスターを討伐して、経験値を入手できるだけでなく――討伐クエストのカウントも一緒にされるので便利なのだとか。


 なるほど、なるほど……分かりません。


「俺は同意してないけど?」

「さっき、わたしがしておきました! ほら、ログインボーナスを受け取る時に“ポチっとな”と」


「いつの間に! おいおい。俺は同意してないってーの。まあいいや、それで、どうすればいいんだ」


「わたしも一緒に帝国へ行きます。アビスさんをサポートしたいんです」

「俺を? 俺は貴族でもなければ、ホームレスだぞ」

「いいえ、アビスさんは本当の自分に気づいていないんです」


 本当の自分?

 どういう意味だ。外の世界に出てからというものの、よく分からないことばかりだ。


「お前も物好きだな。分かったよ、好きにしたらいい」

「はいっ! 好きにしますっ」



 こうして俺は、大聖女ローザと出会ってしまった。だけど、この時の俺は、まだ知らなかった。これが“運命”だったとは――。

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