メテオゴーレムダンジョン 地下十階

風属性魔法テンペスト Lv.5

 ミランダの水属性魔法のおかげもあり、サクサクを進んだ。どうやら、彼女の『スプラッシュ』はスキルレベルが高いようだな。しかも、威力の調整もできるようだし、なにかと便利だ。



 そうして――地下十階。



 俺はてっきり、そこが『安全地帯セイフティ』と思っていた。だが、それは大きな間違いだったんだ。



 岩でおおわれた広い空間に出ると、その瞬間に大量の矢が降ってきた。



「な、なんだ! 百本とかそういうレベルだぞ」

「アビス様、ここはわたくしにお任せ下さい」



 一歩前へ出るミランダは、風属性魔法の『テンペスト』というスキルを発動。嵐が発生して大量の矢を吹き飛ばした。




【テンペスト】

【Lv.5】

【魔法スキル】

【詳細】

 消費魔力:100。

 詠唱時間:30秒。

 最上位の風属性魔法。

 大嵐を発生させ、広範囲の連続ダメージを与え続ける。低確率で対象を状態異常の『麻痺』にする。


 Lv.1:風属性攻撃 1000%。

    麻痺発生率 1%、効果範囲・小。


 Lv.2:風属性攻撃 2000%。

    麻痺発生率 2%、効果範囲・小。


 Lv.3:風属性攻撃 3000%。

    麻痺発生率 3%、効果範囲・中。


 Lv.4:風属性攻撃 4000%。

    麻痺発生率 4%、効果範囲・中。


 Lv.5:風属性攻撃 5000%。

    麻痺発生率 5%、効果範囲・大。




 詠唱時間が30秒もあるのに、ほぼ無詠唱じゃないか。すげぇな。



「おぉ、ミランダさん凄い大魔法ですね! さすがエルフ。高い魔力をお持ちなのですね」

「そんな褒められると照れちゃいます。ローザさんも神聖な力が神秘的で素敵です」



 女子二人でキャッキャとやっとる。

 そんな場合ではないぞっ。


 目の前には、明らかに殺意を放つ“ギルド”がいた。なんだ、あの集団。怪しい仮面で顔を覆い、素顔が分からない。



 その集団の前にも先行していた攻略ギルドや、俺たちが助けた冒険者がいた。なんではばまれているんだ?


 ちょうど目の前に“つち”を背負う重戦士がいた。オーガストだ。彼に事情を聞いてみた。



「なあ、オーガスト。この十階で何があった?」

「よう、アビス。いやな、大変なことが起きたんだ」

「大変なこと?」


「ああ、この十階を占領しようとしている五人は犯罪ギルド・・・・・の『カーネイジ』だ。このリディア共和国周辺では有名な組織だな。俺も初めて遭遇した」



 は、犯罪者ギルド?

 そんなものが存在していたのか。


 ――いや、このダンジョンに入る前、ローザは言っていた。殺人ギルドがあると。その事だろうな。



「どんな組織なんだ」

「冒険者殺人、暗殺業、違法ポーション、奴隷売買、強盗……枚挙にいとまがない。だから、犯罪者ギルドだ」



 とんでもないギルドじゃないか。そんなのがメテオゴーレムダンジョンにいるとはな。利益を独り占めしようとしているのか。


 注視していると、ローザが小声で話してきた。



「あの、アビスさん。どうします?」

「まずは様子を見る。向こうが犯罪を犯すなら、俺が通りすがりの正義マンになってやるさ。この力はその為でもある」


「アビスさん……はい、そういう謙虚けんきょな姿勢が好きですよ」


「……そ、そうか」


 さりげなく“好き”とか言われ、俺はドキッとした。――いやいや、照れている場合ではない。犯罪者ギルドから目を離しては危険だ。


 ヤツ等の部下らしきヤツが一歩前へ出て叫んだ。



「テメェら、ここで金品を全部置いていってもらう! 死にたくなければ、A級以上のアイテムは全部置いていけ。あとベルもだ。女は“奴隷”になってもらう!」



 バカな。そんな要求がまかり通るはずがない。ここまで苦労して来たんだぞ。


 すると、攻略組みが不満を爆発させた。



「ふざけんな! なんでお前等なんかにアイテムを渡さなきゃならない!」「そうだ、そうだ! まだ地下ニ十階も残っているんだぞ」「こんなところでアイテムを渡したら、先へ進めなくなる」「犯罪者ギルドが……このクズ共!」「こうなったら戦うしかないだろ」「やるしかないよな!」「相手はたったの五人だ。こっちは五十人はいるぞ」「余裕じゃね!?」



 そうだ、人数差は圧倒的。

 相手はただの犯罪者だ。


 負けるはずが――ん?


 あの犯罪者ギルドのギルドマスターらしき男が不敵に笑っていた。なんだ、なにか策があるとでも言うのか。



 仮面をし、フードを深く被っていて素顔が見えない。いったい、何をする気だ。……いや、この“魔力”は……まずい!



「みんな、離れろ!!」



 叫んで注意を呼び掛けたが――遅かった。


 男は『召喚術』を使い、悪魔を召喚・・・・・した。



「いでよ、ヴァンパイアロード!」



 地面に黒い魔法陣が展開する。

 すると人間よりも大きな人型のモンスターが出現。

 あの黒い翼を広げる男がヴァンパイアロードか。なんておぞましい姿。吸血鬼は、本で見た事があったけど赤い目が恐ろしいな。



 ヴァンパイアロードは、赤い剣を生成。構えて飛び跳ねていくと、次々に冒険者を襲い殺していく。


 ……嘘だろ、なんて強さだ。



「なんてことでしょう……」

「ローザ、あれは何なんだ!」


「恐らくですが、悪魔契約・・・・でしょう。精霊契約と聖竜契約かいろいろありますけど、あれは悪魔の類。ですから、悪魔契約の悪魔召喚ですね。そんな召喚術を扱える人は滅多にいません」



 なるほどな。

 あの犯罪者ギルドのギルドマスターは、そんな召喚スキルが扱えるわけだ。なんて技を使うんだ。一刻も早く止めないと、犠牲者が増えてしまう。


 俺が出るしかない。



「ローザ、ミランダはなるべく離れていてくれ! オーガスト、二人を頼めるか」

「任せろ! お嬢ちゃんたちは、この命に代えても守る」



 オーガストに二人を任せ、俺はインビジブルスクエアを持ち、駆けていく。



 ヴァンパイアロードは今もなお、冒険者を襲い続けては血をすすっていた。あの吸血行為で体力HPを回復できるらしい。なんて力だ。

 周囲の冒険者は引き剥がそうと必死に攻撃するが、まったく歯が立たず。なんてモンスターだよ。硬すぎるだろ。


 俺はまず、アックスでヴァンパイアロードへ攻撃。


 すると、ダメージが通ってヴァンパイアを引き剥がせた。ヤツは胸を押さえて飛び去っていく。……よし、上手くいった!



「貴様……な、何者だ! このオレのヴァンパイアロードに傷をつけるとは、只者ではないな!」



 ギルドマスターの男が叫ぶ。



「俺は、アビス。ただの冒険者さ!」

「ただの冒険者? ふざけるな。今の攻撃は“S級以上”だった。そんな武器を持つ者は、千人といない。それに、こんな辺鄙へんぴなダンジョンにいるはずがない!」


「そう思うのなら、そうなんだろうな。それより、お前達を倒す。ダンジョン攻略の邪魔をするな」


「冒険者の集まるところにお宝ありだ。それを奪うのがオレ達、犯罪者ギルドさ」



 そうか、コイツ等に会話なんて意味はなかった。今まで散々、弱者から奪い、辱めてきたはずだ。そんなヤツ等を野放しにしちゃダメだ。これ以上、犠牲者を出さない為にも。


 インビジブルスクエアを変形させ、今度は“ランス”へ。



「もういい加減しとけ、犯罪者共!」

「はぁ? お前、丸腰じゃねぇか。威勢だけか! ゴミめ!」



 リーダーらしき男は、部下たちに命令を出す。他のヤツ等も『召喚術』を使った。そうか、ヤツ等全員が『召喚士サモナー』なのか!



 ダークスライム、バフォメット、バイオグール、フィアスグレムリンが一斉召喚された。なんて数だ。しかも、どれもボス級じゃないか。



 なんとか持ちこたえている冒険者たちが、召喚されたモンスターと交戦を始める。やべえな、数が多すぎるし、敵も強すぎる。


 ヴァンパイアロードだって、まだ宙を舞っている。



「くっ……」

「ふははは! 逆らうからこうなった。最初からひれ伏せていればいいものを」



 こうなったら、インビジブルスクエアの“剣”を使うか。まだ未使用だけど、剣なら何とかなりそうな気がしていた。


 ――だが。



「きゃあああっ!!」

「いやぁっ!!」



 この声、ローザとミランダ!!


 しまった、距離が離れているから直ぐに駆けつけられない。だけど、それでも!



 俺は一旦、ローザたちの方へ向かった。すると、そこには“大きな鎌デスサイズ”を振るうバフォメットの姿があった。


 あんなバカデカイ武器を軽々と……バケモノかよ。


 オーガストは吹き飛ばされてしまっていた。岩に激突し、気絶しているのか。死んでないといいが。


 鎌は、次にローザを狙った。


 ……やべえ、距離がありすぎる!



「間に合わねえ!!」



 鎌がローザの首元に接近。

 嘘だろ、守れないのか……!


 だが、戦闘中の冒険者の中から見た事のある顔が現れた。



「うおおおおおおおお!! ローザちゃんは俺が守ってやらああああああああああああ!!」



 その男は、鎌を背中で受け止めていた。

 あの厳つい顔の男は……ダンジョン前にいたギルド『ディアボリック』のギルドマスター『スライ』! なぜここに!



 スライは鎌によって体を真っ二つにされた。



「スライ!! お前!!」

「……へっ。俺のクソ人生、マジでクソだったけどよ。これで少しは役に立てたよなァ! アビス、ローザちゃんをしっかり守れよ! 後は任せ――ぐぶはぁっ……」



 スライは蘇生できないほど鎌で刻まれ、死んだ。


 あいつ……なぜ。



 馬鹿野郎……死んでしまったら意味ねぇじゃねえか。でも、おかげでローザは助かる。アイツの為にも俺がバフォメットを倒す……!



 インビジブルスクエアを“ソード”へ!



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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