聖女のスキルとシズ草原フィールド
リディア共和国の冒険者ギルドへ出た。
ケイオス帝国とは印象がガラリと変わり、お城の中のような雰囲気だった。
「やたら豪華だな。冒険者も多いし、見た事もない種族もいる」
「ええ、お花がたくさん飾られていて可愛いですっ」
ローザと共に通路を進むと、受付嬢のお姉さんが目の前に現れた。
「ようこそ、リディア共和国へ。お客様は、観光ですか? それともダンジョンへ行かれるのですか?」
「俺たちは『メテオゴーレムダンジョン』へ向かう」
そう伝えると、周囲の冒険者が騒然となった。
「なっ……メテオゴーレムダンジョン!?」「あんなボロボロの少年が?」「まともな装備もしてないのに」「無謀だ。死ぬだけだ」「ホームレスっぽいし、自殺願望者じゃね」「ギルドとか無所属だよな」「パーティは……ん、あの銀髪の子は?」「あの女の子、奴隷とか?」「ま、まさかなあ」
俺たちの注目度高いな。
主に俺のボロボロの雑巾のような服装と、目立つほどの美しい銀髪を腰まで伸ばすローザのせいだろうな。
そうだ、主にローザだ。
ピチピチのセイントローブを身に着け、
などと見渡していると、受付のお姉さんは心配顔になって「あ、あの……失礼ですが、お止めになった方が」と止めに来る。だが、意外にもローザが怒ってくれた。
「アビスさんは、確かに身なりは酷いですけど、見かけで判断しないでください。大切なのは中身でしょう」
「し、しかし……メテオゴーレムダンジョンは、推奨レベルがかなり高いですし、推奨装備もS級以上です。ギルドおよびパーティ人数も最低でも三人は必要です。お客様は、職業ホームレスと……えっと、プリースト様ですよね。死にに行くようなものですよ!?」
「それこそ失礼です! アビスさんは、ホームレスですけど、ホームレスじゃないんです!!」
フォローになってねえ~!
事実、家も何もかもを失ったホームレスだけどさ。
「では、彼はいったい何者なんですか」
「そ、それは……」
言葉に詰まるローザ。
やれやれ、ここは俺が適当に言っておくか。
「俺は――」
しかし、ローザは俺の言葉を
「ア、アビスさんは……わたしの
「「――なッ!!」」
俺も受付のお姉さんも、ローザの発言に固まった。旦那って、マジかよ。だけど、何もないホームレスよりはマシだな。ここはローザの嘘に乗っかっておくか。
「このローザは妻でしてね。というわけで、もう行きますね」
そうお姉さんに伝えると「は、はい……」と短い返事をして通路を通してくれた。
▼△▼△▼△
回復剤などの消耗品アイテムは、ログボのおかげで大量にある。ポーション類はばっちり。どうやら、ローザには回復魔法もあるようだし、回復系に関しては問題なさそうだ。
なあに、メテオゴーレムダンジョンは地下三十階もあるんだ。行けるところまで行って、無理だったら撤退すればいいだけの話だ。
「他に気を付けることってあるのかな」
「う~ん、わたしもゴーレムダンジョンへ初めていきますし。あ、でも、死んじゃっても安心して下さい。このわたくし、死者を一日一回だけ蘇らせられる『リザレクション』を習得済みなんです!」
ふんすと自慢気に胸を張るローザ。
リザレクション? と、俺は首を傾げた。支援魔法には
「なんだ、そのリザなんとか」
「リザレクションです! 覚えて下さいっ。ほら、詳細見せますから」
【リザレクション】
【Lv.4】
【支援スキル】
【詳細】
消費MP:100。
死者を一日一回だけ蘇生できる。死者がほとんど原形を保っていなくても蘇生可能。ただし、身体が消滅している場合は蘇生不可。
十秒の固定詠唱時間がある。
Lv.1:蘇生1名
Lv.2:範囲蘇生5名+HP全回復
Lv.3:範囲蘇生10名+HP/MP全回復
Lv.4:範囲蘇生15名+消費MP半分
Lv.5:範囲蘇生20名+固定詠唱なし
これが『リザレクション』か。死んでも生き返られるだなんて、凄い効果だ。でも一日一回という制約があるし、油断はできないな。
「ローザって、なんだか便利なスキルを色々持っていそうだな」
「わたし、職業的にはプリーストではなく『カーディナル』なんです。クラスは聖女ですけど……だから、支援魔法はたくさんあるんですよ~」
そういえば、さっきギルドで受付のお姉さんが『プリースト』と勘違いしていたな。実際は『カーディナル』だったのか。何なのかサッパリだけど。
ギルドを出て外へ出た。
リディア共和国の街並みが広がり、俺は差し込む陽光に顔を
「ここが共和国か。のどかな場所だな」
「はい、平和です。だから、他国からたくさんの方々が集まるんでしょうね」
確かに、エルフやドワーフ、巨人や小人、ドラゴン族や魚人族がそこら中を歩いているな。ギルドやパーティとおぼしき集団もいるし。
「あっちは賑やかだな」
「ああ、あっちは露店街ですね。商人たちがお店を開いているんです。レアアイテムとか売ってるかも」
「ん、なんだか詳しいな」
「――えっ! た、たまたまです。わたし、リディア共和国にいたことがあるのです。だから、少しだったら案内できます」
そうか、ローザは共和国に滞在していたこともあったんだな。というか、コイツはどこ出身で何者なのか未だに分かっていない。
大聖女だとは名乗っていたな。
まさか、この共和国の大聖女なのでは。にしても、周囲はまるでそんな反応はないし――違うのかな。
まあ、いずれ分かるだろう。
俺は気にしない事にした。
――共和国の外へ続く大きな門まで歩くと、そこは厳重な警備があった。騎士の男が俺の前に現れ、険しい表情で
「貴様、そのボロボロの身なりでどこへ行く気だ!」
「ダンジョンへ行くんですが」
「ダンジョンだぁ!? そんな怪しい格好の冒険者がいてたまるか!」
「本当ですって。この銀髪の子が証言してくれます」
ずいっとローザを前へ押し出す。
すると騎士は、一瞬でときめいて心臓を鳴らす。目がハートになってるなあ。
「か、可愛い! 俺の嫁になってくれ!」
「嫌です」
「…………」
一瞬で撃沈し、騎士は肩を落とす。
そりゃそうだ。
「それより、アビスさんもわたしも本当にダンジョンへ向かうんです。通してください」
「仕方ないな。おい、少年。この銀髪の子に免じて通してやるが、絶対にお前が守れよ。俺、この子のファンになったからな!」
と、門番から釘を刺される。
ローザにファンが出来るとはな。
ようやく、リディア共和国の外に出た。
【シズ草原フィールド】
【難易度:★】
「アビスさん。この草原フィールドですが、難易度こそ低いですが気を付けてくださいね。ちょっと強いスライムとかいますし」
「分かった。念のため、ローザにも回復アイテムを渡しておくよ。
「い、いいんですか?」
「同じパーティなんだ。死なれたら困る」
俺は、ローザにたんまり回復アイテムを渡す。
「こ、こんなに!? 百個以上はありますよ!?」
「これから、結構ヤバいダンジョンへ行くんだ。備えておかないと……あ、そうだ。ローザの装備も整えるか。俺のアイテムボックスにたくさんあるし」
「へ……ちょ! わ、わたしの服を脱がす気ですか!」
身を引くローザは、顔を真っ赤にした。なんでそんなに恥ずかしがる。装備なんて一瞬で変わるというのに。
やれやれ、仕方ない。
アイテム取引をしてレアアイテムを渡すとしよう。
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