ターン1 魔王ウィング

 午後、5人が集まった。


「パパ、お熱ある?」

「父さん、大丈夫?」

「あなた、無理はしないでね」

「私をお呼びとのことですが、よくない病気が見つかったのでしょうか」

「社長、どうか無理はせずに」


「実は、君たちに紹介しないといけない人がいるんだ。来て、僕の妖精さん」


 そして、フェアリーを呼ぶ。


「まあっ 嘘っ あのフェアリー?」

「紹介してもらえるかな、魔王ウィング」

「ああ、そういえば僕も名乗ってなかったね。彼はフェアリー。僕はイーサン・フライト。こっちは妻のアンナ。息子のライオスとテッド」

「よ、よろしく、フェアリー」

「パパ、妖精さんと友達なの? クール! クール! クウウウウウウル!!」

「落ち着いて、テッド」

「こっちは弁護士のスティーブ。秘書のサラ」

「あ、ああ。よろしく」

「お会いできてとってもとってもとっても光栄です!!!」

「それでハニー? どういうことなの?」

「ああ、僕はどうやら魔王に選ばれたらしくてね。フェアリー。説明を頼む」


 そして、説明をしてもらった。


「ハニー。私、独立はしないわよ! 百歩譲って州になるならいいけれど、祖国は絶対に離れないわよ!」

「州でも、そんなに簡単じゃないよ。せいぜい、別荘地さ」

「パパ、蟲族なってー!」

「はっはっは。いいとも」


 テッドに願われ、試しに変身する。ヒーローっぽい甲殻類に変身した。


「父さん、これ、他にも持ってるんだよね!?」

「興味があります」

「強い蟲族が2枚と、強い魔法少女になれる幼族が1枚、強くはないが好きに選べるのが3枚ある。ただ、普通の人は一枚しか使えないらしい」

「クウウウウウウル!! ぼくもヒーローなる!!!」

「結構強くなるので絶対幼児はやめて」

「だってさ。大きくなったらね」

「うわああああああああああああ!!」


 テッドが凄まじい勢いで泣き出した。


「子供でも大丈夫そうなのはないのかな?」

「ない。幼児に躾のなってないドーベルマンを任せたい? あっでも」

「何かあるのかい?」

「魔法書に幼児用の魔法を登録して、それを使えるようにしては」

「なるほど、いい考えだ」

「それ! それする! パパお願い!」

「私、機族に興味あります。秘書としての仕事もよりこなせるものと思います」

「父さん、僕は蟲族になりたい」

「私も蟲族でお願いします」

「ハニー。私は、幼族に興味あるわぁ。若いっていいわよね」


 ここぞとばかりのおねだりに苦笑する。


「眷属カードが2枚余るね」

「彼女と友達にあげたい!!」

「その子達は秘密を守れるのかい?」

「守れる!」


 しかし、それ頭から信頼するほどぼくは愚かではなかった。

 そこで、ニュース速報が入った。

 ヒーロー姿の青年が、傷を癒す動画だ。


「うーん、念の為、彼がどうなるか見てからにしようか。月基地も気になるし」

「そうね。それまで、みんなでゆっくりマイハウスのお城見学をしたいわ」

「お城!!」

「彼女と友達も連れてきていい!?」

「秘書として、社長のご自宅は知っておくべきと思います。秘書として」

「社員旅行は安上がりにマイハウスにしようか……」

「素晴らしいお考えです、社長」

「ショップで使用人用の民衆を買うかい?」


 フェアリーの提案に、全員が息を呑んだ。


「いかなる理由があろうとも、人身売買は駄目だよ、絶対」

「しかし、魔法が使えた方が城の維持には便利だよ。無料で雇うわけじゃない。彼らには彼ら専用のショップを用意して通貨を払うわけだし」

「むむ。その辺は後にして、今はここにいる者達だけで見学しよう。政府の魔王に対するスタンスを知ってから行動したい。幸い、派手に動いている先駆者はいるようだしね」


 と言うことで、しばらく様子を見ているのだが。

 どうやら、ヒーロースーツの青年は動画サイトを開設したらしい。

 格好いいポーズを取ったり、パトロールをする様子を流している。ポロポロ個人情報が流れているが、大丈夫だろうか。そもそも動画サイトに登録している時点で大丈夫じゃないか。

 普通に政府が照会すれば個人情報を差し出すはずである。当然の行いだ。むしろことが魔王なのだから、差し出さなかったら国家反逆罪まである。

 

 情報統制されているが、日本で浮遊城が目撃されたとの話もある。

 一見、大騒ぎされてはいない。

 しかし。しかしだ。

 なんだかピリピリとした雰囲気をぼくは肌で感じていた。

 これは水面下で何かが動いていると見た。

 息子達には悪いが、しばらくはダメだな。


「父さん! あのスーツの人、スコットさん! 政府に連れてかれちゃった!」

「そうだな。彼が戻って来なかったら対応を考えよう」

「僕も逮捕されちゃう!? 僕も動画出してたんだ!」


 ……この年頃の子供を信じるのは愚かなことだ。大人だって信じられないのに。

 だから、不用意にカードを与えた僕が悪い。怒っちゃダメだ。怒っちゃダメだ。

 そこへ、ドアベルが鳴った。


「政府のものですが、息子さんにお話があります」



 キレそう。

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