ターン0 魔王エンド

ーー我が名はジャーシン。古の魔王の1人が目覚めた祝いとして、新しき魔王を5人選ぶ事とした。汝は選ばれた。ついては、「魔王様スタートセット」と「魔王様応援セット」「魔王様のガチャチケット」を配布する。


「なんだって? は、私が、魔王?」


 妖魔と戦っていた私は、血を吐きながら呟いた。

 あはは、なら納得だ。だって私は、あろうことか妖魔に同情していたから。

 その挙句、小さな妖魔を庇って殺されようとしている。


ーーそうだ。魔王様応援セットは汝の希望を反映してやろう。汝は何を望む?


「私、は」


 それは悪魔の囁きだった。親友の顔が思い浮かび、そして私が庇っている小さな体温を感じて、きゅっと小さな命を抱きしめた。なんでも望みが叶うとするならば。


「この子を人として歩ませたい」


ーーふむ? しかしただの人間にするなど、勿体無い。力を持った人間ではダメなのか?


「普通の人がいいんだよ。なんの力もない、普通の人が」


ーー良かろう。では、其方にはそのような力を与えよう。後はショップコインでくれてやる。魔王としての名を名乗れ。


「……私は……私が魔王だというのなら……私は、悲しみを、くだらない争いを、全てを終わらせる者でありたい。私の魔王としての名は、エンドだ」

 

ーーエンドだな。楽しい魔王ライフを送るが良い。魔王エンド。我が名はジャーシン、魔王を導きし者……


 そして声と気配は遠ざかっていく。


「何をぐだぐだと言っている!」


 激昂した男の妖魔が、私に腕を振るう。そして、呆然とした。


「力が出ないだと!? 貴様、何をした!??」


 驚いて妖魔を見ると、どうみても人間にしか見えなかった。裂けた口もツノも何も無い。

 そして、庇った子供の妖魔からもツノが消えていた。


「う、うわああああああああああ!!」


 妖魔が逃げていくのを確認して、私は気絶した。
















 目が覚めると、組織の医務室で親友が手を握っていた。

 ホッとした顔。


「お前さぁ! 子供好きも程々にしろよ! 下手したら子供共々死んでたんだぞ! 子供も救って自分も無事なのが格好いいんだよ! 綺麗事言うならそこまでやってからにしろ。三日も寝てたんだからな!」

「あの子は……」

「親はわかんないし、戦いに巻き込まれたショックで記憶もない。でも、生きてる。かわいいし、頭良さそうだし、里親はすぐに見つかるだろ」

「そうか」


 私も、ホッとした。


「君が助けてくれたのかい? ありがとう」

「ベッ 別に! 友達を助けるのは、当たり前、だろ?」


 照れながら言う彼の心が嬉しい。彼の隣に立つのに相応しい男でありたいと思った。

 まさか、自分が真正面に立つことになるとは思わなかったけれど。申告したら問答無用で殺されるだろうし、それは嫌だから仕方ないね。……それに、私は私の理想を追い求めたい。

 全ての妖魔を人にして、争いを終結させる。これが私の新たな目標だった。


「今日の、あれ、三日前だっけ? のことは色々応えたよ。しばらく1人になりたいかな」

「はぁ、休みは一日だけだからな! それ以上は、俺もちょっと厳しいし」


 そういえば、親友の目に隈がある。……仕事、肩代わりしてくれたのか。

 

「ありがとう。もうちょっとだけ休ませてもらうよ」


 保健室から自室へ。1人だけになって、私は声を掛けた。


「もういいよ」

「初めまして、魔王エンド。私はフェアリー。魔王様のナビとなる、魔王様のコピー」


 影から現れたのは、私そっくりの小さな妖魔だった。妖精みたいだ。


「黒峰 武人だ。よろしく」

「私が魔王との事だけど、魔王って他に5人もいるの?」

「その通りだよ」

「そうか。魔王のこと、色々教えてくれるんだよね?」

「もちろんだよ。時間もないし、早速始めようか。鏡を見て、服を脱ぐイメージをして」


 鏡には真っ白な化け物が写っていた。人間離れどころか、人間と間違えるのすらあり得ないレベルだった。

 白き影。白き怪物。……これが私。消しゴムみたいだ。


「これが君の真の姿だ。この姿だと魔法が容易に扱える。レベルが上がると、どんどん禍々しくなっていくよ。魔力は感じ取れるかな? この魔力は魔法生物の生命維持や、領地の維持、ダンジョンコアの稼働に使う。魔力を垂れ流しにしていると周囲のものが魔力に適応して進化するんだ、気をつけて」

「こう、かな」

「……さすが。完璧な魔力制御だ。次にシステムウィンドウって思い浮かべて」


 俺の頭の中に、四角いウィンドウが現れる。


『ショップ

 アバター

 スキル

 アイテムボックス

 マイハウス

 領地

 配下

 魔石の生成』


「アイテムボックスを選択して。スタートセットとガチャカードがあるはず」


『魔王様スタートセット

 ジャーシン様のショップカード 50

 魔王様ガチャカード』


「眷属カード3まい、配下カード3枚、領地カード1枚、魔法カード5枚、ダンジョンコアカード3枚、魔法書カード1枚、アバターカード1枚、ショップ・ガチャ用アイテムセット1枚、ジャーシン様のショップコインカード60枚、魔物限定現代の魔王ガチャSSR確定チケット1枚。SSR確定古の魔王ガチャ1枚、古の魔王ガチャ10枚、SSR確定現代の魔王ガチャ1枚、現代の魔王ガチャ10枚、魔王ショップガチャが5枚あるね」


 上げていくと、フェアリーが頷いた。

 

「まず、ショップを選択して、店の名前を設定するといい。ショップアイテムセットも全部移して。これが私達の普段使うお店になる。お給料の配付もよろしくね。君が通貨を発行するんだ。少ないのも困るけど、発行しすぎたらアイテムがなくなるから気をつけて」

「設定か……」


 お腹が空いたので、携行食を食べながら考える。タブを見るに、他の魔王に見えるんだよね、これ。

 あ、隠す事もできるんだ。でも隠すと他の魔王のお店は利用できないのか。名前は……魔王堂でいいや。

 スーパーチートショップってなんだろう? ウェディングドレスがたくさんおいてある……。

 

「設定したよ」

「よし。次は魔石の生成ボタンを開いて、ジャーシン様に献上、魔王ショップ、貯蓄で1:1:8で設定するように。ショップで魔石が買えることは大事だよ。なにせ、命の源だからね。ジャーシン様に魔力を献上することで、ジャーシン様のお店の通貨も貰えるよ。領地があったらそこにも魔石をばら撒くんだけど」

「わかった。今の所、使い道はないから4:4:2でもいいかな」

「君の判断に任せる。次に魔法書カードを使って設定を行う。これは君のテリトリーで許可され、魔力を持った人間が魔法を使えるようになる書だ。魔法書にこの国の言葉である和語、魔王語、あと契約時の君の知識がダウンロードされている。これは翻訳魔法や君が新たな命を生み出す際に使われる。書物やデータや君自身が知識を増やすことでもアップデートしていける。魔法カードを使うことで、ここに魔法を登録できる」

「魔法は……選択できるんだ。自分でも設定できるし、面白そうだね」

「まあね。眷属カード、配下カード、アバターカードは他人に力を与える、生み出す、自身に使うという違いがある。既存の種族から選べるけど、自分で設定もできる。ただし、魔法カードの比ではない難しさだよ」

「じっくり練習するよ」

「領地カードは領地を設定できる。ダンジョンコアは魔物と資源溢れる迷宮を設定できる」

「ダンジョンと領地か。スタンピードはする?」

「それを決めるのは君だよ、次にガチャ」

「へぇ、ガチャ」

「レッツオープン!」



 ガチャの結果はこちら。


 魔物「シルクスパイダー」

 現代家電セット:領地

 闇の衣

 

 ポーション 4

 アバターカード 勇族

 配下カード 蟲族

 配下カード 符族

 配下カード 幼族

 魔物「シャドウデーモン」

 魔法カード「プロテクト」

 魔法カード「マジックシールド」

 魔法カード「サンダーアロー」

 ジャーシン様のショップコイン 3

 宝石セット

 薬草園:マイハウス

 素敵なマンション:マイハウス

 中級者錬金素材セット(古代)

 蟲族用ショップアイテムセット


「ふむふむ。ショップアイテムセットはショップに、魔法カードは魔法書にセットしておくといい。ショップコインも使っても良さそうだね。マイハウスがあるから匿っておけるし、配下カードは使ってもいいんじゃないかな。薬草園もあるし、配下かアバターで雫族を使ったら? 彼らは錬金術が使えるから」

「それってポーションが使えるってこと? 傷薬だよね。欲しいな。符族と幼族、雫族のショップアイテムセットは買った方がいいかな?」

「あると凄く助かると思うよ」


 アバターカードで雫族にセットする。外見も変えられたけど、これはそのままで。

 配下カードでも、雫族を1人用意する。ショップアイテムセットも追加。

 ガチャの配下カードを全て実体化して、マイハウスに押し込めた。


「こんなものかな」


 準備を終えると、ニュースサイトを見る。他の魔王の動きがあるかな、と思ったから。

 まあ、ないだろうけど。


「月に大型の蟲と基地を発見した?」

「宙行蟲だね。お仲間だよ」

「月に基地を作ってどうしようと言うのかな」

「昔の魔王様は宇宙進出してたよ」

「魔王すご」


 でもまあ、ひとまず放置かな。

 食堂で食事をして細々とした用事を済ませたら、仕事に復帰しよう。

 あまり親友に負担をかけてはいられない。

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