ターン0 魔王キエタ

ーー我が名はジャーシン。古の魔王の1人が目覚めた祝いとして、新しき魔王を5人選ぶ事とした。汝は選ばれた。ついては、「魔王様スタートセット」と「魔王様応援セット」「魔王様のガチャチケット」を配布する。


「魔王? いいだろう、魔王になってやる! 地球侵略だ!」


 酔っ払っていた私は、幻聴と思われたそれに景気よく叫んだ。端的に言って絶望していた。

 見つからないスポンサー、消えていく預貯金、助手にまで逃げ出されてしまった。今なら地球侵略できる気がした。

 バーの周囲のものが、狂人を見る目で見る。


ーーよろしい。汝の目的は侵略と。それに沿った力をくれてやろう。それでは魔王様応援セットの内容を決めよう。汝は何を望む?


「決まっている! 大船団と月基地、軍勢だ!」


ーー意気や良し! 特別に認めよう。さあ、運命のカードを捲るが良い。


 そして、私の手にカードの感触が現れる。


「?」


 捲ると、ローブの男が液体を浮かべる絵が描かれていた。そのカードは消えてしまう。


ーーふむ。雫族。錬金術師の軍勢だな。最低限の物資は用意しよう。最後に、魔王としての名を名乗れ。


「消えた……?」


ーーキエタだな。楽しい魔王ライフを送るが良い。魔王キエタ。我が名はジャーシン。魔王を導きし者……


 そして声と気配は去った。

 私は首を振った。帰ろう。今日はもういくらなんでも飲み過ぎだ。





 帰ると、私はろくに着替えもしないまま、眠りについた。





 目が覚めたのは三日後だった。


 起き上がった私は、毎日の癖でニュースをつける。


「月に生物の基地だって? おい嘘だろ、三日も寝てたのか?」


 どうやら、望遠鏡で空飛ぶ巨大な昆虫を見つけたらしい。

 そんな馬鹿な。今日はエイプリルフールだったか?

 お腹が盛大になり、よろよろと起き上がる。食事を用意しなくては。何かあったかな?


「勇猛かつ愚かなる魔王様キエタ様! 出陣の用意は出来ております。まず、どこを襲いますか?」

「なんだって?」


 呼びかけられて振り向くと、私そっくりの顔の小さなフェアリーが私に話しかけていた。

 一瞬声をうしない、そうして目を擦った。


「出陣だって?」

「はい! 三日前にジャーシン様にそう願いました! 魔王キエタ様!」

「……えーと? 大船団と? 月基地と? 錬金術師の軍勢だっけ?」

「さようです、魔王キエタ様!」


「……クーリングオフは出来るかね?」

「もう貴方様は人間ではありません。月基地には貴方様の思いつきのために命を得た哀れなる兵士達がおります。責任をとって下さい。貴方様が月基地なんていうから、下手したら一月で飢え死にです」

「それは私程度にどうにかなる事なのかね?」

「貴方様は魔王様です。もちろんできます」

「そうか。少し待ってくれ」


 私は枕に口を当てて、絶叫した。





 

 










 ペットボトルの蓋にハチミツを入れてご馳走し、自分もトーストに目玉焼きを食べて人心地ついた私は、重々しく呟いた。


「まとめよう。邪神様と」

「ジャーシン様と」

「ジャーシン様と、古の魔王、そして、私の同期の魔王が4人。あと、君と、雫族? 錬金術師の軍勢がいるわけだな」

「大船団も忘れないでください。宙行蟲という、賢き蟲達です」

「そ、そうか。君の名前は?」

「初期設定はフェアリーとなっております。名付けられる事で私はより強い自我を得られます」

「そうか。私はアレクセイ・ハンターという。君はアレンと呼んでも?」

「アレン。私の名はアレン。アレンです!」

「よろしく、アレン」


 アレンは嬉しそうに飛び回ると、ごほんと咳払いした。


「それでは、地球侵略の作戦会議といきましょうか」

「酔っ払いの戯言を基本方針に据えるのはやめよう! なんとか平和的な行動をするんだ。ええと、私はもう魔王だと言ったが、具体的な手札を確認させてほしい」

「まず、魔王キエタ様の初期ステータスはガッチガチの魔法タイプです。攻撃魔法や、何かを作ることに長けています。まず、鏡の前で服を脱ぐようなイメージをして下さい」


 言われた通りにすると、私は耳の長いエルフのような姿になっていた。


「これが魔王キエタ様の真のお姿です。この姿だと魔法が容易に扱えます。レベルが上がると、どんどん禍々しくなっていきます。魔力を感じ取れますか? 暖かい流れです。この魔力を定期的に錬金術師達や宙行蟲に補給しないと死んでしまうのでご注意ください。魔王とは、莫大な魔力を生み出し、奇跡を起こす生き物なのです。魔力を垂れ流しにしていると周囲のものが魔力に適応して軽率に進化してしまうので、元の姿に戻って下さい。そのうち魔力を垂れ流さないようにする訓練をしましょう」

「色々爆弾発言なんだが、月基地に行かないといけないのかな?」

「領地までなら転移魔法で一瞬です。一方通行ですが」

「片道切符かぁ」

「色々準備をすれば、簡単に往復できるようになります」

「お願いするよ」

「それでは、システムアクセスと思い浮かべて下さい」


 私の頭の中に、四角いウィンドウが現れる。


『ショップ

 アバター

 スキル

 アイテムボックス

 マイハウス

 領地「月基地」

 配下

 魔石の生成』


「アイテムボックスを選択して下さい。スタートセットとガチャカードがあるはずです。中身を見て下さい」


『魔王様スタートセット

 雫族用軍需物資

 宙行蟲用軍需物資

 魔王様ガチャカード』


「眷属カード、配下カード、領地カード、魔法カード、ダンジョンコアカード、魔法書カード、アバターカード、ショップ・ガチャ用アイテムセット、ジャーシン様のショップコインカード、魔物限定現代の魔王ガチャSSR確定チケット。あと、雫族用と宙行蟲用の軍需物資があるよ。ガチャの方は、SSR確定古の魔王ガチャ、古の魔王ガチャ、SSR確定現代の魔王ガチャ、現代の魔王ガチャ、魔王ショップガチャ」


 これで全部、だろうか。


「では、まず物資を提供しましょう。ショップを選択して、店の名前を設定して下さい」

「ええと、魔王キエタの魔法ショップでいいかな?」

「よろしい。雫族用軍需物資と宙行蟲用軍需物資、ショップ・ガチャ用アイテムセットをショップに移して下さい。金額は初期設定のままで良いと思います」

「これでいい、かな?」

「魔石の生成ボタンを開き、領地に設置、ショップに手配、ジャーシン様に献上、貯蓄で2:2:1:5で設定して下さい。これで領地にも供給して民も魔石を買えるようになります」

「……出来た」

「最後に、配下欄でショップ権限を追加して、部隊に通貨を発行して下さい。これでひとまず餓死はないはずです。お給料日を忘れないように!」

「なるほど」

「品揃えが悪くなってきたら、ジャーシン様のショップで買うか自前で物資を用意して販売して下さい。ジャーシン様のショップコインカードは全て使ってコインに戻してしまいましょう」

「わかった」

「次に魔法書カードを使って下さい」

「こうかな?」

「今、魔法書には輝星語、魔王語、魔王様契約時の貴方様の知識が入っています。ここに書物やデータや知識をアップロードすると、配下達が閲覧できるようになります。魔法書のレベル2のページに、魔法カードを使って領地とこの場を繋ぐ転移魔法を記すことで魔王様がレベル2と認めた者のみ転移魔法が使えるようになります」

「魔法カードは白紙だけれど、好き勝手設定できるのかな?」

「魔王様の力と魔法カードのレアリティの及ぶかぎりは。既存のものからの選択もできます。慣れないうちは既存のものの方がいいです。攻撃魔法と防御魔法を追加で用意しておいた方がいいでしょう。魔法カードは全て使い切らないように。魔法を設定したら、配下コマンドで魔法書使用権限を付与して下さい」

「ふむふむ」

「ダンジョンコアは三つとも月基地に設置して下さい。畑代わりになりますから。設定は農業・鉱業・一般で」

「わかった」

「アバターカードは変身できるカードです。さまざまな種族に変化できますし、自分でカスタマイズも可能です。この設定は後にしましょう」

「眷属カードはアバターカードの他人バージョン、配下カードは配下を得られます。後は領地カードですね。今回は月基地の強化に使ってしまいましょう」

「魔王ガチャは他の方の魔王ショップが充実したら使いましょう。他のガチャカードは使ってしまっていいと思います。むしろこの結果でアバターカードと配下カードを決めましょう」

「わかった」



 ガチャの結果はこちら。


 魔物「シャドウデーモン」

 ダンジョンコア(古仕様)

 領地用錬金術師のラボ(現代仕様)

 ポーション 3

 魔石セット

 アバターカード 武族

 アバターカード 符族

 配下カード 魔族

 配下カード 機族

 眷属カード 勇族

 民衆カード 鏡族

 魔法カード「サンダーレイン」

 魔物「スライム」

 金のインゴット 2

 宝石セット 1

 初心者錬金素材セット(現代)1

 ジャーシン様のショップコイン 2

 施設:武器庫

 獣族用ショップアイテムセット


「ふむぅ。手持ちのアバターカードは雫族を選んでください。配下カード、民衆カードは領地指定で使って下さい。ショップアイテムセットはショップにセットして下さい。鏡族の使い魔にも使えますので。魔法は早速セット。ラボと武器庫は領地にセット。コアは十分なのでとっておきましょう。ショップコインカードはコインに変えておいて、スライムは使える魔物なので領地に飛ばしておいて下さい。魔法カードは魔法書にセット。配下は侍らせますか? 領地に送りますか? ロボットみたいな種族と独自の魔法を使う種族です」

「身元不明者を手元に置く感じになるから、領地かな……」

「ならそうして下さい。戦士が圧倒的に足りないですし、せっかく獣族用ショップアイテムセットが手に入ったので配下カードは獣族がいいと思います。これも領地に送って下さい。シャドウデーモンだけは護身用で影に潜ませておくように。配下や民衆に通貨の発行をするのを忘れずに」

「わかった」

「大まかな指示を出しておいて下さい。まずは生活の樹立がいいでしょう」

「わかった」

「後は、国力増加しつつ、外交をどうするかですね。一週間したら視察もして下さい。幸い、領地は月。たどり着くまで何ヶ月もかかると思われます。その間に修行もしないと。眷属カードを使って身近な人間を下僕にするのもありです。急ぎの仕事はこんな感じですね。種族の説明はゆっくりします」

「ありがとう。ところで、私の専攻は生物学、それも環境適用の為の進化なのだが」

「好きなだけ研究して下さい。とりあえず、植物に魔力を与えることから初めては?」

「ありがとう。後は研究費用だね。勇族というのは?」

「こちらでいうヒーローみたいなものに変身できる種族です」

「なるほど。眷属になると、忠誠心が湧いたりするのかね?」

「念話ができるようになりますが、忠誠心は自分でどうにかして下さい」

「そうか。いや、都合がいい。心を操るなんてぞっとするからね」


 私は、シャワーを浴びて出かける準備を始めた。



 




 

 

 

 

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