ターン0 魔王セレクト

ーー我が名はジャーシン。古の魔王の1人が目覚めた祝いとして、新しき魔王を5人選ぶ事とした。汝は選ばれた。ついては、「魔王様スタートセット」と「魔王様応援セット」「魔王様のガチャチケット」を配布する。


「……? ガチャ……? 何かのゲーム?」


 暗い中を、足を引きずって歩く。家賃の安い所で選んだから、家が駅から遠い。

 眠くてぼんやりする。最近ろくに寝ていない。もう限界だ。

 とうとう立っていられなくなって、公園で休んでいた所だった。


ーーそのようなものだ。魔王様応援セットは汝の希望を反映してやろう。汝は何を望む?


「希望……俺の望み? 俺は、選ばれたい。望まれたい。こんなすりつぶされる人生じゃなくて、大事にされたい。それかずっと家に引きこもっていたい」


ーー汝は今、選ばれたとも。よろしい。ならば汝にはマイハウスに城と家臣を用意しよう。運命のカードをめくれ


「ははっなにそれ。ん?」


ーーでは、魔王としての名を名乗れ。


「……セレクト」


 言いながら、カードを捲る。

 蟲族:配下と書かれたカードと、軍勢:獣族と書かれたカード、民衆:忍族と書かれたカードが落ちた。

 

ーーセレクトだな。楽しい魔王ライフを送るが良い。魔王セレクト。我が名はジャーシン、魔王を導きし者……


 そして声と気配は去った。

 ドッと疲れて、瞼を下ろす瞬間。人が突如として現れた。


「人間か。不運なことだ」

 

 男が腕に光を集める。


「は?」


 目を瞑る。衝撃。

 俺は、空飛ぶヒーローに横抱きにされていた。


「我が魔王様に手を出す下郎。死をもって償うといい」


 昆虫のようなデザインのそのヒーローは、男がしたのと同じように光をぶつける。


「はっ 魔王!? 魔王になるべきは我が主ただ1人!」

「楽しそうじゃん」


 翼の男が、影から現れる。


「魔王様。魔王セレクト様。ここは俺達に任せて、貴方様は休んでいらしてください」


 狼人間が、影から出てくる。


「魔王様を傷つけるものは何人たりとも許さない」


 なんなんだ。なんなんだこれ。高揚感が、選ばれたのだという実感が足下から這い上がってくる。

 しかし眠気には勝てず、俺は気を失ってしまった。










 目が覚めると、知らない天井だった。天蓋というのだろうか。ベッドに天井があった。そして、俺そっくりの顔をした妖精が浮かんでいた。忍服の女性が、無言で礼をして、着替えと顔をあらう道具を用意してくれる。されるがままにして会話をする。


「ようやく起きたな。俺はフェアリーだ。魔王セレクト様」

「あ……麦原 一星。麦原一星だ」

「いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

「悪い知らせを」

「君は三日寝てた。仕事は首!」

「ああ……。それで、いい知らせは?」

「君は魔王様に選ばれた!!」

「悪い知らせかな? デスゲームっぽかったけど」

「ああ。攻撃的な魔王様もいるよね。初っ端からエンカウントするとは思わなかったけど」

「で、選ばれた俺としては、なにをすれば良いんだ?」

「魔王とは、新たな生態系だ。母なる大地だ。君の魔力によって、俺達は第二の呼吸をする。俺たちの願いは、ただ一つ。君の無病息災だ。それが俺たちの繁栄へと繋がる」

「俺の……」


 顔を洗い、すべすべとした仕立てのいい服を着て、連れ出される。広いテーブルで食事の用意がされていた。座るのは俺だけだ。目の前には、ご馳走がずらり。


「あー。助けてくれた人たちに挨拶がしたいんだけど。一緒にご飯は食べられない?」

「朝ご飯を食べている間に説明をしようと思うのだけど」

「なら尚更だよ。一蓮托生なんだろ?」

「まあ、そうだね。蟲族、そして軍団長と副軍団長を呼んできて。執事長も」


 そして、テーブルに料理と人数が増える。イケメンが並ぶ。


「えっと、昨日の人たちは?」

「昨日の人たちです、魔王様」

「そ、そう。君の名前は?」


 一番近くのイケメンに問う。


「蟲族でござる。名前は決まっておりませぬ」

「あ、俺がつけるのか」

「そうでござる」

「昆虫っぽいヒーローだったのは君だよね。じゃあ、カブト。それとも、和国語で麦原 兜っていった方がいい?」

「魔王様。変身前と変身後は名前を変えた方が。それに、苗字も変えた方がいい。これから潜入工作が重荷なるだろうから」

「そ、そうか。じゃあ、武田 刀司」

「ありがたき幸せ。一の家臣として、精一杯お仕えするでござる」

「ええと、鳥の人は」

「はいはい! 副団長の俺様も名前欲しいです!」

「じゃあ、鳥の時はタカミネ。飛山 翼」

「翼! 翼、俺、翼!!」

「犬、あ、狼の人はキバ。走原 颯斗」

「軍団長のキバ。魔王セレクト様に忠誠を」

「最後に、身の回りの世話を取り仕切る執事長を紹介するよ」

「よろしくお願いいたします」

「クナイ。黒木 乱丸」

「ありがたき幸せ」

「で、フェアリー。君は俺のコピーだから、双星でいいかな?」

「サンキューな!」

「後の人達の名付けは後でね」

「……全員に名付けるつもり?」

「だめ、かな、名簿作りながらさ」


 皆は、破顔した。

 それから、食事をした。


「じゃあ、最終目標は人類を押し退けて、僕たちが地球を乗っ取ること?」

「そこまで行くと極端だけどね」

「……でも、行けるところまで頑張るよ。よくしてくれる君たちに、よくしたいんだ」


 天涯孤独だった。でもこれからは違う。俺には大切な人たちがいる。その人の為に忠誠を尽くして頑張りたい。

 食事を終えると、早速特訓だ。


「じゃあ、鏡を見て、服を脱ぐイメージをして」


ヒョロヒョロとした、青白い長耳の男が映った。死人みたいだ。


「これが君の真の姿だ。この姿だと魔法が容易に扱える。レベルが上がると、どんどん禍々しくなっていくよ。魔力は感じ取れるかな? この魔力は君の配下や眷属の生存、ダンジョンコアの稼働に必要なものだ。魔王とは、魔法生物にとっての太陽や酸素といった絶対必要なものなのさ。魔力を垂れ流しにしていると周囲のものが魔力に適応して軽率に進化してしまうので、気をつけて。ここなら大丈夫だけどね。君は魔力の垂れ流しが多い傾向のようだね。少しずつ訓練していこうか」

「俺は垂れ流してもらった方が嬉しいけどな!」

「こら、タカミネ。だが、ここぞというときに一気に垂れ流して配下をパワーアップという手段はないではない」

「遮断とブッパ、両方練習しようか。次に、システムアクセスと思い浮かべて」


 俺の頭の中に、四角いウィンドウが現れる。


『ショップ

 アバター

 スキル

 アイテムボックス

 マイハウス

 領地

 配下

 魔石の生成』


「アイテムボックスを選択して。スタートセットとガチャカードがあるはず」


『魔王様スタートセット

 蟲族ショップアイテムセット

 獣族ショップアイテムセット

 忍族ショップアイテムセット

 魔王様ガチャカード』


「眷属カード、配下カード、領地カード、魔法カード、ダンジョンコアカード、魔法書カード、アバターカード、ショップ・ガチャ用アイテムセット、ジャーシン様のショップコインカード、皆のショップアイテムセット、魔物限定現代の魔王ガチャSSR確定チケット。SSR確定古の魔王ガチャ、古の魔王ガチャ、SSR確定現代の魔王ガチャ、現代の魔王ガチャ、魔王ショップガチャ」


 上げていくと、フェアリーが頷いた。

 

「流石ジャーシン様。まず、ショップを選択して、店の名前を設定するといい。これが僕達の普段使うお店になる。今日の夜にでも全員にお店の仕様許可とお給料振り込みよろしく!」

「セレクトショップ、と。あれ、タブが増えた?」

「他の魔王のショップだよ。この地域には魔王が5人いるからね」

「他の魔王から隠せないかな」

「設定できるよ」

「じゃあ、隠す。君たちが使えればいいんだし」

「じゃあ、ショップ・ガチャ用アイテムセットを全部ショップにうつして」

「了解」

「魔石の生成ボタンを開いて、ジャーシン様に献上、魔王ショップ、貯蓄で1:1:8で設定するように。ショップで魔石が買えることは大事だよ。なにせ、命の源だからね。ジャーシン様に魔力を献上することで、ジャーシン様のお店の通貨も貰えるよ。領地があったらそこにも魔石をばら撒くんだけど、今はマイハウス。君の腹の中だから、心配しなくていいかな。ショップコインカードは全て使ってしまうといい」

「わかった」

「次に魔法書カードを使って設定を行う。これは君のテリトリーで許可され、魔力を持った人間が魔法を使えるようになる書だ。魔法書にこの国の言葉である和語、魔王語、あと契約時の君の知識がダウンロードされている。これは翻訳魔法や君が新たな命を生み出す際に使われる。書物やデータや君自身が知識を増やすことでもアップデートしていける。魔法カードを使うことで、ここに魔法を登録できる」

「魔法は……選択できるんだ。自分でも設定できるなんてすごい」

「後でゆっくり試してみるといいよ。眷属カード、配下カード、アバターカードは他人に力を与える、生み出す、自身に使うという違いがある。既存の種族から選べるが、自分で設定もできる。ただし、魔法カードの比ではない難しさだよ」

「それは想像つくよ」

「領地カードは領地を設定できる。ダンジョンコアは魔物と資源溢れる迷宮を設定できる」

「ダンジョン!」

「流石にマイハウス内では無理かな。次にガチャを使ってしまおうか」

「ガチャ。楽しみ」


 ガチャの結果はこちら。


 魔物「スケルトンデーモン」

 エイリアンの船

 ハイパーデラックス魔導科学コンピューター

 ポーション 2

 アバターカード 武族

 配下カード 鏡族

 眷属カード 獣族 

 眷属カード 幼族

 魔法カード「フレイムストーム」

 ジャーシン様のショップコイン 5

 鍛治工場:領地

 鏡族用ショップアイテムセット

 体族用ショップアイテムセット

 薬草セット

 大農園:マイハウス

 宝石セット

 全種族対応スペシャルガチャセット

 全種族対応ご馳走ピックアップガチャセット


「武族、鏡族、幼族、体族って何? 獣族はタカミネやキバってわかるけど」

「武器になれる種族と、使い魔を操る種族と、魔法少女・少年になれる種族、単純に力が強い種族だ」

「おお! 結構いいの当たったな。ガチャとショップアイテムをセットしてと。後は資金調達だな……」

「民衆セットの我らではどうしても能力が低いですから、諜報用の配下を呼び出してはと思います」

「わかった。3枚あるけど、他におすすめは? エイリアンの船とか動かせそうな種族いる?」

「それなら機族がいいんじゃないかな。機械に興味あるならアバターカードもそれにするといいよ。生体ロボに変身できるから。ただ、魔法関係に弱い布陣だから、魔法を使う魔族、呪符を使う符族、錬金術を使う雫族のどれかも選んで置くことをおすすめするよ。忍族は全部にちょっと強いけど、あくまでもちょっとだから」

「薬草あるし、雫族かな」

「資金調達に使えそうだし、いいと思う」


 早速パソコンの電源ボタンを押してみると、たやすくネットにつながった。

 マイハウスの中なのに、すごい! アイテムボックスなども一覧で見れてやりやすく、プリンターまでついている。最高だ!


 ニュースサイトを立ち上げると、月基地ができたという。お仲間のようだ


「やれやれ。魔王達はどいつもこいつもアグレッシブだね」

「最終的に俺たちが勝てればいいよ。今は潜伏の時だ」

「……頼もしいことで」

「あ。でも眷属カード、一枚だけわがままで使いたい」

「なに?」

「もうやめた先輩に渡したくて。たくさんお世話になったんだ」

「良いんじゃないかな」


 そして、俺は宛名だけ書いた封筒にカードを入れて、先輩の所に送った。

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