私は古文が苦手なので、表題の唄を知りませんでした。実際にはもう少し長い歌で、内容は
「人間はだれでも死ぬもの、生きたときのことをしのぶものとして、生きているあいだになにをしておこうか」
というものだそうです。大抵の人間は私も含めて、いつか忘れられてしまうものです。ですが信長さんは約600年経た今でも、語り草になっています。
お話の作者さんは、その語り草の抜群の語り手です。この時代に登場するヒーロー達を綺羅星の様に語り尽くします。
これまでに作者が語って来たヒーローの大集結。私にとってはウルトラマンや仮面ライダーが、大集結した様な感じでした。過去のお話を読んでから、この大作を見ると一味違います。
あ、でもこれを読んでから、各々のヒーローのお話を覗きに行っても、とても楽しいと思いますよ。
最後になりますが、私の推しは服部半蔵さんになりました。格好良いですねぇ。
信長といえば誰でも知っている歴史上の有名な人物だ。この物語は信長と、そして帰蝶を取り巻く歴史の流れを描いている。
歴史を知らなくても楽しめる物語ではあるが、知っているとこの物語は更に楽しめてしまう。歴史上であれば早々に退場してしまう人物を鮮やかに生き生きと書いているからだ。
まさか、ここで、と歴史が繋がる瞬間は見ていて気持ちが良い。
私が好きなのは、帰蝶が啖呵を切る場面。これはもう格好良い。読んでいてよくぞ言った、と痺れてしまう。からっとした格好良さがこの物語にはある。
何も考えず、この物語を最後まで読んで欲しい。驚きながら、涙ぐみながら、彼らが歩む歴史の途をどうか最後まで見届けて欲しいと思う。
物語を見届けながら思わず、頬が緩んでしまう。それぞれの繋ぐ思いの形に胸を打たれてしまう。
死のふは一定、戦乱を駆けた彼らを生き生きと、色鮮やかに描いている物語です。
織田信長は乱世の日本を統一に導いた武将ですが、同時に、信長の生涯は、暗い影やスキャンダルにも満ちています。
それは、信長が若かったころ、歴史の舞台に登場するころからしてそうです。父の葬儀で焼香を投げつけた事件、傅役(もりやく)平手政秀の不可解な自害、そして弟の信行との不和など、数々の事件が伝えられています。
しかし、この物語は、巧みな解釈で、その「暗い影」を振り払い、一途な若者信長と、信長に嫁いできた濃姫(帰蝶)との青春物語として、桶狭間の戦いまでの「初期の信長」の日々をさわやかに描いています。
信長を支え、たまに嫉妬を見せる濃姫、若き日の木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)、陰で存在感を示す実力者松平元康(家康)、そして関西弁をしゃべる愉快で軽めの明智十兵衛(光秀)などのキャラクターも斬新です。また、「このひとがここに出て来るのか!」という意外な登場人物も登場して、物語を彩ります。
「ラスボス」である今川義元も、惰弱で貴族趣味の殿様ではなく、実力でその地位を手にした、まるで後の信長を思わせるような英傑として描かれます。
若い日の信長が、先を行く者たちやまわりの人びと、若者たちとどう交わりながら、広く知られる「天下統一を目指す歴史的人物」へと成長して行くのか。
繰り返しうたわれる「死のうは一定(いちじょう)…」の唄とともに、物語をお楽しみください。
誰もが知っている桶狭間の戦いの、誰も知らない真実の姿が見える。
そんな物語のように感じました。
なぜ信長は東海道一の武将に勝てたの?
義元の驕り? 信長の勢い?
歴史の授業や様々な創作物で「桶狭間の戦い」には触れてきたけれど、私は殆ど分かっていなかったみたいです。
この作品を読むと、戦はそんな簡単なものではなくて、国を率いる武将たちが、その元にいる多くの人々が、守るべきもの果たすべき夢のために策略をめぐらせ戦っていく……色んなものが折り重なったものなのだとしみじみ感じる事ができました。
そしてこの物語の醍醐味は「人間」をとても丁寧に描いている所です。
親子、夫婦、師弟、主従の愛情と厳しさを。
そしてどこか人の温かさというか希望を感じさせてくれる物語になっています。
また有名人がいい感じにストーリーに絡んでくるのも魅力です。
作者のサービス精神(悪戯心?)にくすりとしながらも、テンポよく読み進めることができる素敵なスパイスになっていて楽しいのです✨
歴史好きはもちろん、そうでない方にも是非読んでいただきたい、とても面白い小説です。
これまでに無い桶狭間の戦いの世界を味わい、歴史の浪漫に浸ってください!
尾張統一前のまだ若き信長、その生き様をご存じでしょうか?
先見の明と鉄砲で自在に戦う信長、その隣で戦を共にする謎多き美女である妻・帰蝶。
特に本作の帰蝶さん、今和泉式部と伝説の美女に擬され、それでいて赤備の武者として刀を振るい、信長の隣で参謀役を務める、無敵のヒロインとして活き活きと描かれます。
ともすれば、織田信長の活躍を喰ってしまいそうなほどに!?
時代は決して強くない織田家。
尾張の内外に敵を複数抱え、兄弟仲も良好とは言えない不安定な中、本作の信長は思慮深く、しかし個性的に自勢力を統合します。
隣国には時代を代表する東海一の弓取り・今川義元。その傍らには謀将として名高い太原雪斎。
武田信玄を、北条氏康をも巻き込む大戦略、そして喉元に迫る刃。
対する自陣には、後の天下人や加賀百万石など、早々たる武将が惜しげもなく活躍の場を奪い合います。
夫婦の情が通い。
親子の絆があり。
子弟の、父子の信義があり。
世の中に数多ある信長像、しかし本作はそれらとは異なる魅力を提供してくれるでしょう。
地図を眺めながら、作者様が構築された壮大な謀略を俯瞰するのも楽しいかと。
教科書などでも馴染の人物が物語中にひょっこり顔を出すのを見つけて、クスリとするのも面白いです。
非常に親しみやすい歴史物語、今宵の御供になどいかがでしょうか。
んー。さすが。惹き込まれていく見事な文体。
読み始めると止まらない魅力があります。
恐らく、このこなれた書き方、既にファンも多かろうと思います。
僕のレビューで何をかいわんやですが、もっと多くの方に知ってもらう助けになればと筆をとりました。
信長と濃、道三や雪斎という、この戦国の美濃、尾張、三河は、もはや見慣れた英雄たち、見慣れた事件や戦として、何度も描かれ、確立され、多くの作家のモチーフになっていますが、まだ、こうも生き生きと書ける書き手がいるのかと驚かされます。
奇をてらうことなく、ここまでは時代小説の王道に従って、話は進行しています。
変に史実をこねくり回さずとも、登場人物の性格付けでここまで読ませるのは、作者の間違いのない腕だとおもいました。
濃姫の描写が特に個人的にはツボです。
歴史小説ジャンルで頭一つ抜けた存在の筆力です。
このジャンルで参加者必読の作品のひとつかと。
濃姫、別の名を帰蝶。
言わずと知れた織田信長の正室となった女性ですが、濃姫という女性に対する最初のイメージはなんでしょうか?
斎藤道三の娘、つまり蝮の娘。妖艶な美女。あの信長の正室として渡り合うには気の強いしたたかな女性だったとか。彼女と信長の間に子がいなかったことから二人は不仲だっただとか。彼女の関する史実があまり残されていないのは後に離縁、もしくは死別したためだとか。
様々な推測がされる濃姫ですが、この作品の帰蝶という女性は実に強く美しく、また時に優しく母性に溢れた女性として描かれています。特筆すべきは信長との関係。政略婚として信長の正室となった帰蝶、しかし己の分をしっかりと弁えていますし、しっかりと信長に寄り添っています。作中の二人の仲の良さにはつい頬が緩んでしまうこともしばしば、それからとある食べ物が無性に食べたくなります。
帰蝶と信長。
二人の周囲を固める人物はたくさんいますが、二人が生きる時代は戦国時代。出会いと別れを繰り返すたびに苦しみ絶望し、しかしその度に二人の絆も同じくらいに強まっていきます。
さて、本作品のラスボスとも言える人物は今川義元なのですが、かの御方の存在がなんとまあ強大なこと。史実は誰もが知っている通りとはいえ、この今川義元に本当に勝てるのか?何度となくそう思わされます。
本格的な歴史好きの方はもちろんのこと、あまり普段は歴史小説に触れない方もしっかり楽しめる作品です。タイトルにある通り桶狭間が最大のクライマックスと思われますが、帰蝶と信長の人生をもっともっと長く見ていたいと思うくらいに魅力に溢れる作品です。
昔、隆慶一郎という時代小説家がいた。ライトノベルにも影響を与えたと言われる唯一無二の作家であった。
その隆が構想を残して書かずに死んだのが、織田信長である。
その信長に、カクヨムであまたの力作を残して来た四谷さんが、満を持して挑む。
まず言いたいのが、文章の秀逸さである。
切るべきところはスパッと切っており、非常にテンポがよい。
加えて、スペース(余白)の使い方が非常に巧みである。
ここら辺は、いわゆる「なろう系」の作品を書いている人にも大いに参考になると思う。作品の差別化につながるのではないだろうか。
内容についてだが、過去の四谷さんの作風から、山岡荘八のようなオーソドックスな作品になるかと予想したが、興味深い独自の解釈が散見されており、個人的に良い意味で裏切られた(この点で細かい話をしたいが、ネタバレになるので残念ながら割愛する)。
新史の名に違わない時代小説になっている。
読んでいて、いまのところ文句がひとつもない。桶狭間で一旦筆を置かれるようだが、ぜひ、本能寺まで書き上げていただきたい。
その際は、私が好きな佐久間信盛が活躍してくれるとうれしい限りだ。