満を持しての織田信長

 昔、隆慶一郎という時代小説家がいた。ライトノベルにも影響を与えたと言われる唯一無二の作家であった。
 その隆が構想を残して書かずに死んだのが、織田信長である。
 その信長に、カクヨムであまたの力作を残して来た四谷さんが、満を持して挑む。

 まず言いたいのが、文章の秀逸さである。
 切るべきところはスパッと切っており、非常にテンポがよい。
 加えて、スペース(余白)の使い方が非常に巧みである。
 ここら辺は、いわゆる「なろう系」の作品を書いている人にも大いに参考になると思う。作品の差別化につながるのではないだろうか。

 内容についてだが、過去の四谷さんの作風から、山岡荘八のようなオーソドックスな作品になるかと予想したが、興味深い独自の解釈が散見されており、個人的に良い意味で裏切られた(この点で細かい話をしたいが、ネタバレになるので残念ながら割愛する)。
 新史の名に違わない時代小説になっている。

 読んでいて、いまのところ文句がひとつもない。桶狭間で一旦筆を置かれるようだが、ぜひ、本能寺まで書き上げていただきたい。
 その際は、私が好きな佐久間信盛が活躍してくれるとうれしい限りだ。

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