第6話 力の格差
「なんで、テイマーのこと何も知らないのに、弱いって決めつけるんだ?」
「あぁ? 最弱のテイマーが何言ってんだ?」
「はぁ。そうだよな。テイマーは最弱だっていうのは共通の認識だもんな」
「そうだろ? だからよ、早く金出して家に帰んな? 美麗ちゃんは俺らが可愛がってあげるよ。あの魔物も俺らが貰ってやるからさ」
下を俯いている翔真。
プルプルと震えている。
「そんなに震えんなって? 大人しくしてれば危害は加えねぇからさ?」
「……ックックックックッ」
「あぁ?」
「ハッハッハッハッハッ!」
「おいおい! 狂っちまったのか?」
「あーーーーーー。おもしれぇ。何にも知らねぇで滑稽だな?」
「コイツッ!」
ドゴッ
翔真の腹を殴る。
ビクともしない。
「なぁ、知ってるか? テイマーってな、人魔一体っていう能力が備わっててな、テイムした魔物の力の一部がテイマーにも備わるんだよ……」
「なに!? そんな能力が?」
「って事は……」
翔真はイライラを発散する為に右足を力いっぱい踏み抜く。
ズドォォォォォォンッッッ
翔真を中心にクレーターができ、周りにいた解放者は尻もちをついた。
「なぁ、身の程は思い知ったか? 俺達にも、もちろん、美麗さんにも手ぇ出したら許さねぇからなぁ?」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
「あ、あぁぁぁぁ」
「やべぇぇぇぇぇ」
解放者が蜘蛛の子を散らすように逃げる。
「はぁぁぁ。こんだけ脅かせば大丈夫かな?」
『お疲れ様』
蘇芳がやってきた。
「忠告してくれてありがとな」
『いやぁ、怪しいと思ったからさ』
「あぁ。けど、殴られたけど全然痛くなかったんだが……?」
『ステータス高いから当たり前じゃん? 何言ってんの?』
「えっ!? 俺がおかしいの?」
『ふふふっ。ほら、行かないとデート遅れるよ?』
「だな。行くぞ蘇芳」
『えっ!?』
「えっ? ってなに?」
『僕も行くの?』
「いや、当たり前だろ? 俺達のお疲れさん会なんだからさ」
『でも、デートは?』
「美麗さんも別にそんな気で来るわけじゃねぇって」
実際は結構その気で来ようとしているのだが、翔真達には知る由もない。
翔真と蘇芳は噴水前で待つ。
目立っているが、翔真はもう慣れっ子になっていた。
「あのー、ちょっといいですか?」
若めの女の人が話しかけてきた。
「はい? 俺ですか?」
なんだ? この女の人?
「そうです! 今話題のテイマーの方ですよね?」
「そんなんですかね? 分かんないですけど」
「一緒にご飯でもどうですか?」
えっ!? まさかの逆ナン?
「今から別の人とご飯に行くので、ごめんなさい」
「あっ、はーい」
すぐに引いて行ったが、まさか自分がこんな逆ナンみたいな事をされるとは思っていなかった。
しばらく待つと、遠目からでもわかる雰囲気のある女性が歩いてきた。
すると、2人の男達に行く手を阻まれる。
断っているようだが、無理矢理連れていこうとしている。
ドォンッ
地面が弾け飛ぶ。
一瞬ですぐ目の前に男達がいた。
ガシッと腕を掴む。
「やめろ。俺と約束してた人だ」
「お前なんかとじゃもったいねぇだろ? 俺らのアイドル、美麗ちゃんだぞ? 離せよ!」
なんなんだ!?
なんでこんなに絡まれる?
弱いと思われるからか?
脳内で出した答えは。
掴んだ腕を振り上げ、男の体が宙に浮く。
と、そのまま地面に叩きつけた。
ズダァァァァァンッ
ビシピシッと地面にヒビが入る。
「なぁ、なんでそんなにみんな俺達に絡むんだ? あのさ、このぐらい力があるっていうのをさ、他の人にも伝えてくれよ。なっ?」
叩きつけた男は白目をむいていた。
「あっ、この人気ぃ失ってた……そっちの人、今の頼むよ?」
「は、はい! すみませっしたぁぁぁぁ!」
気を失った1人を連れて逃げる。
「ふぅぅ。美麗さん、大丈夫でした?」
「うん! 大丈夫よ。助けてくれてありがとう。でも、あの人大丈夫かしら?」
「解放者みたいでしたし、大丈夫じゃないっすかね?」
「そうね! 気を取り直して、ご飯行きましょ!」
「はい! 行きたいとこがあるんですけど、そこでいいっすか?」
「えぇ! 何でもいいわよ!」
翔真が先頭で歩いていく。
噴水からメイン通りの1本奥の通りに入る。
「ここっす! ここの飯が食いたくて!」
入口の暖簾には丸の中に寿がかかれている。
ガラガラガラ
「らっしゃーーーい!」
翔真は3本指を立て、入っていく。
「奥のテーブルどーぞー!」
奥のテーブルに行く。
席に着くと後ろがザワついている。
「えっ!? 魔物?」
「なんで?」
「この店は魔物が入ってもいいのか?」
立ち上がって大きな声で話しかけた。
「皆さん! すみません! 俺のテイムした魔物なんですが、2人でダンジョンを初攻略したんです! そのお祝いでここの海鮮丼が食べたくてきました! こんな身なりですが、一緒に食べさせて貰えませんでしょうか!? コイツは暴れたりしません! 理性があるので大丈夫です!」
立ち上がって皆に訴えかける。
シーーンッとしていると。
「俺達は構わねぇ! お祝い事でウチの飯を食いてぇなんて嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか! 好きなだけ食っていきな!」
カウンターの奥から店の主人が許可を出す声を上げる。
「暴れたりしないなら、いいよな?」
「私達も構わないわ」
「兄ちゃん解放者なのか? 若いのにすげぇじゃねぇか! 頑張れよ!」
周りからもたらされたのは暖かい了承の言葉だった。
「皆さん、ありがとうございます!」
席に着くと美麗さんがニコニコして見ていた。
「すみません。かっこ悪いとこ見せて……」
「ふふふっ。ううん。逆よ? カッコよかったわ。蘇芳ちゃんを大切にしようっていう気持ちが伝わったわよ?」
「そうっすか? あっ、特上海鮮丼でいいっすか!? 食ったことないですけど、金があったら食べてみたいって、ずっと思ってたんですよ!」
「うん! 美味しそうね! 楽しみ!」
「蘇芳は……食えるのか?」
『ウッ? ウガウガウガァ(えっ? そりゃ食べるよ)』
「おう。たいしょー! 特上海鮮丼3つ!」
「あいよー! 少々お待ちぃー!」
頼んだ後にワクワクしながら待つ。
「ねぇ、不思議だったんだけど、蘇芳ちゃんの言葉分かるの?」
「あっ、はい! 多分職業の能力の一部だと思うんすけどね。普通に日本語に聞こえますよ」
「そうなのね。不思議ねぇ」
そんな雑談をしていると。
「へいお待ちぃー!」
キラキラした海鮮がふんだんに乗った、特上海鮮丼が目の前に置かれる。
「おぉぉぉぉ。美味そぉぉぉ」
「わぁぁ! 美味しそうね!」
「「いただきます」」『ウガガウガウ(いただきます)』
パクッとひとくち食べると海の香りと海鮮の甘さが口の中に広がり旨味が押し寄せる。
「う……うめぇ」
目を力いっぱい閉じて上をむく。
あぁ。今日まで頑張ってきてよかった!
今日までの日々は無駄じゃなかったんだなぁ。
シミジミと感慨に耽っていた翔真。
翔真を他所にガツガツ食べている2人。
「美味しい! こんなの食べたことないわ! たまらない!」
『ねぇ、こんなに美味しいのを人間って食べてるの!? ずるいね!』
蘇芳は巨体で食べている為、丼が小さく見える。
ネタが沢山盛られていて一つ一つがとても味が濃厚なのだ。
幸せな時間はあっという間で、すぐに食べ終わってしまった。
「あぁぁぁぁ。美味かったぁ。また来ような? 蘇芳?」
『うん! 僕、ここが気に入った!』
「はははっ! そうか。良かった」
「翔真くん! 本当にありがとう! こんな美味しい海鮮丼食べたことがなかったわ! とっても幸せだった!」
「良かったっす!」
「ねぇ、今度はご馳走してくれなくてもいいから、一緒に出掛けない?」
「俺なんかでいいんですか?」
「翔真くんがいいのよ!」
「光栄です!」
ビシッと立って敬礼する。
周りからクスクスと笑い声が聞こえる。
あたまをかきながら。
「出ましょっか! たいしょー! 最高に美味かったっす! ご馳走様でした!」
「ご馳走様でした!」
「おうよ! また来な!」
翔真は幸せな一時を噛み締めるのであった。
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