第4話 ガーディアン

 洞窟の中で階段を発見した翔真は、鉱石を採掘した後に下の階層へ降りてきた。


 自分から先頭を行くように進言し、慎重に進む。


 階段を降りた先には再び森が広がっていた。


「また森か……」


ブーーーーン


 何かが飛んでいるような音がする。


 辺りを見渡すが、何もいない。


 進もうとした。

 その時。


『上だ!』


 太刀を咄嗟に頭上に構える。


ギィィィンッ


 何かが衝突してきた。

 衝撃で後ろに弾かれる。


「なんだ!?」


 飛んできた物体を見る。


 カナブンのような昆虫が飛んでいた。


『カタブンだ!』


 似たような名前であった。


『そいつは身体が硬い甲殻類だから、普通に攻撃したんじゃダメージを与えられないよ!』


「そうなのか!? どうすれば……」


『甲殻類は関節の継ぎ目を狙うしかないよ!』


「関節か! 了解!」


 関節をピンポイントで狙うのはかなり難しい。

 止まっている所を狙うのも難しいが、動いている敵の関節を狙うのは至難の技だ。


 了解っつっても、かなり厳しいぞ。

 どうやって関節を狙う?


 そうこうしている内にも突進してくる。


ブーーーーン


 そんなに早くない為避けることはできるが、反撃するとなると難しい。


ブーーーーン


 再び避ける。


ブーーーーン


ブーーーーン


ブーーーーン


「だぁぁぁ! うるせえな!」


ガギィィィン


 立ちを力任せにぶん回し、突進してきたカタブンを打ち返す。


 ブンブンブンうるせえな。

 ん?

 羽がなきゃ飛べねぇか!


ブーーーーン


 すれ違いざまに太刀を縦に振り下ろす。


ズバッ


 パラパラと切れた羽が舞う。


ドシャャャ


 振り返るとカタブンが地面に落ちていた。

 もう片方の羽を広げて飛ぼうとしているが、ブンブン音が鳴るだけで飛べはしない。


「厄介だったぜ」


スパァァァン


 頭と体の関節を狙って立ちを振り下ろし、トドメをさす。


『おぉ! 翔真すごぉい! 僕とかは普通に飛んでるところを狙って関節切断したりするから、羽を切って落とすなんて思いつかなかったよぉ』


「サラッと言ってるが、嫌味かコラッ!? どうせ飛んでるところを狙えませんよ!」


『まぁ、発想が凄い良かったね!』


「まぁ、なんとか倒せたしな。まだまだこれから強くならねぇと! お金が俺を待っている!」


『お金の方は待ってないと思うけど……』


「さぁ、行くぞぉ」


 再び森の中を進んでいく。

 ここの階層は昆虫が多いようだ。


 カタブンばっかりじゃねぇか!

 ブンブンうるせえ。


 出てくる敵がカタブンばかりなのだ。

 倒して進んでいくと、不自然に大きな扉が現れた。


「ん? なんだこれ?」


『おぉ。もうガーディアンに辿り着いたんだ』


「ガーディアン?」


『そう。このダンジョンのコアを守る魔物の事をガーディアンって言うんだ』


「へぇ。じゃあ、ここで最後ってことか?」


『そうみたいだね。出来たばかりのダンジョンだったみたいだね。3階層って事は』


「そうなのか。まぁ、初めてにしては丁度良かったか」


『そうだね。ガーディアンは僕も手伝うよ』


「おう。頼んだ。じゃあ、扉開けるぞ?」


『うん!』


 扉をゆっくりと押す。


 押す……が開かない。


『引くんじゃない?』


 引く……と開いた。


「引くんかい! 普通押すだろ!」


 イライラしながら中に入る。


 辺り一面に蜘蛛の巣が張ってある。


「昆虫の階層だからもしかしてとは思ってたけど……蜘蛛かよ」


 上からツーーーッと蜘蛛が降りてくる。


「おいおい! 随分でけぇな!?」


 胴体は3メートルはあるだろうか。

 その身体の横から生えている脚が長いため更に大きさを際立たせている。


ゾワゾワッ


 気持ち悪い。

 寒気が止まらねぇ。

 変な汗が出てきちまった。


 太刀を構えたまま停止していると。


『翔真? どうしたの? 固まってるよ?』


「い、いや……」


『もしかして……蜘蛛苦手?』


「苦手って言うか見たら飛び上がって速攻逃げる感じ?」


『そんなに!?』


 でも、逃げてる訳にもいかねぇ!


 頑張って前に踏み出そうとすると。


『下がってていいよ』


「蘇芳?」


『ここまで、僕何もしてないし。翔真に見てもらおうかなって。僕が戦うところ』


「いいのか?」


『うん! 見てて』


 そう言うと異空間から骨で生成されたんであろう大太刀が出現した。


 蘇芳の3メートルある身体より少し大きい大太刀であった。


「ギギッ」


プシューーーッ


 巨大蜘蛛がお尻から白い何かを飛ばしてくる。


 サイドステップで避ける蘇芳。


ジューーーッ


 白い物体は酸だったようだ。

 地面が解けている。

 それを見た蘇芳はため息をつく。


『はぁぁ。寄りにもよってアシッドスパイダーなんだ。この大太刀ダメになっちゃうかもなぁ』


「おい! 蘇芳大丈夫か!? 無理すんなよ!?」


『大丈夫だよ! 直ぐに終わらせるから!』


 蘇芳は肩に大太刀を担ぎ、足を曲げて力を貯めているようだ。


 何が来ると思ったのだろう。

 アシッドスパイダーは再び酸をお尻から複数放ってきた。


ドォォォンッ


 蘇芳のいた場所は蘇芳の姿はなく、土が抉れ、土埃が舞っている。


 瞬きした一瞬で蘇芳はアシッドスパイダーの目の前にいた。


『これで終わりだよ! 【花蘇芳(はなずおう)】』


ズババババババババンッ


 アシッドスパイダーの後ろに通り過ぎる。


スザザァァァァ


 振り返りながらアシッドスパイダーを確認している蘇芳。


「ギ、ギギィィィィィ」


ボドボドボドボド


 全ての関節が別れて地面に落ちる。


「す、すげぇ……」


 蘇芳の強さを目の当たりにした翔真は震えていた。


 こんなに強い蘇芳が俺の仲間なんて。

 こんなに心強いことはねぇな。


『あーーぁー。やっぱりダメになっちゃった』


 見ると、蘇芳の大太刀の刃の部分が溶けてしまっている。


『これ気に入ってたのになぁ。また作んなきゃ』


 蘇芳が落ち込んでいるようだ。


「蘇芳! 凄かったな! やっぱ蘇芳はすげぇな! 大太刀残念だったな。戦わせちゃってごめんな?」


『ううん! 翔真の役に立てたからよかったよ! この大太刀はまた作ればいいから大丈夫。骨集めるの手伝ってね?』


「おう! そりゃ、手伝うさ!」


『絶対だよ!? アンデッドの居るところに行かないと行けないからね?』


「お、おう。そ、そういうのは大丈夫だと思うぞ? ……たぶん」


『ふーん。ま、とりあえず、ダンジョンコアを取ろう』


 奥に進む蘇芳を追いかける。


 なにやら光を放っている球体が浮かんでいる。


『これが、ダンジョンコアだよ?』


「これがダンジョンコアかぁ」


『これを取ると自動的に周りの人が外に転移させられて、ダンジョンは消滅するんだ』


「へぇ」


 ダンジョンコアに手を伸ばし、触る。

 その瞬間、外にいた。


「おっ? 外か?」


『うん。入口が無くなってるね』


「おぉ! ダンジョンを攻略できたんだな!? やったぜ! このコアを持っていけば金になる!」


『そ、そうだね』


 あまりのテンションの高さに蘇芳は引いてしまっていた。

 嬉しくてしょうがない翔真は、そんな事は気にせずに元いた街に向かって走っていた。


『翔真、そんなにお金に困ってるの?』


 蘇芳の疑問に答えるものは誰もいない。

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