第20話 朝まで議論
風香さんを運んだ後、再びギルドに戻ってきていた。
「主役がどこに行ったかと思ったぜぇ!?」
顔を真っ赤にしたギルドマスターが呑気にグラスを傾けていた。
「すみません。風香さん寝ちゃったんで、送ってきました」
「おぉ! そうか! よっ! 色男!」
変なノリになるギルドマスター。
それに続く男達もいる。
「おい! お前、風香ちゃんに手ぇだしてねぇだろうな!?」
「出してたら、ここに居ませんよ?」
「ハッハッハッ! 違ぇねぇ!」
「俺達のマドンナだからな!」
「そうなんすね」
するとギルドマスターが思い出すように話し始めた。
「そうだなぁ。最初に入ってきたのは15の時だったか?」
「そうじゃないっすかね。職業が戦闘職じゃ無かったとかで」
近くにいた解放者が相槌を打つ。
「そうだ。それで、別に計算とか商売とかそう言う天職ではなかったんだ。だから、失敗ばかりだった」
ギルドマスターに続いて、隣にいた解放者が思い出したことを口にする。
「そうそう! 最初の時なんて、ダンジョンコア落として割っちまってな?」
別の解放者も見ていたのだろう。
「ハッハッハッ! あんときゃ顔青くしてごめんなさい、ごめんなさいって謝ってたっけな」
「コアを落として割るなんて前代未聞だったからなぁ。流石の俺も怒らざるを得なかった」
ギルドマスターが天井を見て話していると。
「あん時はすげぇ剣幕で怒ってましたよね?」
「それで、風香ちゃん泣いちゃってな?」
ギルドマスターが手で顔を覆い隠す。
「止めてくれ。あんときゃ色んな奴に避難されて参ったもんだ。どいつもコイツも風香の味方しやがる。こっちゃコアを割っても、その分の金払わなきゃねぇってのに」
「あれ? でも、そん時は解放者の奴が別にまた取ってくるから金はいらないとか言ったんじゃないっけ?」
「もう6年も前だろ? 覚えてねぇよ」
「でもよ、結構いい歳の人じゃなかったか?」
「あぁ。なんか思い出してきた」
「パーティで来てたよな?」
「息子いるとか言ってたよぉな」
「奥さんが横にいたよな?」
冒険者たちが口々に情報を出していく。
「パーティ名なんだっけ?」
「えぇー。なんだっけ? マスター覚えてません?」
腕を組んで目を瞑りながら考えている。
「んー。たしか、隣の領から来たパーティーだったなぁ。大規模ダンジョンを目指してるとか……」
「なんかどっかで聞いた話だな?」
「………………翼……だったかな」
それを聞いて飛び上がる。
「それって!」
ギルドマスターに詰め寄る。
「ど、どうした!?」
「それって、大柄の俺と同じ色の髪で長くなかったですか!?」
「あー。そうだな。たしか後ろで結んでた気が……」
「あぁっ! 空! 空なんちゃら翼じゃなかった!?」
「何がだ?」
「パーティ名だよ」
「空翔ける翼……ですか?」
呟くと皆が見てきた。
「「「それだ!」」」
「あー。スッキリしたぁ」
「何で翔真が知ってるんだ?」
「お前、まだ10歳とかそこらだろ?」
ゆっくりと話し始める。
「それ……俺の…………親父です」
「何!? お前の親父さんだと!?」
「はい。そのパーティ名で活動してたらしくて……」
「らしくてって……知らなかったのか?」
「はい。あんまり家にいること無かったから……」
「今はどうしてるんだ?」
「…………死にました」
「何だと!? アイツら、たしかRランクパーティだぞ!?」
「正確には、死んだという報告を受けました」
「って事は……期限内に戻ってこなかったんだな……」
渋い顔をして目を瞑るギルドマスター。
「アイツらはたしか大規模ダンジョンを狙ってた筈だ」
「もしかして……」
「あぁ。全滅したってのが濃厚だろう」
「ギルドからはそう説明されました」
「それは、いつの話だ?」
「2年前です」
「それじゃあ、天職がわかる前か」
「はい。テイマーだと分かってからは戦えなかったので、ずっと色んなバイトをしてました」
「苦労……したんだな」
「いいえ。楽しかったですよ。みんないい人たちで……テイマーだって分かっても普通に接してくれる人がいっぱい居ました」
「人に恵まれたんだな」
周りの解放者たちが涙を流し始めた。
「わけぇのにそんな苦労して……」
「良く今まで頑張ってきたな」
「俺達はみんなお前の味方だからな」
酔っ払いが泣き崩れているという悲惨な状況になってしまった。
「俺も何か情報を掴んだら教える」
「はい。この情報を持って全国を巡ろうと思います」
「あぁ。あのパーティーは全国区だ。古株の奴らは1度はパーティ名を聞いたことがあると思うぞ」
「そうなんですね。参考にします」
しんみりした空気になってしまった。
「こんな空気にしちゃってすみません! 飲みましょう!」
「そうだな! パァーっといくぞ!」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
再び飲み始めた。
グビグビとビールを飲む。
「それで? 風香さんはなぜこんなに人気に?」
「あぁ! そうだったな。それでな、ミスが多すぎて皆が甘やかしてなぁ」
「そうそう。大丈夫だから大丈夫だからってな」
「俺なんて何回コア割られたことか」
「ハッハッハッ! 割られた数だけ風香ちゃんへの信仰心が上がるとか言ってな!」
「そうそう! そう言って耐えてたよなぁ」
みんな天井を見ながら懐かしそうに言う。
「そんでな、まともになってきた頃にはアイドルみたいになっててな……」
「あの時はな、ギルド員を宥めるのがたいへんだったんだぞ!? 風香ばかり甘やかすから、妬みをかったりしてなぁ。嫌がらせされそうになったり、辞めさせられそうになったり」
「そんな事があったのか!?」
「許せねぇ!」
「誰がそんなことを!?」
ドンッとグラスを置いたのはギルドマスターであった。
「お前達が、そうなるのが分かっていたから誰にも言えなかったんだ……」
「しかしよぉ。誰がそんなことを!?」
「落ち着け! もういない。そいつは他の奴にも嫌がらせしたりしてたのがバレたから辞めさせたんだ」
「なんだ。そうなのか」
ギルドマスターと解放者達の話を聞いていると、本当に風香さんは好かれているんだなと感じる。
今回はダンジョンを育てるなんてことをやってしまった解放者達だが。
根はいい人達なんだな。
ここはいいギルドだ。
俺の話も親身になって聞いてくれていた。
この領を救うことが出来て良かった。
また守りたい人が出来た。
今回はいい遠征になったな。
『翔真。良かったね? みんないい人達で』
「そうだな。風香さんもこんな人達に囲まれて幸せだな」
そんな話を蘇芳としていると。
「お前、浮気か!?」
「ち、違ぇって。ちょっと良いかなって思っただけだって」
胸ぐらを掴んで穏やかじゃない。
「おいおい! こんな酒の席で喧嘩すんなよ! どうした!?」
「コイツが美晴ちゃん綺麗って言い出したんっすよ! 浮気じゃないですか!?」
「いや、風香ちゃんは可愛いけど、美晴ちゃんは綺麗って言うか、髪の色可愛いし」
ギルドマスターは頭に手を置きながらため息を吐いている。
「お前達そんな事で喧嘩すんなよ」
「風香ちゃんのファンとしては捨て置けない発言です!」
「俺は、美晴ちゃん派」
「俺も……」
少数だが手を挙げる解放者達。
その後、どっちがいいかの議論が朝まで続いたとか。
そんな熱意を見せていた解放者を見ていたら身の危険を感じた為、宿にこっそり帰るのであった。
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