第24話 聞き込み

「気分上げるために飲みにでも行くかぁ」


『いいねぇ。行こー!』


 フラーッと通りを歩いて美味しそうな匂いを見つける。


「んー。ここにすっかな。賑わってるし」


『いいねぇ』


 雰囲気のある暖簾がかかった飲み屋さんであった。


ガラガラガラ


「ぃらっしゃーーい!」


「2人なんですけど、いいですか? あっ、1人はテイムした魔物なんですけど」


 中に入った後に蘇芳に来るように手招きをする。

 頭だけ出してペコッとする。


「礼儀がなってるお客さんは助かるよ! どうぞ!」


「有難うございます!」


 中に入って2人でカウンターに座る。

 解放者の他にも一般のお客さんも居るようだ。

 こじんまりとした店でいい雰囲気であった。


「とりあえず蘇芳もビールでいい?」


 コクッと頷く。


「すみません! ビールをジョッキで2つ! あと、イカ焼きと串焼き盛り合わせ下さい!」


「あいよぉ!」


 少し経つとビールが運ばれてくる。


「っし! 乾杯!」


 カチーンッとグラスを合わせる。


グビッグビッ


「っぁあぁぁぁうまい!」


『ガーーガウガウ!(かぁぁぁうまい!)』


「ハッハッハァァ! 2人ともいぃー飲みっぷりだなぁ!」


 店主が喜んでくれている。

 ペコッと頭を下げ。


「行儀が悪くてすんません」


「良いんだよぉ。いい気分で帰って欲しいんだから」


「有難うございます」


 その後、イカ焼きと串焼き盛り合わせがやって来た。


 イカ焼きを切ってかじる。


「焼き加減最高!」


 ビールが進む。


『この串焼き、タレが最高なんだけど!?』


「マジか!?」


 1口串焼きを食べる。

 口に広がるタレと肉の旨味。

 肉の旨味をタレが引き立てている。

 この香ばしい匂いたまらん!


グビッグビッ


「ふぅ。美味いなぁ。蘇芳もおかわりもらう?」


『もちろん!』


「ビール2つおかわり!」


 傍から見たら魔物がビール飲んでツマミ食べてる姿はシュールだろう。


ダンッ


 後ろからテーブルに何かをうちつけたような音が聞こえた。


 振り返るとこちらに詰め寄ってくるおじさん。


「魔物なんか連れてくんじゃねぇよ! 酒が不味くなるだろうが!」


「すみません。でも、ご迷惑おかけしないように飲み食いしてますし……」


「そういう事じゃねぇだろう!? 店に魔物がいるってのが気に入らねぇんだよ!」


 ちょっとイラッときたぞ?

 しょうがねぇ。

 出るか。


「蘇芳、で────」


「このお客さんは俺が許可したんだ。文句あんならアンタが出ていきな!」


「チッ! 二度と来ねぇよ!」


 会計もせずに出ていくおじさんを見て呆気に取られる。


「……おっちゃん、よかったんすか?」


「いいんだよ! 兄ちゃん解放者だろう? 命はって危険な仕事してよぉ。疲れ癒しに来てんだろ? 美味いもん食って貰いてぇじゃねぇか。しかも、テイムした魔物連れてなんてよぉ。家族と同然に扱ってるってことだろう? そんな人によう、魔物だなんだって言ってくる奴なんかこの店の客にはいらねぇんだよ!」


 おっちゃん、カッコよすぎるぜ。

 俺はこのおっちゃんに惚れた。

 もうこの店しか来ねぇわ。


 すると、後ろから歓声が聞こえた。


「流石だぜおやっさん!」


「やっぱり最高の店だ!」


「俺達のことよく分かってんぜ!」


「カッコイイぜおっちゃん!」


 なんか盛り上がっている。


 隣に年季の入った装備のお兄さん?がやってきた。


「よぉ。兄ちゃん。この店最高だろう?」


「はい! 感動しちゃったっすよ! おっちゃん最高っす!」


 俺の肩をバンバン叩きながら酒を飲む。


「兄ちゃんもさ、よく我慢したな?」


 見抜かれてたんだ。


「なんで我慢したって……? 俺は、悟られないようにしてたつもりだったんすけど……」


「バッカ! おめぇ、自分の手見てみろよ?」


 自分手を開いてみる。

 気付かなかった。

 爪が皮膚に食いこんで血が滲んでいた。


「おぉう。こんなに力入ってたなんて」


「それだけ兄ちゃんが、この蘇芳っつったか? の事を大事だってことだろ? 魔物って言われんのも嫌なんじゃねぇのか?」


「そうっすね。ホントは嫌っすけど、説明する時はちゃんと言わないといけないと思って」


「あぁそうだ! だからだよ! だから、おやっさんは、礼儀正しい奴は歓迎だって言って店に入れたんだ」


 そういう事か。

 有難い話だな。


「なっ? おやっさん?」


 照れくさそうに頭を掻きながら答える。


「俺が気に入ったんだ。文句は言わせねぇ」


「ここまで言わせんだ。兄ちゃんも大したもんだぜ!?」


「有難う御座います」


 素直に頭が下がった。

 なんていい店なんだよ。

 お客さんまで最高だ。


『ガガガウガウウガ(これおかわりください!)』


 おっちゃんにジョッキを差し出している。


バシッ


 思わず頭を叩いてしまった。


『なんで!?』


「お前の話で揉めた話をしてんのに呑気に飲んでんじゃねぇよ」


『えー? あのおっさん居なくなったからいいでしょ?』


「おっちゃん、俺とコイツの分おかわり下さい!」


「あいよ。意思が通じあってるんだな」


「あっ。おっちゃん分かんないですもんね。俺は、言ってること分かるんです」


「はぁ。絆ってのはすげぇな?」


 絆ってことでは……

 でも、なんかそう言うと素敵。


「はい! 有難うございます!」


 思わず肯定してお礼を言ってしまった。

 

 隣に座った解放者と思われる人に聞いてみたいことがあった。


「あのー。解放者の方ですよね?」


「あぁ。もうかれこれ20年になるかな。未だCランク。Bランクはホントに強いやつしかなれねぇのよ」


「知ってたら教えて欲しいんですけど、空を翔ける翼っていうパーティを知ってますか?」


「……なんで兄ちゃんがそのパーティ名を知ってるか知らないが……この領の古株の解放者はみんな知ってるよ。この領のスターだからな」


「そうなんですか?」


「あぁ。この領で出た初めてのRランク冒険者だ! あんときゃ興奮したもんよ。しかし、ここ10年以上は音沙汰がない。最近死亡したって聞いたが……信じられんな」


「信じられない?」


「あぁ。リーダーの男。職業はソードマスター。所謂、剣聖だ。あの男が死ぬとは思えない。それぐらい強かった」


「戦ってるところを見たことがあるんですか?」


「俺は、助けられた。あの時、あの人達が居なきゃ死んでた」


 なんと言っていいか分からず下を向く。


「後は、あの女の魔法使い。たしかリーダーの男と結婚したはずだ。あの魔法使いも大魔法を撃てる腕前だった。あのパーティが大規模ダンジョンに挑んだとして、全滅なんて考えられねぇ」


「そんなに強かったですか?」


「あぁ。強かった。その人達が現役の時は最強だと恐れられたんだ」


「そうなんですね。貴重な話……有難う御座います」


 おっ!と気付いた様にこちらを見る。


「そういや、兄ちゃんと同じ髪の色だったな」


「その人、俺の父親です」


「はぁ!? マジか!? こんな大きな子供が!?」


 一通り興奮した後に一息ついて落ち着く。


「すまん。たしか、2年前に亡くなったって噂があったが……」


「はい。ギルドからそのように報告がありました」


「兄ちゃん、どうやって生活してたんだ?」


「バイト掛け持ちしてました」


「苦労したんだな」


「いえ、楽しかったです! コイツとも会えたし」


 蘇芳を見つめて言う。


「いいパートナーが見つかったんだな?」


「はい!」


「そうだ。名前教えてくれよ」


「はい! 真仲です。真仲 翔真(まなか しょうま)」


「翔真だな? 情報集めておくぜ」


「お願いします」


 その後も親父を話を延々と聞かされる自体になってしまうのであった。

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