第37話 お別れ会

「茜、今日で装備は整った。明日経つ」


 装備を整えた後、ギルドに来てたのだ。


「うん。また隣の酒場で待っててくれる?」


「あぁ。待ってるからちゃんと仕事してこい」


「うん!」


 しばらく隣の酒場でお茶等を飲んで待っていた三人。


「お待たせ! 今日はどこで食べる?」


「今日は、おでんにしないか?」


「いいよ! 美味しそう!」


 おでん屋さんに向かう。

 向かう道中、ずっと俺の後ろを歩いている。


「茜?」


「あぁーあ! いっぱい友達作んなきゃなぁ!」


「どうした?」


「これからさ、翔真居なくなっちゃうから、次に来る時までに羨ましがられるくらい友達作んないとさ!」


「あぁ。茜なら出来るさ」


「よーしっ! 今日は飲むぞぉ!」


 おでん屋さんが見えてきた。


「あそこだぞ! おっちゃんばっかりだけどな」


『茜ちゃんにも感覚共有かけていい?』


「そうだな。いいよ。茜。蘇芳を受け入れてくれ」


「何言ってるの? 蘇芳ちゃんの事なら何でも受け入れるよ!」


『茜ちゃん。寂しいかもしれないけど、元気でね!』


「えっ!? 蘇芳ちゃん?」


『そうだよ。実は、僕が指定してそっちも共有を受け入れると、話せるようになるんだ』


「この前嘘ついてたの!?」


『それには、理由があってさ。これやると言葉に出してない心の声まで聞こえちゃうんだ』


 それは困るよ。

 翔真に聞かれたら……。


『そう。翔真にも聞かれる』


「今、喋ってないのに!」


『そう。そうなるの』


 困惑している茜。


 店に着いたので入ることにした。


「いらっしゃい!」


「4人です。1人は魔物ですけど、暴れたりしないし、言葉を理解してるんで一緒に入ってもいいですか?」


「おぉ、凄いな? うちは問題ないけど、ちょっと待っててな」


「あっ、はい! 外に出てます!」


 一旦外に出て扉を閉める。

 すると、中から声が聞こえてきた。


「今来た兄ちゃんだけどよぉ、魔物と一緒に飯食いてぇって言うんだよ。おれは、一緒に食わせてやりてぇ。お客さん達どうだ? 一緒に食わせてやっちゃくれねぇか!?」


「俺達は、問題ねぇよ」


「ワシも構わん」


「僕らも気にしません」


 扉の向こうから声が聞こえる。

 翔真はこの店の店主、お客さんの質の良さに感動していた。


ガラガラガラ


 扉が開くと店主のおやっさんだった。


「皆問題ねぇってよ! 好きに飲み食いしてくれ!」


「有難う御座います!」


 中に入ると注目を集める。


「皆さん、ご理解頂き有難う御座います!」


 翔真が頭を下げると、蘇芳も隣で頭を下げる。


「ハッハッハッ! 本当に礼儀正しいな。人間が甲冑着てんのと変わんねぇじゃねぇか」


「ホントに魔物ですか?」


 お客さんが口々に言う。


「はい! 魔物なんですけど、俺とは意思の疎通ができるんで。なんか気になることがあったら言ってください!」


「おやっさんが良いって言ったんだ。誰も文句ねぇよ!」


「はい! 有難う御座います!」


 お客さん達に礼を言うと案内されたテーブルに座る。

 店主が気を使って隅の角の席を案内してくれた。


 本当にありがたいな。

 ここじゃないと蘇芳がでかくて座れないだよな。


 隅のL字の所に蘇芳を座らせ、それ以外の三人は適当に席に座る。


 翔真、蘇芳ちゃんのことちゃんと考えててえらいなぁ。

 そういう所、カッコイイんだよねぇ。


 不意に聞こえてきた茜の心の声。


「じゃ、じゃあ、まず飲み物頼むか!」


 聞かなかったことにしてメニューを広げた。


「私ビール!」


「自分もビールで!」


『僕もビールにしようかな!』


「みんなビールな。すみませーん! 生ビール4つ!」


「あいよぉ!」


 おやっさんに飲み物を頼むと、次は食べ物を選ぶ。


 ここのおでんは最高に美味いが、その他のメニューも美味いのだ。

 肉じゃが、サバの味噌煮、きんぴらごぼう等。

 所謂、おふくろの味なのだ。

 あっ、おやっさん作ってんだから親父の味か。


「自分、久しぶりに肉じゃが食べたいです」


「私、芋煮食べたい」


『僕、サバの味噌煮っていうの食べてみたいな』


「オッケー。それとおでんの盛り合わせ頼むか。おすすめの具を入れてもらおう」


「それいいわね」


「だろ? すみませーん! 注文良いですか?」


 奥の方からおやっさんがやってくる。


「あいよ! ビールねぇ」


 ビールをそれぞれに行き渡らせる。


「なんにする?」


「肉じゃがと、芋煮と、サバの味噌煮ください。後、おでんの盛り合わせを具はお任せでください!」


「あいよ! 苦手なもんとかあるかい?」


「「「ないです!」」」


「そこの……」


「あっ!コイツ、蘇芳っていいます。蘇芳も何でも食べられるんで大丈夫です」


「あいよ! ちょっとお待ち!」


「いい店ね?」


「だろう? 一斗に教えて貰ったんだ」


「ふーん」


 また一斗さんか……。

 ホントに仲いいんだから……妬いちゃう。


『ねぇ、翔真?』


「わ、わかってるって」


 茜の方を向き真剣な顔をする。


「茜……」


「な、なによ……」


 えー!?

 なにっ!?

 もしかしてプロポーズ!?

 キャーーー!


「あ、あのさ、さっき外で蘇芳に説明されたでしょ? 感覚共有の話」


「うん。されたよ? 心の声まで聞こえちゃうんでしょ?」


「そう……で、今かかりっぱなしなわけよ」


「えっ!? えぇぇぇぇぇ!?」


 お客さんが皆一斉に振り向く。


「あっ、すみません! 大丈夫です! 何でもないですんで、ちょっとサプライズがあって!」


「あぁ、なんだそういうことか」


「やるねぇ、兄ちゃん!」


 お客さんは何とか誤魔化せた。


「蘇芳、一回茜の共有切って」


『わかった』


 切ったか?


『切れたと思う』


「茜、すまなかった! もっと早く切るべきだったんだが、そうすると蘇芳と話せなくなると思って……」


 手で顔を覆っているが耳が真っ赤になっている。


「もしかして、ちょっと前のも」


「うん。聞こえてた。俺の事よく思ってくれてるのは嬉しいよ。ありがとう」


「うぅ。恥ずかしいよぉ」


「ごめんな。今は聞こえてないから」


「うん。もういいや! 飲もう!」


 吹っ切れたかのようにヤケクソで飲み始める茜。

 グビグビと一気飲みする。


「ぷはーっ! おやっさん! ビールおかわりください!」


「あいよ! 良い飲みっぷりだね、ねぇちゃん!」


「お、おい。飲みすぎるなよ?」


「うるさい! いいの!」


 食ってかかってくる。


 今日は完全に寝るな。

 家まで送って行かねぇとな。

 また蘇芳に運ばせればいいか。


 チラッと蘇芳の方を見るとこちらを睨んでいる。

 スッと目をそらし、ビールをあおる。


 料理が運ばれてきた。


「うおぉぉぉ! 美味そうだ! いただきます!」


「「いただきます!」」


 おでんの大根を半分に割って取り皿に盛る。

 パクッと食べると出汁の旨味が広がり、大根は溶けていく。

 体の中に溶け込んでいくようだ。


「はぁぁ。美味い。染み渡るぅぅ」


 茜を見ると芋煮を食べて顔がトローンとしている。

 一斗は目頭を抑えて俯いている。


「一斗、どうした? 大丈夫か?」


「あっ……大丈夫です。ちょっと母さんのこと思い出して泣けてきちゃって」


「そうか。一斗も苦労してんだな?」


「はい。シングルマジシャンであることを親戚達に酷いこと言われて時期があって。味方になってくれたのは母さんだけだったんです。辛い思いさせてしまうと思い、家を出てきたもので……」


 フッと横を見るともらい泣きしている茜。


「私も同じようなものよ。親がテイマーだったから辛い思いをして家を出たのよ」


「そうだったんですね。お互い辛かったですね」


 あれ?

 コイツらまさかの泣き上戸か?


「翔真さん、自分、泣き上戸です!」


 一斗が宣言している。

 あっ、感覚共有俺らは繋がったままだった。


 いきなり意味不明な宣言をした一斗を、茜は首を傾げて見ている。


「ちょっと飲むの控えておこう? なっ?」


 飲ませないようにしようとするが、もう遅いようだ。

 飲み食いが進むと阿鼻叫喚の光景が広がっていた。


 蘇芳も交じって泣いているのだ。


 えっ。帰りたい……


◇◆◇


 遡る事10分前


「私は付いて行くって言ったのに! 拒否されたんですよ!?」


「それは酷いですね! 連れて行ってあげればいいのに!」


「ギルドマスターとグルになって私を置いて行こうとして!」


「なんて酷いことを!」


「初めてできた友達なのに……すぐにいなくなって寂しい」


『ガウガガウ……ガウガウウガウガウ(そうだよね……僕はもう少しいようって言ったんだけど)』


 蘇芳が泣き出す。


「何言ってるかわかんないけど、泣いてくれてありがと。蘇芳ちゃん」


 とまぁ、こんな感じで泣いてしまったのだ。


◇◆◇


「すみませーん! おやっさん! お会計お願いします! まとめて払います!」


 カウンターに行きお会計をすませる。


 テーブルに戻り、3人に声を掛ける。


「おい! 帰るぞ! 今日はおしまい!」


 泣きながら立ち上がる3人。


「翔真が冷たいよぉ」


「翔真さん、人でなしぃぃ」


『翔真酷いよぉ』


 コイツ等めんどくせぇ。

 店を出ると茜のアパートの方に歩いていく。


 もうすぐ着く頃。

 腕に絡みつく柔らかい感触が。


「翔真、また来てね?」


 頬が赤みがかった顔で上目遣いを駆使して見つめてくる。

 自分の顔も赤くなるのが分かる。


「おう。いつになるかわかんないけどな。また来るよ」


「翔真も赤くなってるー!」


 指で頬をつついてくる。


 早く親の事はっきりさせてまた顔を見せてやらないとな。

 気が引き締まる思いだった。


 アパートについた。


「じゃあな。明日出発の時は顔出す」


「うん。一斗さん、蘇芳ちゃんもありがとう。皆を待ってるね」


 部屋に入るのを見届けると帰路についた。

 明日はまた新しい町目指して旅だ。

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