11.幸せ

「悠真は私のこと好き?」


「な、なんだよいきなり」


 小町から突拍子もないことを聞かれた悠真は一瞬動揺し、口に含んでいるコーヒーを危うく吹き出してしまうところだった。


 関係が戻ったあの日から、なぜか「私のこと好き?」と毎日聞かれるようになった。

 いつも突然言われるので、少し驚く。


「もちろん好きだぞ」


 まあ『嫌い』と答える理由はないので、毎回『好き』と答えているのだが……


「やったぁ!えへへ」


 そのたびに声を上げて喜び、俺の腕に擦り寄ってくる。

 誰かに好きと言われて嬉しいのは俺も分かるが、ここまで距離を詰められると、かなり恥ずかしいし、また理性の枷が外れてあんなことになりかねない。


「なあ、何で最近そんなテンション高いの?」


「さあね、悠真にはおしえな〜い!!」


「じゃあ、俺のこと好き?」


「それもナイショ♪」


 何を聞いてもはぐらかされるはかりで、正直諦めている。

 下手に問い詰めるより、このままの方が両者幸せでいい。





 私は今、クラスメイトであり小学生時代からの親友、水樹こころとオシャレな街中カフェに来ていた。

 外装も食べ物も全部オシャレで、おまけに美しい花々を眺めながら食事ができるテラス席、華の女子高生にはピッタリの場所だ。


「へぇ悠真くんと仲直りできたんだ、おめでと」


 こころは美味しそうな苺パフェを頬張りながら、興味なさげに祝福する。


「もうちょっと興味持ってくれても良くなーい?」


「あんた達とは10年くらい親友やらせてもらってますけど、ケンカで絶交なんて絶対に無いもん。だから、あんた達のケンカとかどうでもいいの」


 小町と悠真の関係を10年間、一番間近で見てきたこころが一番そのことを理解している。

 だからこそ、口出しせず放っておく。

 

 今回小町から何度か相談された、けど正確な答えは出さず、かなり遠回しに伝えるということしかしてない。

 ちゃんと伝わっているのか、いないのか分からないけど。


「なんで気づかないんだろ」


 クレープを食べることに夢中な小町を横目に、こころはボソッと呟く。


 10年間…いや私と出会う前からかもしれない。お互いがお互いの恋心に全く気づかない。


「なんか言った?」


「いや、何も言ってない。ほら、口周りにクリームついてるよ」


 今はお互い同じ気持ちなんだってことに薄々気づいているだろうけど、確信が得られない。

 私が初めて出会ったあの頃から、ずっと恋人みたいなことを続けてるくせに。

 見てるのは楽しいけど、時々胸焼けしそうになる。

 だけど私はそんな二人を見ているのが大好き。


(幸せになってくれるといいな)


 こころはどこか悲しげな表情を浮かながら、切にそう思う。


 


 

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