7,水族館デートにハプニングはつきものらしい

 電車に揺られて1時間、ようやく水族館のある街に着いた。

 電車の中ではというと、弁当を食べ終えた小町と15分ほどスマホゲームをして遊び、その後駅に着くまで小町は寝ていた。

 そのせいで俺の肩は小町の唾液で濡れてしまっている。


「マジ許さんからな、荷物増やしやがって、そこのユナクロよってもいいか?」

「ごめんって許してよー!服選んであげるからさ!ね?」


 汚したくせに服代は払ってくれないんかいと聞こえない程度にツッコミを入れながら、二人で服屋に入って行く。


 服屋から出ると俺はさっそく小町に対して愚痴をこぼす。


「なんでこの服なんだよ、もしかしてセンスないの?」


 小町が選んだ服は、真っ黄色で正面にはマラカスを持って踊っている上裸の男性がプリントされている。


「いやいやいやいや!楽しいところ行くんだから、楽しそうな服の方がいいかなーって!」

「もっと普通の選んでほしかったよ…服にこだわりがないとは言え今後は着ないからな」


 まあ今日はぐだぐだしてると時間がなくなってしまうので、よしとしよう。

 それにしてもこの服を着てるとすれ違う人ほぼ全員から見られている気がする。

 今回は我慢だ我慢、これ以上お金と時間を取られるわけにはいかない。

 羞恥心を抑えて歩くんだ。


 なんとか水族館の入館ゲート前に着いた。


「チケットはどうされますかー…プフッ」


 え、なんか今笑われたんだけど、絶対この服のせいだよね???


「え、あ、一般2枚お願いします」


 チケットを購入し、中へ入っていく。


「受付の女の人に笑われたんだけど、明らかにこの服のせいだよな、やっぱり恥ずい」

「だけど、恥ずかしがってる悠真可愛いからこのままね〜♪」


 やっぱり水族館内の土産屋で服を買おうと思っていたのだが、小町がどんどん奥へ進んでいくので、買う暇もなく最奥部まで辿りたいてしまった。


「最後の最後までいい魚だったねー!すっごく美味しそうだから今夜はお寿司にしよう!」


 あ、本当に水族館の魚みて食べたいって思う人いるんだ、幻のポ○モン並みの遭遇率だと思ってたのにずっと隣にいたわ。


「そ、そうだな、今夜は寿司にするか」

「いえーい!デパート行ったあと、家の近くのあのお寿司屋ね!」


ピーンポーンパーンポーン

『お客様にイルカショーのご案内です。12時30分より、中央広場にてイルカショーを開催します。皆様、是非お楽しみください』


 魚を見ながらお寿司雑談をしてると館内放送が流れる。

 イルカショー…懐かしいな、小学生のころ小町と一緒に行ったんだよな。


「悠真イルカショーいこうよ!なっつかしいなー、よく二人で濡れてお母さんたちに怒られたよね!だから雨具着なさいって言ったのにーって」

「ハハハ、そうだったな、それよりあと十分で始まるから見たいならさっさと行くぞー」


 くらげが泳いでいる神秘的な空間を抜け屋外へ出ると、中央広場には仲睦ましそうな親子やカップルなどがたくさん集まってきていた。


「あ、ごめん!ちょっとトイレ行ってくるからここで待ってて!」

「ああ了解、気をつけろよー」


 小町は再び屋内に駆け去っていく。

 パッと腕時計を見るとショー開催まで後五分。余裕で間に合いそうだ。

 

 スマホをいじっていると、ふと雨具を用意してないことを思い出す。


「そこにちょうど売ってるみたいだし買っとくか、ついでに服も」


 小町には[雨具買ってくるからそこで待ってて]とメッセージを入れておき、すぐそこの店へ入っていく。


「その透明の雨具二つと鯨のシャツ1枚ください」

「はい、二千円になります」

「ありがとうございましたー!」


 雨具と服を買って先ほどの場所に戻るとまだ誰もいない。

 腕時計を確認すると後二分でイルカショーが始まる。

 ここで遅いぞと電話をかけるのはデリカシーがなさすぎるのではと思うので、黙って待つ。

 まあこれを逃しても30分後に第二部があるらしいので全く問題はない。

 雨具とシャツが入った袋を手にぶら下げ、再びスマホをいじりだす。


「遅い」


 トイレに行って、かれこれ二十分は経っている。もうとっくにイルカショーは始まっている。

 何かに巻き込まれたのではないかと本気で心配になってきた。

 これはさすがに電話をかけようと思い、電話帳を開いて、小町の番号を打ち込む。

 着信を始め、三コール目で出た。


「もしもし?!無事か?!どこにいるんだ!?」

『うぅぅ、わからないよぉ、戻ったら悠真いないから探してるうちに知らない場所きちゃった…、早く来てぇ』


 電話越しに小町にすすり泣く声が聞こえる。

 どうやら俺を探して迷子になってしまったらしい。


「わかった、すぐ行くよ!周りにどこか特徴的なものあるか?」

『ええと、公園みたいなところで、高いビルが見えるよ、あと噴水がある……えーと、あの、ごめんね、、』

「いや、勝手に離れた俺が悪いんだ、そこ動かず待ってろよ!」


 それだけ言い残して電話を切ると、急いで近くの館員を捕まえる。


「あの!ここら辺で噴水があってビルが見える公園ってありますか!」

「ええありますよ、入館口から入って左の通路へ入っていくと行けますよ」

「ありがとうございます!」


 それを聞いて急いで館内に戻り、できるだけ駆け足でその公園まで向かう。


(くっそ、この水族館広すぎるだろ)


 目的地まで中々つかない上に通路がたくさんあるので、適当にぶらついたら迷子になるのはわかる。

 さらに、この間に変なことに巻き込まれたらと頭をよぎり、さらに足を速める。



 ようやっとそれらしき広場に行き着き周りを見渡すと、噴水の向こうの東屋に泣いている小町が座っているのを見つけた。


「小町!」

「っ!悠真ぁぁぁぁ!」


 声でこちらに気づいた小町は、俺の名前を呼んでこちらに向かって走ってくる。


「怪我とかないか?変な人に絡まれたりしてないか?」

「ううん、大丈夫だよ」


 それを聞いて安堵した俺は、涙を拭いている小町を抱きしめる。


「へ?悠真?」

「ごめんな俺が勝手にいなくなっちゃったから」

「そんなことないよ、私もダメダメだったよね、あの場で待ってればよかったのに、まるで悠真のこと信用してないみたい、本当ごめんね」


 なんで小町が謝るんだよ。全面的に俺が悪いのに、これじゃまるで俺が被害者みたいじゃないか。


「小町、顔あげて」

「ん、なに…っ!!!」


 俺は小町の唇を奪う。

 初めてのキス。女の子の唇はとても温かく柔らかい。

 一秒、二秒、三秒、いつもより時間が経つのが遅く感じる。

 そして数秒、唇を離す。


「ゆゆゆゆゆ、悠真!?なにしてんの!」

「?俺なりの償い、かな?嫌だったならごめん本当に」

「嫌な、わけないじゃん…むしろ嬉しいというか」


 よかった、どうやら嫌ではなかったようだ。嫌だったなんて言われたら、これからどう過ごしていけばいいかわからない。

 今度からは、今後のことも考えてこういうことしよう。


「最後聞き取れなかったんだけどなんて言ったんだ?」

「い、いや!!!なんでもないよ!今日はもうこのまま帰ろうか」

「そうだな、なんか、その、今は楽しむって気分じゃないしな」


 抱擁を解いた後二人で手を繋いで水族館を出て、家に帰ってからもしばらく悠真にベタベタな小町だった。

 

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