13.葛藤

「こころは元気か?最近忙しいみたいで中々会えないんだよな。頑張りすぎて体調崩してないといいけど」


 今日、有希をわざわざ家へ呼び出した理由。

 それはこころが心配だったから。


 最近「会わないか」と連絡しても毎回「忙しいからごめんね」と返ってくる。

 毎度そう返ってくるものだから、無理して体を壊すのではないかと、かなり心配しているのだ。


「え?何のこと?学校から帰ったらずっと家にいるし、休日も家から一歩も出ないから、忙しいなんてことないはずだよ?」


「え?どゆこと?俺が連絡したら毎回忙しいって返信くるんだけど…もしかして俺、こころに嫌われてんの…?」


 てっきり有希は何か知っているのではと思ったが、予想外の答えに俺は少し混乱する。


「ないない!絶対ない!だってあの子、家でも悠真の話しすごいするもん。最近どんな感じとか何かあったとか。嫌ってるわけないよ」


 有希はこころが悠真を嫌っている、という可能性を全力で否定する。


「そう、なのか…じゃあなんで?」


「わかんなーい、まあどうにかなるよ」


 何ともまあ無責任なやつだ。

 でも、嫌われてないと分かっただけいいとしよう。

 ここで「嫌ってるよ」なんて言われたら、軽くメンタルブレイクして、しばらく家から出られそうになかったからな。



「私そろそろ帰るわ。お昼ご飯作んなきゃだし」


 有希は、スマホの時計を確認立ち上がる。

 もうそんな時間か

 掛け時計を見ると、ちょうど12のところで二つの針が止まっている。


「ああ、今日はありがとな」


「またね!小町にもよろしくっ!」


 玄関まで見送ると手を振りながら、エレベーターの方は駆けていく。

 手を振りかえすと、有希は満面の笑みでさらに大きく振りかえしてくれる。


 数秒後、完全に姿が隠れたのを確認して悠真は部屋に戻る。





「なんで悠真に会ってあげないのさ、寂しがってたよ?」


 家へ帰ると、こころの部屋に直行。

 こころに喋る間を与えずに有希が話す。

 

 しばらく無言を貫いていたが、絶対に折れないという眼差しを感じてか、諦めて話し出す。


「それは…特に理由はないけど、いま会っちゃダメなの」

 

 こころは少し顔を赤ながら俯いて、耳を澄まさなければ聞こえないような小さな声でボソッと言う。


「あー、そうきたかぁ」


 その発言と表情で有希は何となく全てを察した。


 恐らくというか確実に、こころは悠真に惚れている。

 今、少しでも顔を合わせてしまったら…ということだろう。


「わかった?でも、私完全に諦めてるから」


 こころは元気のない乾いた笑みを浮かべる。


 本人はこう言っているが、完全には諦めきれていないだろう。

 多分、完全に諦めたと自分に言い聞かせているだけだ。

 長年の付き合いだ。そのくらい聞かなくてもわかる。

 こころは誰よりも悠真と小町、二人の幸せを願っており、絶対にその関係を邪魔したくないという強い思いがある。

 だから二人が結ばれて自分の諦めがつくまで、絶対に顔を合わせてはならない。

 でないと、二人の関係を壊しかねないから。


「諦めちゃっていいの?」


「うん、私には有希がいるから…」


 こころはそう言うと、有希の顔を見つめて笑みを浮かべる。

 心の底から幸せそうなその顔に、有希は「そっか」と安心したように呟き、こころの隣に腰を下ろす。


「しょうがないからずっと一緒にいてあげる」


「うん、ありがと…」


「悠真たち心配してたから会いに行ってあげなよ?」


「うん、次の休みにでも行くよ。お詫びにケーキ持ってく」



 

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同棲中の幼馴染が、めちゃくちゃ誘惑してくる件 篠宮うみ @mutumunemituAMAP

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