13.葛藤
「こころは元気か?最近忙しいみたいで中々会えないんだよな。頑張りすぎて体調崩してないといいけど」
今日、有希をわざわざ家へ呼び出した理由。
それはこころが心配だったから。
最近「会わないか」と連絡しても毎回「忙しいからごめんね」と返ってくる。
毎度そう返ってくるものだから、無理して体を壊すのではないかと、かなり心配しているのだ。
「え?何のこと?学校から帰ったらずっと家にいるし、休日も家から一歩も出ないから、忙しいなんてことないはずだよ?」
「え?どゆこと?俺が連絡したら毎回忙しいって返信くるんだけど…もしかして俺、こころに嫌われてんの…?」
てっきり有希は何か知っているのではと思ったが、予想外の答えに俺は少し混乱する。
「ないない!絶対ない!だってあの子、家でも悠真の話しすごいするもん。最近どんな感じとか何かあったとか。嫌ってるわけないよ」
有希はこころが悠真を嫌っている、という可能性を全力で否定する。
「そう、なのか…じゃあなんで?」
「わかんなーい、まあどうにかなるよ」
何ともまあ無責任なやつだ。
でも、嫌われてないと分かっただけいいとしよう。
ここで「嫌ってるよ」なんて言われたら、軽くメンタルブレイクして、しばらく家から出られそうになかったからな。
「私そろそろ帰るわ。お昼ご飯作んなきゃだし」
有希は、スマホの時計を確認立ち上がる。
もうそんな時間か
掛け時計を見ると、ちょうど12のところで二つの針が止まっている。
「ああ、今日はありがとな」
「またね!小町にもよろしくっ!」
玄関まで見送ると手を振りながら、エレベーターの方は駆けていく。
手を振りかえすと、有希は満面の笑みでさらに大きく振りかえしてくれる。
数秒後、完全に姿が隠れたのを確認して悠真は部屋に戻る。
◆
「なんで悠真に会ってあげないのさ、寂しがってたよ?」
家へ帰ると、こころの部屋に直行。
こころに喋る間を与えずに有希が話す。
しばらく無言を貫いていたが、絶対に折れないという眼差しを感じてか、諦めて話し出す。
「それは…特に理由はないけど、いま会っちゃダメなの」
こころは少し顔を赤ながら俯いて、耳を澄まさなければ聞こえないような小さな声でボソッと言う。
「あー、そうきたかぁ」
その発言と表情で有希は何となく全てを察した。
恐らくというか確実に、こころは悠真に惚れている。
今、少しでも顔を合わせてしまったら…ということだろう。
「わかった?でも、私完全に諦めてるから」
こころは元気のない乾いた笑みを浮かべる。
本人はこう言っているが、完全には諦めきれていないだろう。
多分、完全に諦めたと自分に言い聞かせているだけだ。
長年の付き合いだ。そのくらい聞かなくてもわかる。
こころは誰よりも悠真と小町、二人の幸せを願っており、絶対にその関係を邪魔したくないという強い思いがある。
だから二人が結ばれて自分の諦めがつくまで、絶対に顔を合わせてはならない。
でないと、二人の関係を壊しかねないから。
「諦めちゃっていいの?」
「うん、私には有希がいるから…」
こころはそう言うと、有希の顔を見つめて笑みを浮かべる。
心の底から幸せそうなその顔に、有希は「そっか」と安心したように呟き、こころの隣に腰を下ろす。
「しょうがないからずっと一緒にいてあげる」
「うん、ありがと…」
「悠真たち心配してたから会いに行ってあげなよ?」
「うん、次の休みにでも行くよ。お詫びにケーキ持ってく」
同棲中の幼馴染が、めちゃくちゃ誘惑してくる件 篠宮うみ @mutumunemituAMAP
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