12.訪問者

 ここ最近、俺はお菓子作りにハマっている。

 お菓子作りと言っても、ホールケーキだとかそういった手の凝ったものではなく、クッキーやカップケーキなど比較的簡単に作れるものだ。


 基本的には自分で消費するのだが、どうしても食べきれない分は仲のいい小町、こころ、有希の3人はいつもお裾分けしている。

 いつもかなり喜んでくれているので、お菓子作りのモチベーションも上がる一方だ。

 樹に関しては、甘いものが大の苦手らしく、全く喜ばれなかった。悔しいが仕方ない。


「おっ今日はパンケーキ作ってるんだ〜、楽しみだな〜!」


「ごめん、今日は有希の分しか使ってない」


 悠真は申し訳なさそうな顔を向ける。


「なんでだよ〜!!」


 小町は思いっきり頬をフグみたいに膨らませて、悠真を可愛く睨んでいる。


「しょうがないだろ、今日は一人分の材料しか用意してないんだ。ほら、もうすぐ有希が来るから…」


 ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!


 噂をすればだ。

 ドア先の呼び鈴が3回、訪問者によって鳴らされる。


「ちょっと手離せないから、鍵開けてやってくれ」


「はいはい、分かったよ」


 不満たっぷりの顔をしながらも、なんだかんだ行動してくれる。可愛いやつだ。

 後からたっぷり甘やかしてやることにしよう。


「おう!悠真、約束通り遊びに来てやったぞ!」


 この元気エネルギーが爆発してそうなくらい明るい女の子、小鳥遊有希たかなしゆき

 俺や小町、こころと同じ北川学園高校の二年生。

 10年来の付き合いで、親友だ。

 今は俺や小町と同じように、こころとルームシェアをして暮らしているらしい。

 かなりの美少女であり、体型もまさに男の理想そのもの。

 そのせいか、クラスの男達どころか学年中の男達から熱い視線を受けている。


「よお、もう少しで出来上がるから待っててくれ」


「いや〜それにしても小町は相変わらずチビだな〜!」


「会って早々それは酷すぎでは?!しかもそんなに低くないし!」


 有希は女性の中でも175cmと背が高い方なので、有希から見ると小町はチビに分類されるのだろう。


 それにしても、このやり取りもすっかり見慣れてしまった。有希と初めて会った時もこんな感じだった。


 初めて会った時も有希にチビって言われてた。

 それに怒った小町が仕返しって毎日有希に会いに行って返り討ちにあう。

 そして俺に泣きついてくるまでがセット。

 思い出すと笑いが堪えきれず吹き出しそうになってしまう。


「悠真も何笑うな!」


「いやごめんごめん、昔から全く変わらないからつい」


 その後も有希と思い出話で盛り上がっていると、小町は完全にいじけてしまい、自室にこもってしまった。


「あらら」


「ほっとけ、そのうち顔を出すさ。それよりほら、できたぞ、特別にアイス二つ乗せといた」


「うわぁ!美味しそう!食べていい?!」


「どうぞ」


 有希は目の前にある苺がふんだんにトッピングされているパンケーキに目を輝かせながら、ナイフとフォークを器用に使いこなし、それを口に運ぶ。


「やば…これは絶品だわ、言葉なくす」


 手を頬っぺたに当て、目を潤ませている。

 自分が作ったものでこれだけの反応を得られたのは、かなり嬉しい。


「そうか、ならよかったよ」


 よほど美味しいのか、すごい勢いでパンケーキを食べる有希を眺め、非常に満足そうな笑みを浮かべる悠真であった。

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