3,廃部回避!?

 俺は、急ぎ足で教室に入り、親友の“高城樹”の元へ駆け寄る。


「樹〜」

「なんだよ、なんかあったのか?」

「うちの部が廃部になりそうでさ、あと一人部員入れば大丈夫なんだけど、知り合いに誰かいないか?」

「そんなやついるわけないだろ。みんな部活入ってるし」

「ですよね〜、やっぱり、廃部しかないのか〜」


 人と話すことが苦手な悠真にとって、見ず知らずの人を片っ端から勧誘するというのは、かなりの難易度なので、もう完全に諦めモードに入っていた。


「てか、そのことについて、御神先生はなんて言ってんだ?」

「あー、楽できなくなるー!って叫んでたぞ」

「ハハハ、御神先生らしいな」


 笑っている樹の隣で、これからどうしようかと真剣に考えていると、教室の入り口の方から、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


「藤咲く〜ん、後輩の子が呼んでるよ〜」

「お前、後輩に知り合いいたんだな、意外」

「うっせぇ、なんだと思ってるんだ」

「ボッチ」


 即答されたのは気に食わないが、聞かなかったことにして、声の方へ向かう。

 顔は見えていないが、おおよそ誰かは見当がついている


「やっぱりお前だったか、澪」

「はい、先輩に用事があって」


 御神澪、俺の中学からの後輩で、アニメが好きということで意気投合し、それがキッカケで仲良くなり、そこそこ関係が続いている。


「用事って?」

「あの、渡したいものがありまして」

「渡したいもの?」

「はい、これ、受け取って下さい!」


 恋人からプロポーズを受けるような形で、受け取った一枚の紙。

 そこには、『入部届、入部希望部・文芸部』

と、はっきり書かれていた。


「これ、どういうこと?確か、澪は、美術部に入ってなかった?」

「やめてきました、お姉ちゃんから、文芸部が廃部になるって聞いて」


 なんで知ってるんだ?とも一瞬思ったが、そういえば澪は、御神先生の妹だった。知っていても不思議ではない。


「あと、先輩が困ってるなら力になりたいなって思って」

「そうか、ありがとうな澪、でも、本当によかったのか?楽しかったんだろ?」

「いいんです!」


 ここまで力強く言われたら、もうこれ以上は何も言えない。


「それに、先輩と一緒にいる時間が増えて嬉しいから」

「ん?なんか言った?」

「いえ!なんでもないですよ!」

「じゃあ、とりあえず先生に、入部届出しに行くか」

「は、はい!」


 少し赤くなっている澪の顔を、不思議そうに見ながら、悠真と澪は、職員室に向かって歩き出す。

 

「失礼します」


二人で一礼して職員室に入り、窓側にある御神先生の元へ向かう。


「先生、部員見つけてきました」

「おっ、早いな!お前、やればできるじゃないか!悠真!」

「じゃあ、新入りさん入部届を…澪?!」

「先生、声!声!」

 

 いきなり大声を出すものだから、職員室にいる、教師と生徒、全員からの視線を浴びる。

 まさか、先生も自分の妹が来るとは思ってもいなかったのだろう。

 

「すまん、少し驚いてしまったよ」

「で、澪は本当にいいのか?」

「うん、私がやりたくてやってるんだから後悔はしないよ」

「澪は本当に…いやなんでもない、ということで、今日から澪は、文芸部の部員として歓迎する!」

「じゃあ、私は教頭に報告してくるから」

「あっ、先生!この資料机の上に置いときますね、あとこの紙も」

「その紙は持っておけ、必ず必要な時がくるだろうから」


 先生は俺に、謎の紙を託して教頭の元へ歩いていく途中、振り向いて澪に声援を贈る。


「澪!頑張れよ!」


 隣にいた澪は、少し顔を赤くしてグッドサインを先生に送る。

 その意味を俺は理解できず、ポカンと眺めていた。

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