4,もしかして私のこと好きなのかな…?
「ただいま〜、って誰もいるはずないか」
いつもは部活動があり、小町と一緒に下校しているのだが、今日は部活休みだったので、そのまま帰ってきた。
小町はバスケ部のマネージャーをしており、後片付けや掃除などで時間がかかる。
いつもは、部室で時間を潰せるのだが、部活がない日は鍵が掛かっており入れないため、俺はいつも一人で下校している。
「今日くらいは、頑張ってる小町のためにご飯作ってあげますか〜」
普段は、小町が料理、洗濯をして、俺が掃除やその他肉体労働をしているのだが、今日は廃部の件がなくなったこともあり、気分が良いので、いつも頑張っている小町にサプライズでちょっと豪華な料理を作ってやることにする。
「さっ、なにを作ろうかな!」
ウキウキ笑顔で冷蔵庫を開いた瞬間、笑顔が消えて真顔になる。
「なんも、入ってなくね?」
冷蔵庫に食品が何一つ入っていなかったのだ。
「いやいや!さすがに冷凍庫には何か入ってるよな!」
「……米しか入ってない」
これは、買い出しに行くほかないだろう。
幸いにも、スーパーは歩いて3分くらいのところにあるので、時間はさほどかからない。
問題は、買い出しの途中で小町が帰ってこないかだ。
サプライズと言うからには、本人にはバレてはいけない。
「ダッシュで行くしかないか〜」
財布とエコバッグを手に家を出る。
「あれ?悠真、どこ行くの?」
今、一番出会ってはいけない人物に出会ってしまった。
「あー、、えっと、その〜」
「(やばい!!なんでこのタイミングなんだ!!どうしよう)」
どうしようかとしばらく考えていると、小町が口を開く。
「あっ、買い物行こうとしてた?その手に持ってるのエコバッグだよね?」
「まあ、そうだな買い物へ行こうかと」
「何買いに行くの?もしかして、食べ物買いに行こうとしてた?ごめんね!私が買い物行き忘れたせいで冷蔵庫なにもなかったよね、本当にごめん」
「いやっ、違うから!食べ物と言えば食べ物だけど!!」
しょぼくれている小町を見て、もういいかと思い、俺は小町に考えていたことを全て話す。
「えっ!悠真が私にサプライズで料理作ってくれようとしてたの!?なんかそれはそれで、帰ってきちゃってごめんね?」
「こっちが勝手にやってることだから、謝らなくていいよ」
「じゃあ今日は、悠真にご飯任せちゃおっかな〜!悠真の作ったご飯楽しみ♪」
バレたらなんて言われるか心配だったが、喜んでもらえたのでよかった。
それにしても、喜んでる小町は…
「可愛い」
「へっ?!」
やばい、小町に見惚れてつい本音が出てしまった。
「可愛い??え?かわ、可愛い?」
いきなり可愛いと言われ、照れて少しパニックになっている。そこもまた、可愛いのだが。
さあ、どうしよう、これはもう言い逃れできないぞ。
考えた末、俺は小町に向かって、言葉を放つ。
「ああ、お前の喜んでる顔!ちょー可愛いな!」
かなり恥ずかしいが、ここはもう勢いで押し切るしかない。
「そ、そーなんだー!悠真に可愛いって言ってもらえてすごい嬉しいな!!」
「じゃあ、もっと悠真に可愛いって言ってもらえるように頑張っちゃおうかな〜!!」
「(なんで今そんなこと言うんだよ!絶対無理してるだろ!やばい恥ずかしくて死にそう)」
ついに耐えきれなくなり、悠真は顔を手で覆い、膝から崩れ落ちる。
「わわっ!?悠真、どうしたの!」
心配して、駆け寄ってきてくれる小町に言う。
「参りました…もう、やめて下さい…」
「ええ!?なになに!?」
「とりあえず、買い物行ってくる」
悠真は、逃げるようにその場から、駆け足で立ち去っていく。
「〜〜〜〜っ!!」
その場に残された小町は、後から自分が言ったことが恥ずかしくなり、一人悶える。
「大丈夫かな、変に思われたりしてないよね?」
「今回はちょっと攻めすぎたかな?!」
「あー、どうしよ!顔を合わせるのも恥ずかしいよ」
悠真が帰宅し夕飯を作り始める。
「小町〜、お風呂掃除頼んでいいか〜?」
「う、うん!小町ちゃんに任せない!」
「どうした?さっきからおかしくないか?」
「い、いや!そんなことないって!じゃあ、お風呂行ってくるね!」
バダバタといつもより荒い足音を立てながら、小町はお風呂場に向かっていく。
「(絶対さっきのこと気にしてるよな〜、いつもは自分からやってくるのに)」
「(だけどこのままじゃ気まずいよな〜、どうすりゃいいんだ)」
そんなことを考えているうちに、夕飯が出来上がり、少し時間がかかりすぎな気もしたが、お風呂掃除を終えた小町もリビングに戻ってくる。
戻ってきた小町は、先程のおかしなテンションではなくなっていた。
「(あれ?なんかいつもの小町に戻ってるな、まあ気まずい空気も無くなるしこれで安心だな)」
そのことに安堵しつつ、出来上がった夕飯をテーブルへと順番に並べていく。
「わぁ〜、美味しそ!すごい!こんなの作れるんだね!」
「ああ、母さんに叩き込まれたからな」
「昔は家事なんもできなかったなにね〜」
「うっせぇ」
そう俺は、一人暮らしを始める3ヶ月前までは家事が1つもできないダメダメ男子中学生だったのだ。
それを見かねた母が一から家事を叩き込んでくれて、今では完璧とは言えないが人並みくらいには出来るようになった。
「じゃあ食べるか」
「「いただきます」」
うん、美味い。今回は食材のおかげもあると思うが、かなり良い出来だと言える。
「美味し〜、今度から悠真に作ってもらおうかな〜」
「勘弁してくれ、料理まで毎日やってたら体が持たん」
「冗談だよ〜、悠真も頑張ってるもんね〜」
その会話を最後にしばらくの沈黙が続く。
そんな中、小町が口を開く。
「悠真、私って本当に可愛い?」
「ど、どうしたんだ急に」
「ちょっと気になって」
「可愛いと思うぞ、少なくとも俺は小町以外の女性を可愛いと思ったことはない」
これは本心だ。幼稚園の頃から小町を見てきたが、今まで小町以上に可愛いと思った女性は一人もいない。これは確実に言い切れる。
「もう!悠真はすぐそうやって!」
「ちょっ、本当にどうした」
なぜか小町が怒り出した。顔を真っ赤にしながら、ご飯をそそくさと食べ、『ご馳走様!』と言って自室に行ってしまった。
「なんなんだ一体」
悠真は、首を傾げながら一人で食事を再開する。
その頃、小町は――
「ん〜〜、なんなの!あれは!さすがにダメだよ!」
「あんなこと言われたら期待しちゃうじゃん」
「悠真、もしかして私のこと好きなのかな…?」
「もぉ〜!何考えてんだ私!」
自室のベッドで布団にくるまりながら、一人悶えていのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます