第22話 ︎︎男の心意気
キーナが出ていった後、空気は最悪だった。イルベルも俺を誘った手前、この事態を重く考えているのだろう。何度も謝ってくれた。イルベルが悪い訳じゃ無いのに、本当に良い奴だな。
メイムとディアは心配そうに俺を見ている。ヒューゼントに聞いたけど、前の勇者降臨は250年前だ。メイム達も話だけで、実際に落とし子を見た事はないんだろう。だからキーナの態度も読み切れていなかった。
でも、同じパーティでやっていく以上、避けては通れない衝突だ。1度じっくりと話したい。そうイルベルに伝えたら、頷きながらキーナを説得すると言ってくれた。
それから改めて食事を準備して、皆で席に着く。それぞれが話題を投げてくれたけど、やっぱりキーナの事が気になって、ほとんど頭に入ってこなかった。
「はぁ……何やってんだ俺……」
砂利の上に体育座りで顔を埋め、溜息を吐く。朝食が終わって、俺は魔術の訓練を理由に、そそくさとハウスを出た。
町から5キロの道のりを歩いて、昨日の採石場に着くと気疲れもあって座り込んでしまう。その間も思考はぐるぐると回り、木陰でちょっと休憩のつまりだったのに、もう数10分は座ってる。
8つも下の女の子相手に、大人気ない事をしてしまった。キーナにとっては俺なんて、毛虫以下なんだろうな。そんなのが反論したんだから、そりゃあ怒るわ。
でもさ、キーナもやり方がセコいんだよ。言いたい事があるなら、正面切って言ってくれればいいのに。
イルベルには落ち着いて話し合いたいって言ったけど、キーナが受け入れてくれるか……微妙だな。落とし子は天敵みたいなもんだ。神の寵愛を拒んだ不届き者。
でも……。
キーナは神殿に報告していない、と思う。だって、もう丸1日経つのに、何も言ってこないんだから。
もしかしたら、何か企んでいるのかもしれないけど、たぶん報告していたら怒鳴り込んで来ると思うんだよね。講習の時見た奴らはまるで洗脳されているようで、その大元が危険因子を放置する訳ない。
そこでふと思う。
そういえば、ヒューゼントはバレていないのかな。250年も生きてて、不死な事も知られているはずだ。でも魔杯の塔のトップに立っている。力があるから文句言えないとか?
あ~聞いとけば良かった。もう落とし子だって思ってたから、そこまで頭回らなかったわ。
でも、リズさんの態度を仕方ないって言ってたし、やっぱバレてんのか。
って事は、俺もそれだけの力をつけないと潰されるかもしれないって事だよな。そうしなきゃイルベル達にも迷惑がかかる。
「はぁ……」
ブラック企業で働いていた時とは違うプレッシャー。しかも逃げ場が無い。カンパニーを辞めて終わりっていう訳にもいかないもんな。
ファナタス教は世界中で信仰されているらしい。地域によって偏りはあるだろうけど、どこに行っても落とし子の扱いは変わらないはずだ。
だったら。
「いっちょやったるか!」
思いっきり膝を叩いて気合いを入れ、立ち上がる。背伸びをすれば、少し頭がスッキリした気がした。
思い悩んでいても現状は変わらない。なら、やるだけやってやるさ。大きく息を吸い、魔術に
「よし! ︎︎ここまでは問題無し。昨日は火の
魔法陣を操作して水の頁を開く。1頁目には3種類の術が載っていた。
「まずは……
すると、魔法陣が仄かに光り、掌に渦を巻く水が現れた。MPも1しか使ってないから、ほんのちょびっとだけど。
この術は、鋭い水の回転で敵を斬り裂くというもの。たかが水と侮ってはいけない。MPを多くすれば大概の物が切れる、結構危ない術だ。工業機械のウォーターカッターみたいな感じだね。
魔術にはこうして属性があるけど、生物に弱点属性があったりはしない。棲んでいる場所によっては通りやすい属性もあるみたいだけど、他より効きやすいっていう程度だ。つまり、どれだけ威力の高い魔術を連発できるかにかかってくるって訳。
掌の水を払い、ステータスを立ち上げた。
Lv.2
HP 37/37
MP 74/75
筋力 4
攻撃力 4
体力 5
防御力 7
知力 40
抵抗力 59
器用さ 27
素早さ 8
運 15
レベルは変わっていないけど、前よりMPが10上がってる。これは昨日のしごきで僅かばかり許容量が増えたって事かな。かなりなスパルタだったけど、こうして目に見えるとやり甲斐を感じる。
でも、ステータス自体には変化ないな。レベルも上がらないし、経験値にはならないのか。RPGだと知力がMPの基礎になったりするけど、それも無いみたい。
って事は、狩りと訓練を組み合わせればレベルアップによる上昇にプラスされていって、更にMPが伸ばせるって仕組みかな。
確かレベルアップで上がったMPは5だったはず。それに比べて、訓練ではたった半日で10も上がった。昨日はヒューゼントがいたから特別だろうけど、毎日繰り返せば馬鹿にならない数字だ。
俺に自虐趣味は無いけど、やり込み要素が見えてきたら、俄然やる気が出てきた。こういう地道なの、嫌いじゃないんだよね。
就職した当初は、通帳に残高が増えていくのも楽しかったっけ。まるでRPGの最初のフィールドで、小銭をコツコツ貯めるような達成感があった。まぁ、数ヵ月後にはそんな余裕も消えたけどさ。
ステータスを消して、頭上を見上げる。
まだまだ陽は高い。
気になる事も多いけど、今は目の前の事に集中!
俺は両頬を打ち据えて、気合を入れた。
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