第27話 ︎︎犬も食わぬは
今日の対話は、有意義なものとなった思う。キーナも落ち着いているし、表情も幾分柔らかくなってる。
でも……こうして見ると、やっぱり可愛いな。肌は多少日焼けしてるけど白くてすべすべだし、金の髪は真っ直ぐで艶やか。青い瞳は宝石のように煌めいて、ぷっくりとした唇は淡く色付いている。
俺がもう少し若かったら挑戦してたかもな。こんなおっさんじゃ話にならんわ。もうアラサーだしね。年齢=恋人いない歴は更新中だ。ここで暮らして行くなら、その内ご縁があるといいけど。帰ったところで、また社畜の日々が待ってるだけだもん。ヒューゼントも、未だにこの世界にいるって事はそういう事だろう。
あ、そうだ。聞いておこうと思ってた事があったんだった。ヒューゼントで思い出した。
「なぁ、キーナ。魔術と聖術って何が違うんだ?」
俺がそう切り出すと、キーナはまるで教師のように話し出す。
「魔術と聖術の違いは、干渉する
そう言って、前髪を上げると、額の中央に小さな赤い花弁が4つ。キーナは肌が白いからよく映えている。手を離すと、サラリと髪が落ちた。
「この紋は階級が上がる毎に更新されるけど、貴方は魔術師だから。最初から容量を表す紋を貰ったんじゃない? ︎︎魔術は基本的に読んで覚えるものよ。聖術は神との共鳴で得られるわ。魔術とは性質も、習得方法も違うの。貴方の紋はどんなの? ︎︎見せてよ」
身を乗り出すキーナに、俺は咄嗟に左手を隠した。これは、なんか見られたらややこしくなりそうな予感。
「いや……そんな大したもんじゃないし、気にしなくても良くない?」
しかし、キーナは頬を膨らませ文句を垂れた。
「何よ。私のは見たくせに、自分は隠すの? ︎︎男らしく見せなさいよ!」
そう叫んでテーブルを回り込み、俺に勢いよく飛びつくと、キーナが全体重を乗せて覆いかぶさった。狭いソファーで揉み合う俺達。
え、ちょっ!
なんかキャラ違くない!?
色々柔らかくてヤバいんですけど!
それにいい香りするし!
「ちょっ、ま、きゃーーーーーーっ!」
ゴソゴソと身体中をまさぐられて、思わず悲鳴を上げるアラサー男。情けないけど耐性無いんだって!
泣き叫ぶ俺が面白くなってきたのか、こちょこちょと
「んっ……」
零れた声に、キーナの手が止まる。ソファーの上で俺に跨る自分の姿に羞恥を覚えたのか、途端に焦り出す。
「あ、あの、ごめ……」
こんの……!
恥ずかしい声が出ちゃったじゃないか!
俺はキーナの腕を掴み、反転して組み敷いた。
「あんま男舐めんなよ」
俺はニヤリと笑い、仕返しに擽り返そうと手をワキワキさせる。
が、その時。
大きな音と共に扉が開き、イルベルを先頭に3人がなだれ込んできた。
それをぽかんと見つめる、俺とキーナ。
「へ?」
間抜けな声が重なったが、青筋を立てたイルベルの怒声にかき消される。
「お前ら何やってんの!?」
その後、廊下に正座させられて、たっぷり絞られた。この世界にも正座ってあるのね。
「まったく……いい歳して何やってんだよホント。まぁ、
溜息を吐くイルベルに、俺達は項垂れた。言い訳のしようも無いとはこの事だ。
だってさ、昨日まではあれだけ目の敵にされてたのに、あんな顔見せられたら舞い上がっちゃうよ。女の子に免疫無いし、浮かれるのもしょうがないでしょ。
「貴方が大人しく
そんな俺を睨みながら、キーナが口を尖らせる。それにムッとして言い返してしまった。
「はぁ? ︎︎お前がしつこいからだろ。人の嫌がる事はしちゃいけませんって、習わなかった?」
俺の方が座高が高いから、どうしても見下ろすような形になる。それが気に食わないのだろう。キーナは更に言い募る。
「何よ!? ︎︎接続紋なんて誰も隠したりしないわ! ︎︎あ~、そっかぁ。貴方の接続紋って、人に見せられないくらい貧弱なのね。そうよね。なんたって落とし子だもの」
今度は見え透いた挑発だ。しかし、頭に血が昇った俺はそれに乗ってしまった。
「んだと!? ︎︎俺のはすげぇんだからな! ︎︎お前がビビるだろうと思って、気ぃ使ってやったんだよ! ︎︎優しいなぁ、俺」
それにもキーナは白々しい顔で笑う。
「はッ。何が凄いのよ。私がちょっと擽っただけで、あ~んな声出すようなお子様のくせして」
それ言うか!?
「うるせ! ︎︎この痴女が!」
お互い売り言葉に買い言葉。
どちらも引けずに言葉の応酬が続く。
どれくらいそうしていたのか。ギャーギャーと喚く俺達の頭に鉄槌が下された。
「いい加減にしろ! ︎︎ガキの喧嘩かっての。もう昼飯の時間だ。食堂に集合」
手をひらりと振り、イルベルは疲れたように歩いていく。メイムも気にしながらその後に続いた。
「キーナ。楽しそうだね?」
そう言うのはディアだ。
楽しそう?
どこ見て言ってんだよ。
どっこいせと立ち上がる俺の視界の端には、桜色が咲いていた。
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