第18話 ︎︎ヒューア先生の魔術士講座
「やっと……着いた……」
鉄の門を
ヒューアの指導は無慈悲で俺の
つまり、やろうと思えばMP以上の術が使えるって事。
この感覚を最初に覚えると、いざという時に全力を出せるからとか言ってたけど本当か?
そのヒューアはへばって地に伏す俺をほっぽって、さっさと
ヒューアの指導はインプットとアウトプットの繰り返し。基礎的な魔術論から始まり、実践して体に叩き込む。そして休む間もなくどんどん難易度が上がっていき、脳も体も限界まで痛めつけられた。
魔術論は高度になればなるほど複雑さを増していく。正直そう簡単に覚えられるかってんだ。初級だってやっとだったのに。
だけどヒューアは意に介さず、早口でまくし立てる。同じ落とし子なんだからもっと優しくしてくれてもいいんじゃない!?
そう叫んだらにこやかにぶん殴られた。魔術士が暴力に走るってどうなんだ。泣き言を言う度に殴られ、日本の気候さえ操ると評判のテニスプレイヤーの如く鼓舞する。ただでさえ疲労困憊なのに暑っ苦しいたらありゃしない。
一応教本は用意してくれてたんだけど、専門用語だらけでちんぷんかんぷん。それでもなんとか読み進めると、やっぱりというかプログラミングのような内容だった。
魔術を使うにはまず
これは手の印、契約紋によって変わってくるらしい。リズさんの五芒星なら火水熱風地の5種類。ヒューアは闇までの7種類。250年生きているヒューアでさえ、万魔は初めて見たと言っていた。万魔の魔術を使う魔物もいないとか。
でも、万魔を扱うのはそう
まず今の俺じゃあMPが足りなかった。属性の書には
万魔属性はこの最低基準MPが半端ないのだ。1頁1条の1番弱い術でさえ500も必要になっている。調節しようにも一定の基準値からはエラーが出てしまう。
俺は今レベル2。MPは60だ。到底使えない。この先使いこなせるようになるのかも分からなかった。
ヒューアは見てみたかったようだけど、使えないんじゃ仕方がない。分かりやすく舌打ちしやがった。
あの訓練って八つ当たりもあったんじゃねーの?
そんなこんなで、取り敢えず1番汎用性の高い火の魔術で練習を繰り返した。MPの調節、範囲の拡大縮小、長時間の維持などなど。
そして
これはパソコンと同じ使い方だ。昔のMMORPGでは結構重要な要素だったから俺も多少は分かる。ひとつのキー入力でコンボを繰り出したりできる便利機能だ。
ある時期から無人操作で稼ぎまくる奴らが蔓延って使用禁止になったけどね。
使い方は魔術でも同じ。簡単なキーワードに発動の手順を登録して、タイムロスを減らす技だ。戦闘中に長い詠唱は命取りになるからね。
でもこれ、あまり一般的ではないらしい。理由はその組み方が煩雑だから。ひとつひとつ手順を
ヒューアもイギリス人だから習得に時間がかかったらしい。自動翻訳はあるけど日本語は元からヒューアの世界の文字だもんね。スキルの適用外だったみたいだ。
そういう意味ではチートなのか?
なんかヤダな。
あんな奴らの恩恵に預かってるみたいでさ。
それでも生きていかなきゃならないんだ。使えるものはなんだって使ってやる。それだけを心の支えにして、必死にヒューアのしごきについていった。
それでこのザマだ。
晩飯も食わずにぶっ続けでこの時間までかかった。
でも、それだけヒューアも俺を気にかけてくれてるって事だと思う。だって、ヒューアもそれは同じだったんだから。飯も食わず、休憩もなしに俺に付き合ってくれた。
神に対する反骨精神もあっただろう。
理不尽に妻子と離されて、捨てられた復讐心だ。きっとこれから先も、ヒューアは1人で生きていく事になる。不死とは残されるだけの生なんだ。俺もいつかヒューアを残して死ぬだろう。それまでは同じ落とし子として寄り添いたいと思う。
一緒に飲みに行くのも良いな。イルベル達も誘って。あいつらならヒューアも受け入れてくれるはずだ。冒険して、金を稼いで、いつか恩を返そう。
冷たい石畳に頬を当てながら、別れ際のヒューアを思い出していた。
月を背にしてヒューアは寂しそうに笑う。
「ひとつ、お願いがあるんだ」
そう言って。
俺は顔だけ上げて言葉の続きを待った。もう声を出す気力も無かったから。
「私の名前を呼んでほしい。私はヒューアなんかじゃない。ヒューゼント・ネアー。それが私の本当の名前なんだ。もう誰も読んでくれない、忘れられた名前を君には呼んでほしい」
地に這いつくばりながらながら、俺は頷いた。ヒューア、いやヒューゼントが言うには七芒星の使い手として、風の便りであだ名が世に広まり、著書を出版した事でネアーがヌアラと訳されてしまったらしい。最初は訂正していたけど、数に負けたそうだ。
それはとても辛かったろう。あだ名というものは親愛の証でもある。それを見ず知らずの人が呼ぶ不快感。いやでも思い出される家族。そして苗字さえも書き換えられてしまった。
それはイギリスで生きていたヒューゼント・ネアーの死でもある。俺もいつかそうなってしまうのだろうか。ゼンドーはこの土地では珍しい苗字だ。徐々に変わっていくかもしれない。
俺も勇者のなり損ない。ヒューゼントのように不死である可能性もあった。
まだ分からない事だらけだけど、堅実に生きていこう。少しでも長く、ヒューゼントの心の拠り所になれるように。
顔を伏せ、肩を震わせる俺に優しい声が降ってくる。
「ありがとう。本当に優しい子だね……。君は私が無くした物を沢山持っている。どうか生きておくれ。また会える日を楽しみにしているよ」
その言葉だけを残してヒューゼントは消えた。次にまた会えるか分からない。今生の別れかもしれないのに、あっさりと行きやがって。
でも、泣き顔を見ない振りしてくれたのかもな。あんたも十分優しいよ。この訓練だって、文句ばっかり言ったけどさ、俺のためだったんだろ?
俺がこの世界で生きていくために厳しく接してくれたんだ。あんたは立派なお師匠さんだよ。
ありがとう。
大陸の裏側だろうが、地獄の果てだろうが絶対会いに行ってやるからな!
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