第2話 寄り道
クマッピィをなんとかして捕まえようと死に物狂いになっていたあたしですが、気がついたら三十分以上も台の前で奮闘していました。このまま続けたら昼前になってしまう……という悪魔からの指摘を受けたあたしは、仕方なくゲーセンを出ました
あたしは、入口の自動ドアの前で財布の中身を確認します。
「ぐぬぬ今月のお小遣いが……」
何処かの水族館で購入したキュートなニュウドウカジカちゃん財布を覗くと、その中には千円札一枚しか入っていませんでした。いや、理性を働かせたあたしは、両替機に突っ込む寸ででこの千円札がなけなしの昼食代だと思い出し、慌てて食い止めたのです。
[食い止めたのは我だ。貴様は突っ込む気満々だっただろうが]
「ですが、ギリ食費だけは守りきりましたね……」
[なんともテンプレートなフラグだったか。我も貴様が賞品を勝ち取ることはないと思うていたからな、賞品を学校に持ち込んでからはどうするのかについてはツッコまなかったぞ]
「うっさいですね!!大体あの店はアーム弱すぎなんですよ!意図的ですよ意図的!!ぼったくりだぁ!!!!」
[なんともテンプレートなイチャモンなのだ]
あたしの
「さぁ、気を取り直して学校に向かいましょうか」
[やっとか……]
「あっ、あそこにyobigo中宮駅前店が!!」
[待てっ!!行ってどうするのだ!?今度こそ昼食代を使い果たすぞ!?]
冗談ですよ。あの人間を秒速で溶解させるクッションは英世一枚では購入できません。試用するにしてもあの寝心地の良さだとあっという間に昼過ぎになってしまいますので今回は諦めましょう。
[案件でもしているのか貴様は……]
「あっ、ありました」
[ってどこへいく!?今度はコンビニ!!]
「今日のお昼ご飯を買うのです」
[そ、そうか……やっとまともな理由の寄り道が……]
あたしはゲーセンの少し先にあるコンビニに入店しました。
ここで来年、中宮高に入学する栄えある中学生にアドバイスです。残念ながらウチの学校は新築のくせにショボいので食堂なんてありません。一応購買はあるのですが、昼になるとそこは生徒の渦で大変なことになるので、弁当を貰えない不憫な方は登校前に買っておくのが吉です。
そんなわけであたしはコンビニに入るなり、真っ先に書籍コーナーに向かいます。
[どこへ行く貴様!?貴様は弁当を買うために入ったのだ!!それ以上でも以下でもないだろう!!!これ以上余計な……]
「あっ、今週のマガソン売ってる」
[お、おい貴様……今は登校中だと……]
「押上リバイバルズの最新話が楽しみなのです。授業中にでも読みましょう」
[この娘やりたい放題だ]
あたしは牛カルビ弁当と、お金が余ったのでマガソンを購入してコンビニを出ました。さぁ、あと少し歩けばいよいよ学校ですね。
[貴様。これはいつも通りではないよな?いつもは学校まで直行しているのだな?]
「当たり前じゃないですか!遅刻した時だけですよ!」
[……]
「なんで黙るんですか?てか、あなたひょいっとして学校までついてくる気ではないでしょうね?」
[……?当たり前であろう。試練の達成を見届けるのがアスタロト様の最側近である我の使命である故、いつも傍にいないでどうする]
「マジかよです」
では、これから何をする時もこのクソ悪魔の監視下なのですか。はぁーしたいこと制限されるわー身の丈狭くなるわー何をしてもコイツの目があるわでもう大変ですわ。あたしの青春がどんどん崩壊していく。
[貴様はそれはもう十分すぎるほど登校を満喫していたと思うぞ。それと前触れもなしに我をクソ呼ばわりするな]
そうこうしているうちに学校が見えてきました。数年前に出来ただけあって、真っ白な校舎は新築の匂いがぷんぷんしますね。
おっと、校門前で仁王立ちしているのは生徒指導の御里瓦先生ですね。ゴリマッチョな体型が特徴の先生ですが、担当は倫理です。この先生は遅刻したあたしをいつも校門前で待っていてくれるのです。筋肉ムキムキで厳つい顔面に似合わずお優しい先生ですね。
「来たか南條……これで通算遅刻回数二十五回目と」
先生は私を見るなり、メモ帳に何かを書き記しています。
「あっ、先生おはでーす」
「よし、とりあえず生徒指導室まで行こうか」
「はーい」
あたしは意気揚々と手を挙げて御里瓦先生についていきました。
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