第2話 ※二人は怪現象が起きるというスポットを訪れています
目に見える物が実体とは限らない。
何が現実で何が空想か。
──貞子は物体と物体間を移動してテレビから這い出てくるのか?
──ポルターガイストは本当に物理法則を無視して物体を操れるのか?
──天使のキューピットは人間の脳に特殊な電磁波を当てることで二人の男女を恋に落としているのか?
真実は本人のみぞ知っている。中宮高校怪現象研究会へようこそ!
……というどこかの映画のオープニングを丸パクリしたようなキャッチコピーの下、設立された中宮高校怪現象研究会。通称オカ研。
その長ったらしい名の通り、中宮市で起こる怪現象や都市伝説等々を科学的に探求、解明していく……という大義名分の部活動、基同好会である。
しかしながら去年の新設以来、三名の部員のうち一人は幽霊。残る二人も特に何もすることなく。何で設立したのか、理由が問われる今日。
実質帰宅部状態のオカ研を学校側は許すはずもなく。先月に開催された生徒会主催の部活動会議にて、オカ研に対しこんな処罰が可決された。
──今後一週間以内に該当部の活動意義を確立できる記録を提示しなければ廃部とする。
つまりオカ研存続の危機。絶体絶命の緊急事態である。
というわけで地元の資料館やネットを漁りに漁り回った末、
やっと見つけたよさげな怪奇現象を解明するため、二人は夜遅くに町外れの古びた教会を訪れたのであった。
現在。二人は丘の上の教会へ続くあぜ道を懐中電灯を照らしながら歩いている。
「そもそも論……なぜ部長は今の今まで何もしてこなかったんですか?部長って結構なオカルトマニアですよね?」
冷ややかに核心を突いたのは中宮高校怪現象研究会副部長・
毛先が跳ねた肩まで届くクリーム色に所々紫の混じった髪。もちろん地毛ではない。エメラルドグリーンに輝く宝石のような瞳。ゴリゴリのカラコン。両耳には花柄のピアスが。加えて、今の彼女の服装は無地のワイシャツ、学校指定の赤ネクタイ、ピンク色のセーター。寒いのでセーターの上には紫色のスクールパーカーを羽織っている。ブレザーは家に置いてきた。
そして極限までたくし上げられた黒地ストライプのスカートに黒タイツ。
この派手派手な見た目で不良と勘違いされることもしばしばだが、中身は至って普通の清純派女子高生である……と、本人は自称している。
「キミが課題が追い付かないやらテスト勉強やら理由をかこつけて俺の誘いを断っていたからだろうが!!そもそも部室で目的外の行為をするな馬鹿タレ!!!」
「別にいいじゃないですかやることないんですから!!てか今あたしのこと馬鹿って言いましたね!?いいんですか?風紀委員長がそんな言葉を使っちゃっていいんですか?」
「幼稚ないちゃもんを付けるでない!!俺も風紀委員の前に一人の人間だ!!!チクチク言葉の一つでも言うだろう!!!」
「チクチク言葉!チクチク言葉なんて単語超絶久しぶりに聞きましたよ!部長小学校に通ってるんですか!?」
「なんだと!?」
煽る黒子に鬼の形相で口を尖らせたのは、中宮高校怪現象研究会部長・
きっちりと整えられた黒髪の七三分け。真長方形の黒縁眼鏡。服装は私服である水色のワイシャツ、白色のベスト、無地の焦茶色コート。白色のチノパン。
黒子と対照的に外見はまさしく優等生。中身も外見相応で成績優秀、スポーツ万能。学校では風紀委員委員長を務めている。黒子曰く、眼鏡を外すとなかなかの好青年らしい。
「辞めませんかこんな不毛な争い」
「けしかけてきたのはキミ……そうだな、通りかかった方々に不審者と思われないか……」
「こんなとこすれ違うのお化けしかいないですよ。いやいやお化けもこんな大声で叫んでたら逃げちゃうんじゃないですか?」
「おば……幽霊を探索しに来たわけじゃないのだがな」
「て、ていうかあたしが断っても一人で行けばよかったじゃないですか。まさか怖いんですか?その年になってまでぼっちで
「俺はまだ一六だぞ」
「はぁ?年下じゃないですか!あたしもう十七ですよ先輩って呼んでくださいよ先輩って!」
「なぜこんなところで年齢のマウント取り合い合戦を繰り広げる必要がある!?」
「あたし涙流さないで玉ねぎ切れるんですからね!インフルエンザの検査の時にやる鼻に入れる奴だってちょーっと涙流すくらいでできますし?ピー↑マンだってもう半年くらい前に克服しましたか……」
「そんくらい俺にだってできるわ!大人の判断基準低すぎるだろ!!」
と、あまりに低脳な口論を繰り広げているうちに黒子は白熱さが冷めて白けてしまう。
「はぁ、何の話してたんでしたっけ?」
「キミが無駄に話を逸らすからだろ」
「あの」
「なんだ」
真っ暗な道の先を見つめながら小声で呟いた黒子。
「あたしたちいつまでこの田舎道歩いてるんですか?」
「そうだな。そろそろ到着してもいい所だが」
そう返し、徐に道の先を懐中電灯で照らす酒咲。
しかしいくら先を照らそうも道また道で肝心の教会は見えず。
「てか、例の教会には何があるんでしたっけ。こんなガヤガヤ騒ぎながら歩いていい場所なんですか?もっとホラーっぽい雰囲気とか醸し出さないと」
「それは事前に教えたはずだが」
「討論に熱中しすぎて度忘れしちゃいました!もう一度教えてください♪」
「ggrks」
「けっ」
唾を吐きつつ暗闇の中スマートフォンを取り出し検索サイトを開く。
カバーすら装着されておらず、りんごのマークが露わになったスマートフォンは黒子曰く最先端のお洒落らしい。
「ググっても出てきません」
「まあ俺も地元の古書店で偶然見つけたものだからな。インターネットで検索したとて出てこないのは当然だろう」
「先言えや」
口だけでなく目を尖らせた黒子のツッコミも聞き入れずに、酒咲は背負っていたリュックを腹に背負い直すと、ゴソゴソと中を漁り始める。
取り出したのは一冊の真っ白な本。その厚さに黒子はえぇと口漏らした。
「これは……?」
「悪魔の書だ」
「なんですかその単純且つ胡散臭い名前」
「この本には教会に眠る悪魔の封印を解く方法が書かれている……っと古書店の店主は仰っていた」
「日本で西洋の悪魔が封印されてる事自体変な話ですよね」
「まあ教会だからな。悪魔の一人くらい封印されているだろう」
「全国で職務を全うする教会関係者方々に謝罪動画出してください今すぐ」
そう黒子が懐中電灯機能がオンになったスマホを掲げながら言うので、酒咲はメガネを白くしながら謝罪した。
「え?それより部長とあたしは悪魔を復活させに来たんですか?」
「そんなわけないだろう。この町の老人たちに伝わる中宮七不思議の一つ、満月の夜にこの教会を訪れた者は呪われるという言い伝えを検証しに来てな」
「曖昧すぎません!?もっと髪の長い女が現れるとか神隠しに遭うとかないんですか!?」
「特にそう言う言い伝えはないな」
「それに悪魔て……幽霊とかならまだホラー要素ありますけど」
「ゆゆゆ幽霊よりはましだろう!?」
「あー、さては部長……オカルトマニアなくせに幽霊怖いんですね!」
「ふっ、何を言っているのか分からんな。俺は全国の心霊スポット全てを網羅した男だぞ」
「えっ、マジっすか?」
「そう言う本があったんだ」
「本かよ」
黒子はニヒヒと口に手を当てながら小悪魔な笑みをこぼす。
「でもそうですか〜部長幽霊怖いんですか〜」
「なんだその猫のような目は」
「なんでも〜それより、見てください!もう着くみたいですよ」
「むっ、まだ先のはずだが……」
バキッ
突如、脇から小枝が割れたような音がした。
「!?!?!?!?!?」
酒崎の顔が一気に青ざめ、衝動的に黒子の背中に隠れる。
「ななななんだ今の音は!?」
「ただ小枝が折れた音ですよ」
「は?」
ふと黒子の足元をみると、スニーカーの下に折れた枝が転がっていた。
そのまま酒崎は黒子の顔を見てると、頬を膨らませて噴出寸前の口を手で押さえていた。
「ぷくく、部長は怖がりさんなんですねー」
「貴っ様騙したなああぁぁぁ!!!!!」
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