悪魔との邂逅

第1話 テンプレ

「我が中宮高校怪現象研究会は、現在廃部の危機にある!!!」


 唐突の一声により、畳一畳分しかない窮屈な部室の静寂は終わる。


「えぇ、なんですか突然……」


 部室に一対しかない机と椅子に堂々と座り込み、黙々と数学の課題をしていた黒子くろこも流石に振り向かざるを得なかった。


「なんですかではないだろう!!我が部活は廃部の危機にあるんだぞ!」


「あっそうなんですか。今までありがとうございました」


「あぁ、こちらこそ……ではない!!!」


 ノリで頭を下げそうになるも慌ててメガネをクイっと上げ、バンッと部長用のデスクを叩く部長酒崎さかざき


「な、なぜキミはそうも危機感を持てないのだね。仮にも副部長だろう?」


「いやだって、だろうな……としか」


「だろうなじゃあないんだよ!!なんとかして食い止めたいとは思わないのかね!?」


「そもそも、ですね……三人(一人幽霊)しか部員がいない時点で四人以上っていう部活動の規定には入ってませんし……逆によく今の今まで存続できたねとしか思えません」


「ぐうの音もでん……」


「それ以前にですよ……あたしたちって、怪現象研究会っていう名前に見合う活動、なんかしましたっけ?」


 その瞬間、満を辞して酒崎のメガネはパリンと割れた。


「それが問題なのだよ!今まで生徒会に活動記録を提示しなければ経費を落とすと忠告されていたのだが、遂に部活動名簿からすらも抹消すると……」


「あたしたちの部活に経費なんてあったんですね」


「なんとかせねばならん!南條君、何かいい案はないか!?」


 と、酒崎は死に物狂いで黒子に迫る。


「な、なんであたしに……」


「キミをこの部へ勧誘したのは他でもない俺ではないか!その恩返しとして」


「いやいや、入部してくれる部員が一人もいないってあたしに泣きついてきたのは部長じゃないですか!過去を捏造しないでください!!」


「しかし当時のキミはすんなりと了承してくれたではないか!」


「そ、そりゃ当時のあたしは病み上がりで……まともに入れそうな部活が一個もなくて……切羽詰まってましたので」


 中宮高校では、生徒は部活動強制参加。

 つまりは、誰もがなんらかの部活に所属せねばならない。


「それなら!」


「それとこれとは違いますよ!」


 どうやら、黒子は部活が廃部しようがなんら問題ない……そういう口ぶりだ。

 

「仕方ない」


 酒崎は黒子に背を向け、酒崎の身の丈ほどある大窓から外の景色を眺める……フリをする。

 そして戸惑い気な黒子に、


「そういえばキミは、風紀委員始動の服装検査に引っかかる寸前にまで至ったことがしばしばあったな」


「ギクッ……!!」


「今現在、キミのナリは……?」


 そう言って、手を後ろに組みながら黒子に這い寄る酒崎。

 酒崎の頑強な目は黒子を獲物を射る鷹のように凝視しており、

 恥ずかしさで頬が赤らめ、ばっと腕を体にクロスさせる黒子。


「お、乙女の体をあんまりジロジロと見ないでく……」


「ふむふむ?染髪にぃ?ピアスにぃ?カラコンにぃ?制服の着崩しにぃ?スカート丈の驚異的な短さにぃ?実に五項目の校則違反!これは粛清待ったなし!」


「あああ、あたしだって好きでこんな格好してるわけじゃ……!?」


「なぜ、服装の乱れ常習犯のキミを今まで放置していたか……キミはわかっているか?」


「部長が……容赦してくれたから……」


「仕方ない、ここは風紀委員委員長として正式に粛清を……」


「わっーわっかりましたぁ!一緒に考えましょう!!!廃部なんて許せないですもんね!!!!」


「それでいい」


 フッと微笑する酒崎に、黒子はなけなしの台パンで手を痛めた。

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