第4話 黒子豹変
「も、もう着いたのか……」
「ここが、教会なんですか……?」
酒崎が見たとされる“昼の姿”の教会は、どこにでもある少し寂れた教会であった。
しかし、“夜の姿”の教会は、一言で言うなら廃墟。教会の頭頂部にある不思議なモニュメントが、月の光に照らされ怪しげに輝いている。
その姿をみて、二人がテンパるのは言うまでもなかった。
「ななななんだこの悍ましい姿は!日中とは大違いだぞ!?」
「本当に入るんですか!?マジで入るんですか!?」
「ははは入らなければ活動報告が書けんだろう!!」
「もうそれっぽいこと書いて提出しちゃえばいいじゃないですか!?」
「そんなこと、一風紀委員の俺からしてできるわけないだろ!!いいから入る……」
そう言うなり、酒咲は教会の扉にぐいっと手をかける。後ろから「やめた方がいいですよ〜」との声が聞こえてくるが、酒咲のテンパり具合は尋常ではなかったので、耳に入ることはなかった。
だが、というより当たり前か、教会の扉は固く閉ざされており、開く気配すらない。
「あ、開かん」
「なんですとぉ!?」
「大声を出すな呪いに見つかる!!」
酒咲はテンパって意味のわからない発言をした。
「そうですよ!!鍵がかかってるんですよ!!!どうりで開かないわけです!!!そもそも勝手に教会に入るなんて不法侵入ですよ!!これじゃあ調査は無理ですね!!!ははは早く帰りましょうよ呪い殺される前に!!」
黒子も言葉の最初は真っ当な考えを話していたが、徐々に焦り始めて意図しない発言をした。
「そ、そうだな!仕方ない……帰るか!」
酒咲はあまりの恐怖に風紀委員のプライドなんて忘れ、黒子に同意した。こんな調子でオカ研なんてやっていけるのだろうか。
だが、その時──
「副部長……何か言ったか?」
「いえ何も。怖いからそう言う冗談やめてくださいよ!」
「わ、悪かった……(冗談ではないのだが)」
『……っま』
「むっ?」
『がhsydhsんsdんdんすあhshsじゃじゃあいあじゃmsねんdsj↓sjsまままま』
「「ひぃぃぃぃぃぃ!!!!!」」
扉の向こう側から、確実に人間ではない何者かの悍ましい声が聞こえた。
その声に二人の背筋が凍りつくのは時間の問題だった。
「やややヤバいです。確実に呪いが近づいてます!」
「よし!即時撤退!!!帰宅だ!!!!!!」
酒咲は満を辞して扉を諦め、180度回転しダッシュした。
黒子もそれに従い、逃げる。
「つつつ吊り橋効果って言葉ありますけど、あたしに期待しても無駄ですよ!あたしには約束された未来の許婚がいますので!」
「ざざざ戯言を。!!!どどどどうせ画面越しにだろう?」
「ははははぁー?どどど童貞にだけは言われたくありませんよ!」
「なんだとぅ!?」
興奮して訳がわからない会話を繰り広げるオカ研のお二方。
しかしそこでふと、黒子の足が止まる。
「副部長?」
酒咲は呆然と黒子を見つめる。
黒子は下を向いており、表情は伺えない。
「ど、どうしたんだ副部長……よもや戻ろうなんて魂胆は……」
その時、何を思ったのか、黒子は踵を返し教会へ猛ダッシュを始めた。
「副部長ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
酒咲は事態を呑み込めず、とりあえず黒子を追いかけた。
二人は再び扉の前に戻ってきた。
黒子は扉の前に立ち尽くし、沈黙している。
「副部長、何をしているんだ?」
病み上がりとは思えない黒子の足の速さ。酒咲は荒い息を吐きながら黒子に尋ねる。だが、黒子は終始無言で答える素振りすらない。
その状況に、酒咲は何かを察した。
「の、呪い……!」
自身の中で確信めいた言葉を発すと、酒咲は確証を得るために黒子の肩に手を乗せる。
「ふ、ふ、副部長……」
[人間風情が私に触れるな。穢らわしい]
「やっぱりいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
さっきまでのほのぼのとした黒子はどこへ行ったのか、酒咲の手をスッと振り払うと、悪魔の形相で酒咲を睨みつけた。
「や、やはり呪いか!!副部長から離れろ」
酒咲は数歩後退し、手をバシィっと払って黒子?を牽制する。あれだけテンパっていた酒咲も、いざというときは頼りになる男のようだ。
だが、黒子?はそんな酒崎の声も聞かずに、扉をいとも簡単に開け……ることは鍵がかかっていてできなかったので、右脚を構え、あろうことか勢いよく蹴りつけた。
「副部長!!!!!」
その一撃により、扉は半壊を通り越して粉々となった。
華奢な少女のか細い脚から放たれたとは思えない脚拳の威力に、酒咲はへなへなと倒れ込んでしまった。
「ど、どこに行く……副部長……」
そのまま黒子?は教会の中に吸い込まれるように入っていく。
黒子の姿が教会の中に消えると、何事もなかったかのように扉が忽然と現れる。
かすかに見えた教会の内部では、人間ではない何かが黒子に待ち受けていた。
「……」
一連のこの世のものとは思えない現象を、酒咲は一言でしか表現できなかった。
「なにこれ?」
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