第3話 試練の説明
あたしは御理瓦先生に空き教室に連れていかれた後、ゴリマッチョ先生による説教&反省文を腱鞘炎になるまで書き殴らされ、解放されたのはお昼前でした。いつもの遅刻した時のルーティンです。最初は嫌々ながら取り組んでいたのですが、いい加減慣れましたね。
[この女狂っている。アスタロト様とは比べ物に……いや、大して変わらんな。流石アスタロト様の生まれ代わりだ]
「何をぼそぼそ呟いてるんですか?」
[いいやこちらの話。結局、貴様は午前の授業を受けられなかったわけだが]
「そうですね。マガソンは午後読むとします」
[本当に頭のネジぶっ飛んでおる]
教室にも入れず迎えた昼休み。あたしは一人屋上のベンチでお昼ご飯です。いつもなら風紀委員長権限で秘密裏に電子レンジが設置されている、アタシが所属する部「中宮高校怪現象研究会」の部室で食べるのですが、今日は部長が風紀委員の定例会議に行っているので部室が閉まっています。わざわざ鍵を取りに行くのも面倒なので、今日は屋上で食べるとしましょう。ちょうど屋上には誰一人いないですしね。
[誰もいないのは本来鍵がかかっているからだ。ピッキングで無理矢理こじ開けた時には貴様の倫理観を疑ったぞ。まあ我は悪魔なので倫理観など毛頭ないがなわはははは]
「そういえば、あたしが受ける試練って何なんですか?」
[……っ、まあいい。やっと聞く耳を持ったか。仕方ない、教えてやろう]
本当ならば受けたくもないですけどね。せっかくの青春が台無しなるのは嫌です。
「貴様に待ち受ける試練……なぁに簡単だ。なんせ試練の目的はアスタロト様の記憶を取り戻すことだからな]
「そのために何をしろって言うのです?」
[貴様には、アスタロト様の記憶の中で特に印象深かったであろう、ソロモン王が悪魔たちに課した、悪魔王になるための七十二の試練……その再現に挑んでもらう]
七十二の試練……?そう言う名前?それとも……?
「つまり、七十二個の試練を受けろってことですか?はぁーめんどくさ……どころじゃないですよ達成できたら死んでんじゃないですか?あたし」
「いいや、アスタロト様は二十九位の悪魔だからな。貴様が受ける試練の数は合計で四十三だ」
どっちも変わんねーですよ。クソめんどいだけ。
[何も全てを受ける必要はないぞ。試練中にアスタロト様の力と記憶を取り戻すことができればその時点で試練は終了なのだ]
「見通しが全くつかないのですが」
[特にアスタロト様が印象に残っているであろうのは四十七番目の試練、運命の作図。砂漠地帯の極暑環境で数万の下級悪魔の運命を描くというものだ。アスタロト様は飽き性な故、三百辺りで白目を剥いておったな]
もうすでに人が行える領域を超越しているのですが。
「あぁーうるさいうるさい!やめて下さい!!」
[それと並行して、未だ封印されていない悪魔六体の転生体も捜し出してもらう。その六体は特にアスタロト様と親交が深かった者たちばかりだからな、そこでも記憶を取り戻せるかもしれん]
「いやいやどうやって約四万キロメートルある宇宙船地球号からお目当ての六人を捜せばいいんですか?今のあたしの財力では世界を飛び回るなんて無理中の無理無理ですよ」
[その転生体は、我の調査によると全員がこの町にいることが分かっている。もっと言えばこの学校にな]
マジかよ。世界狭すぎだろです。
「んならあたしが探さなくともあなたの能力で見つけ出すことができるはずでは?」
[いくら我でもその人物をピンポイントに探し当てることはできなかった。後は貴様がアスタロト様の力を取り戻していく過程でアスタロト様の魔力を獲得し、同じような魔力を持つ者を見つけ出すのだ]
「はぁぁぁめんどくさめんどくさめんどくさ」
[ふふふっ放棄でもしてみろ。天変地異の災いが貴様に降りかかるぞ」
単なる脅しに見えるけどこれ事実なんですよ。あたしがこのクソ悪魔と初めて出会った時、なんやかんやあってあたしが小鳥に変身する呪文に掛けられてしまい、人間に戻してもらうことを引き換えに試練を行うという契約を結んでしまいました。
「そういえば、あたしが鶏肉になる元凶を作ったあの蛇はどこ行ったんですか?」
その呪文は目の前のクソ悪魔ではなく、アスタロト様のペットだったという毒蛇によって掛けられてしまったのです。
[我と同様に貴様に同行させても良かったが、白蛇は人の前に出せばたちまち騒ぎになるからな。教会に取り残してきた。だが貴様に会いたがっていたぞ。いつの間にか貴様の前に現れているかもしれんぞ]
「危険な爬虫類はちゃんと檻に閉じ込めといてくださいよ」
ともかくあたしは青春を投げ出してまで、試練を受けねばならないようです。あたしは現実から逃避するために、大ぶりにビニール袋を破って弁当を取り出しました。
ですがクソ悪魔の真面目に話を聞いていたせいで昼休みが残り五分しかありません。もう時間ないので、午後の授業でマガソン読みながら食べますか。
[貴様の脳は無法地帯か?]
「では教室向かいますか」
そう言ってあたしがベンチから立ち上がった時、
「おーい!」
屋上の入り口から誰かを呼ぶ声が聞こえてきました。
[何故反応しないのだ?]
「だって別の人でしょ。よく誰かに声かけられて振り返っても実は別の人に声かけてたーって気まずくなるときあるじゃないですか。いやなんですよあれ」
[いや気になるけど!屋上には貴様しかおらんだろう。というか声の主も良く貴様が此処にいると分かったな!!]
「確かに」
思えば聞き覚えのある声でしたね。そうこうしているうちにあたしに声をかけてきた人物が現れました。声質は女性。ということは、あたしに声をかけてくる女の子は一人しかいませんね。
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