第25話 開演前のモノローグ
太陽は沈み、やがて夜がやってくる。そのわずかの間に訪れる黄昏どき。あいまいな境目の時間が街に訪れる。薄赤い、天幕のような空を矢津井は窓から眺めていた。
御堂の望んだこと、紙谷が望んだこと。そして自分が望んだこと。自分は、名探偵というやつが見たかった。美術館で殺人事件を解決したという要。そして、それを見損ねた自分。自分の役割は、要をそれとなく事件に関わらせることだった。さっさと舞台から退場する御堂に変わり、紙谷とともに事件を制御し、「名探偵」を作り出すこと。しかし、あの模倣犯は予想外だった。危うく「名探偵」が死ぬところだった。それで結局、自分は探偵小説で一番の見どころを見逃すことになった。まあ、半分は自分たちが招いたことだ。
要は、いつか矢津井の役割に気がつくだろう。いや、もしかしたら気がついているのかもしれない。
御堂は、ふらりと現れた。いつもと変わらない様子で、そして何気ない調子で言ったのだ「名探偵を見たくはないか」、と。そしていつもの笑い。
御堂に犯人当て小説で挑戦しては敗れる中学時代、御堂の家に押しかけてまで挑戦していた。その時に彼の姉、美月を何度も見た。特に話はしなかったが、笑顔の奇麗な人だったことを覚えている。
窓を開ける。陽は落ちたが、暑さは沈殿したままだ。
御堂は自分たちとは違い、本当のところはすべてどうでもよかったのかもしれない。姉も、外部の人間たちのどうしようもなさですら、虚構のためのものに過ぎなかったのではないか。そして、彼は自分が作った虚構の世界にも居る気はなかった。彼はどこかへ行けたんだろうか? 自身の虚構で塗り替えながら、その虚構の外へと踏み越えていった少年――。
どこか取り残された気分で、矢津井はふたたび空を見上げる。
そこには、赤が退き、うす暗い青だけが、広がっているばかりだった。
死人とサーカス カワカミ @utou0625
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