少年の生首をジャグリングするピエロ。プロローグで、このグロテスクで奇怪な存在が、執拗な描写とともに語られる。首の切断面、そこから飛び出す骨、ぬるぬるとした血液と脂肪、作中作形式で細々語られるその凄惨な様子は、「冗長で硬い」と作中人物に評されてしまうが、本作を黒い霧でつつむ主役の存在感を際だたせるには相応しい道具立てだ。
描写の執拗さは、非日常の世界に読者をいざなう技法であると同時に、「手がかりの提示」と「フレームの構築」というパズラーにおいて不可欠な要素を付加するための手段でもある。本作には、「ロジック」「本格ミステリ」というパズラー好きには見逃せないタグがつけられているが、作者の描写に関するセンスは、その質を保証してくれている。
パロディー要素もうれしいところで、「病院坂」や「暗闇坂」といったワードに、金田一耕助や御手洗潔の冒険譚を知る読者はにやりとさせられるだろうし、犯人あて小説の発表場である喫茶店の名前が『一圓銀貨』なんてのも旨味だ。しかも、「小説内の出来事が現実に干渉する」という物語構造に、喫茶店、ミステリクラブ、姿の見えないメンバー、強調される「夏」、とくれば、“あれ”しかあるまい。
黒い霧の中、奇怪な哄笑が響き、血の臭いがたちこめる探偵小説を愛好する諸氏、ご一読あれ。