第11話 お狐さま in ホラー(後編)




 突如として目の前に現れた全裸の男に、みたま様は悲鳴を上げました。


「ま、待って待って! 悲鳴上げないで!」


 全裸の男は慌ててみたま様を宥めました。


「ああああああああああああああ! ……えっ?」


 全裸の男は普通に話しかけてきます。

 そこでみたま様も分福も冷静になります。


「お主、太郎さんじゃないのか?」

「ち、違う違う! 僕も巻き込まれたんですよ!」

「じゃあなんでお主全裸なんじゃ!」


 全裸の男は大事なところを隠しながら叫びました。


「風呂入ってたら此処に移動してたんですよ!!!」


 みたま様と分福は「あー。」と状況を理解しました。

 教室にいた少年少女達がわーわー騒いでいた中で言っていました。

 家に居たら急に此処に現れた、と。私服姿の少年がそんな感じの事を思っていました。

 元居た場所からそのままの状態で突然ここに転送されてきたという事は、風呂に入っていたら当然裸のまま転送されるという事です。

 まさにそういう状況で、ホラーの舞台に登場した全裸の男は、一般人でした。


「なんで全裸のままわしらの前に現れたんじゃ! びっくりしたじゃろ! 何か着ろ!」

「服は一緒に来なかったんですよ! カーテンとか隠せるもの探したけど見つからないし!」

「じゃったら一人で隠れとれ! わしらの前に現れるな!」

「いやだって怖いじゃないですか!」

「わしはお主が怖いわ!」


 分福は今回ばかりはみたま様に合意しました。

 急に連れてこられた夜の廃校で、全裸の男に遭遇したら、それが魑魅魍魎の類いで無くても普通に怖いのです。

 全裸の男はみたま様に邪険にされつつも、泣きそうになりながら叫びます。


「一人にしないで下さいよ!」

「なんでわしらについてくるんじゃ!」

「だって、他の人に着いていったら怖がられるじゃないですか!」

「わしも怖がってるじゃろが! 女の子じゃぞ!」

「いや、あの中ならこんなところですらコスプレしてる人のが同類に近いと思うじゃないですか!」

「こ、こす……!? わ、わしをお主と一緒にするなぁ!!!」


 みたま様は狐耳と狐の尻尾を生やした巫女服姿で今回はホラーに参加しています。

 どう見ても場から浮いたコスプレ女と、全裸の男の悪夢ようなコラボレーションを見て、分福は若干思うところがありました。


「まぁまぁ、そう大声出さずに。見つかったら大変だぜ。」


 突如として降りかかる謎の声。

 みたま様はぎょっとして振り返ります。


「誰じゃ!」





 そこに立っていたのは下半身丸出しの男でした。


「いやあああああああああああああああああああああ!!!」


 みたま様の悲鳴が響き渡ります。

 多分校内の他の参加者は疑問に思っているでしょう。

 何で同一人物の悲鳴が二度響いているのだろう、と。


「お、落ち着け!」

「なんで全裸の後に下半身丸出しの男まで出てくるのじゃ!!!」

「俺はトイレに入ってたんだよ! そんな事より、俺も同行させてくれ。」

「嫌じゃ!!! モロだしの男と共に行動なんてしとうない!!!」


 コスプレ女の元に集まる全裸と下半身丸出し男。

 いよいよ分福の思いは抑えきれなくなりました。


「あの、みたま様。今日は別行動でもいいですか?」

「わしを見捨てるのか!? こんな変態二人の元に、こんないたいけな幼女を置いていくと!?」

「いたいけな幼女ではないでしょ。」

「変態とは何ですか! お風呂入ってただけなのに!」

「トイレは誰だって入るだろ!」

「なんじゃお主ら!? なんでわしが一人で責められるみたいになってるのじゃ!? 今回はわし悪くなくない!?」


 みたま様が若干泣きそうになりながら怒ります。

 はい。いつもは大概因果応報なのですが、今回ばかりはみたま様はあまり悪くないのです。


「わし、一応女の子じゃぞ! 裸の男が近寄るの普通に犯罪じゃろ!」

「フフフ。果たしてこれは罪でしょうか。」


 全裸が得意気に笑います。

 

「犯罪だと思うなら通報するといい。」


 下半身が不敵に笑います。


「そうじゃ! 通報すれば良いのか!」


 みたま様はスマホを取り出し、警察に通報しようとします。

 そこで、みたま様は気付きました。

 下半身が「ふはははははは!」と笑ってみたま様を指差しました。


「此処は圏外だがなぁ!!!」

「!?」 


 この廃校は圏外のようです。

 これでは警察に通報することもできません。

 みたま様はわなわなと震えて、一応は電話を掛けてみました。

 しかし、全く繋がりません。本当に外部とは連絡が取れないようです。


「我々を通報する事はできませんよ……!」

「お前達は俺達と行動を共にするしかないという訳だ!」

「そ、そんな……!」


 みたま様の顔に絶望の色が浮かびました。


「此処から脱出するまでの短い仲です。協力しましょう。」

「外に出たら煮るなり焼くなり好きにするがいい。」

「くっ……! 屈辱じゃ……! 恥辱じゃ……! こうなったら、絶対に外に出たらお巡りさんに突きだしてやるのじゃ……!」


 こうして、コスプレ女、式神、全裸、下半身のホラーには似つかわしくない四人パーティーが生まれました。

 関わりたくない分福でしたが、確かに絵面的にみたま様をこの二人のところに残していくのはまずいと思ったので仕方なく残る事にしました。一応、みたま様は少女の姿をしていても神様ということもありいざとなったら腕力で負けないので心配は要らないのですが絵的な話です。


 仕方なくそのまま変態達を引き連れて脱出を目指す事にしたみたま様。

 引き続き、バリケードを蹴り破って階段を降りていきます。


「いやぁ、すごいですねみたま様。こんなに楽々とバリケードを突破するなんて。」

「付いてきて正解だったぜ!」


 変態達がそのパワーを褒め称えます。

 すると、先程まであれ程まで変態達を毛嫌いしていたみたま様も気分が良くなってきました。基本的にこの神様はちょろいのです。


「そうじゃろ! 安心するがよい! わしの力があれば脱出なんてすぐじゃ!」


 いよいよ、一階まで辿り着きます。一階のバリケードをドカン!と蹴り破り、みたま様は廊下に出ました。後に分福と変態二人も続きます。


「……よし、誰もいないようじゃな。」


 みたま様が周囲を確認し、直線上に誰もいない事を確認してから廊下を歩き始めます。学校の長さを見て、中央に当たる部分を目指して歩き始めました。


「多分玄関は中央辺りにあるじゃろ。」

「最初の悲鳴以降誰の声も聞こえませんね。」


 最初に飛び出していった小太り少年の悲鳴の後は、誰の悲鳴も聞こえていません。強いて言うなら、みたま様が変態相手にあげた悲鳴が二回響いただけです。

 全裸がふふと笑って言いました。


「この分だと何事もなく脱出できそうですね!」

「ば、馬鹿っ! そういう事を言うのはふらぐなのじゃ!」


 あからさまなフラグを全裸が立てたその時の事です。


「きゃああああああああああああああああああああ!!!」

「うわああああああああああああああああああああ!!!」


 けたたましい女の子の悲鳴と男の子の叫び声が響き渡りました。


「ほれ見ろ! お主がふらぐ立てるからじゃ!」

「僕のせいですか!?」


 声は明らかに一階から、廊下の先の方から聞こえました。

 みたま様と変態二人と分福は、慌ててさささと先程降りてきた階段の方に戻ります。階段に引っ込んで身を隠すと、みたま様はそっと顔だけを覗かせ廊下の様子を伺い、他の三人も揃って顔を覗かせました。


「うわあああああああああああああああ!!!!」


 叫びながらみたま様達がいる方向とは逆方向に駆けだしていくのは、冷静に振る舞っていた少年です。後ろ姿には、何やら赤い汚れがついていました。

 そこから遅れてバタバタと走っていくのは冷静少年に付いていった少女です。

 二人揃って逃げ出した少年少女が先程まで居た場所から、ヌッと姿を現したのは見覚えの無い一人の男でした。


 それは全身真っ赤な枝のようにひょろっとしたやせ細った長身の男。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ……。」


 地の底から響くようなくぐもった声で、男はぺちゃぺちゃと湿り気のある足音を立てて、逃げていった少年少女の方にぱたぱたと走っていきました。

 その声は校内放送で流れていたカウントアップの声でした。


 みたま様はごくりと息を呑みます。


「あれが……田中さんなのかの……?」


 分福は若干引き気味の顔でヒソヒソ話をします。


「あれ全身真っ赤だったの血ですよね……? ガチで殺りにくるやつじゃないですか……。」

「逃げていったの冷静なやつじゃったな。一人足りないのを見るに、やはり生贄にされてしもうたか。着いていかなくてよかったのう。」


 人一人が死んでいるかも知れないのに割と薄情な事言って、みたま様は階段に腰掛け腕を組みます。


「あそこから冷静なやつが逃げていったという事は、あそこは出口じゃないのかのう。それか、玄関からは出られないのか?」

「あー。普通に玄関から出られるなら外に逃げますもんね。」


 みたま様と分福が会話していると、全裸も腕を組みながら唸ります。


「それに、あそこで一人やられたなら死体とか見るのも嫌だから行きたくないですよね。」

「一番見苦しい男が何を言っとるんじゃ。」


 珍しくみたま様がツッコミに回ります。

 下半身もうーんと唸って言いました。


「トイレ行っていいかな?」

「今か!? お主来る前にかわやに入ってたんじゃろ!?」

「お腹が冷えちゃって。」

「行っとる場合か! 空気読まんか! ただでさえお主ら二人のせいでほらーの雰囲気台無しなんじゃぞ!」


 緊張感がまるでありません。

 分福は「でも」とみたま様に囁きます


「いや、行かせるのは行かせた方が良くないですか? 下半身丸出しで漏らされるよりは。」

「お主すぐに行ってこい!」


 トイレは流石に行った方がいいのです。

 みたま様は想像したくない絵面を想像しかけてすぐさま行くように下半身に命じました。


「怖いから着いてきてくれない?」

「ちびっ子か! 一人で行け! なんでお主の面倒見なくちゃいけないのじゃ!」

「じゃあ漏らす。」

「分かったからやめろ! 絵的にあうとになるじゃろ!」


 流石にその絵面はジャンルどころか年齢制限が変わってくるのでNGなのです。

 みたま様は渋々下半身のトイレに着いていく事になりました。

 

「なんでほらーに参戦したのに変態の厠に付き合わなくちゃいけないのじゃ……。」

「ある意味ホラーじゃないですか。」


 怪異的な恐怖じゃなく人間の怖さみたいなやつです。

 先程太郎さんが出てきた方向とは逆方向に歩いて行くとトイレがありました。

 

「じゃ、行ってくるんで。」

「とっとと行くのじゃ。」

「あ、私も行ってきていいですか。お腹冷えちゃって。」

「勝手にしろ! わしはお主らのお母さんじゃないんじゃ! いちいち確認取るな!」


 変態二人はトイレに入って行きました。

 みたま様はうんざりした様子ではぁと深く溜め息をつきます。


「はぁ、せっかくのほらーの雰囲気が台無しなのじゃ。」

「ここ水道通ってるんですかね。」

「知らんわそんなの。流さなくていいじゃろ。どうせ、廃校じゃし。」

「トイレットペーパーとかあるんですかね。二人ともお腹冷えたとか行ってたから"大"でしょ。」

「知らんわそんなの。拭かなくていいじゃろ。……いや、いわけないじゃろ!!!」


 みたま様も流石にお尻を拭いてない下半身丸出しの二人組と行動するのは嫌なのです。


「すみませ~~~ん。みたま様、ティッシュとか持ってませんか?」


 トイレの中から声が聞こえます。案の定トイレットペーパーを備え付けていなかったようです。

 みたま様はマヨネーズは常備していますが、ティッシュは持ち歩いていないのです。分福の方に視線をやると、分福もポケットに手を突っ込んで探った後に、首を横に振りました。


「…………いやじゃ~~~!!! 汚い臀部でんぶの変態と一緒に歩きとうない~~~!!!」

「奇遇ですね。今回ばかりは私も同意です。」

「もうこのまま逃げるのはどうかの?」

「多分汚いケツのまま追い掛けてきますよ。」

「太郎さんより怖いのじゃ!!!」


 ばっちい変態と恐ろしい怪談太郎さん、三人の恐怖から逃げ回らないといけないのは流石にみたま様も御免なのです。

 みたま様は二人を見捨てる選択肢を諦めて、手のひらを合わせてブツブツと呪文のようなものを呟き始めました。


「……ハァッ!!!」


 気合いを入れて声を上げれば、ポンッ!とみたま様の手の中には二つのポケットティッシュが出現しました。

 ぜぇぜぇと息を切らして、みたま様が分福にポケットティッシュを手渡します。


「こ、これをあやつらに持っていくのじゃ……。」

「顔真っ青じゃないですか。大丈夫ですか?」

「無から有を生み出す術は神力じんりきも体力も使うから疲れるのじゃ……。なんでわしがこんな事の為に疲れなくちゃいけないのじゃ……。」

「お、お疲れ様です……。」


 今回ばかりは流石にみたま様に同情して、分福はポケットティッシュを持ってトイレに入りました。比較的廃校にしては小綺麗なタイル張りのトイレの二つの個室に、分福は上からぽいとポケットティッシュを投げ入れます。


「ありがとうございます!」

「ありがとな!」


 神にちり紙を作らせた罪深き変態二人はハツラツとした声で礼を言いました。

 トイレから分福が戻り、息切れしているみたま様の背中をさすってしばらく待っていると、すっきりした表情で二人の変態が出てきました。


「はぁ~、さっぱりした。お、みたま様どうした?」

「わしに触るな……。お主らのせいで散々じゃ……。」


 何の事やらという顔をしている下半身の横で、全裸が横の廊下の方を見て、ぴたりと動きを止めました。


「あっ……。」


 全裸が指差す先、遠く離れたところにひょろっと細長い体躯の赤い男がいます。

 先程、校内放送で聞こえたカウントアップの声で唸りながら、人を追い掛けて走って行った筈の田中さんがそこには立っていました。

 真正面から見れば、その身体に滴るのが赤い血であることがハッキリ分かりました。

 服を纏わず代わりに血液を纏い、頭髪の無い頭と皺だらけの顔と身体、ぎょろりと剥いた大きな目玉が二つ、みたま様達を睨んでいました。

 その手にはべったりと血の付いた包丁が握られていました。


「やばい! 田中さんだ! 逃げろ!」

「うわあああああああ!」


 下半身と全裸が声を上げます。

 分福も逃げだそうとしますが、みたま様は動きません。


「みたま様?」

「……すまん。膝に力が入らないのじゃ。」


 どうやら先程のちり紙の生成で消耗した状態から回復していないようです。

 みたま様が動けない事を見た全裸と下半身が慌てて声をあげました。


「大丈夫ですか、みたま様! 僕が背負います!」

「俺も手伝う!」

「お主らには死んでも触られたくないのじゃ! 手ぇ洗ってないじゃろ!」


 みたま様は二人の助けを断固拒否しました。

 分福がすぐさまみたま様を担ぎ上げ、背中に背負って走り出します。変態二人もそれに続いて走り出しました。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 田中さんが雄叫びと共に走り出しました。

 みたま様を背負って逃げ出した分福達をもの凄いスピードで追い掛けてきます。

 分福が走る中、みたま様はおんぶされながら後ろを振り向き、一気に距離が詰められている事を確認しました。


「は、速く走るのじゃ! 追い掛けてきておるぞ!」

「みたま様みたいに人間体の身体能力高くないんですよ!」


 雄叫びを上げながら、凄まじいスピードで迫ってくる田中さんは、もうすぐ傍まで迫っていました。


「ああッ!!!」


 分福の先を走っていた全裸が声をあげます。

 何事かとみたま様が前をむき直すと、全裸が空を飛んでいました。

 どうやら全力で走っている中で足を縺れさせて躓いたようです。全力ダッシュのスピードを載せたまま躓いた事で、空を吹っ飛んでいるところでした。

 キュキュキュキュキュ!と廊下と肌が擦れる音が響き渡ります。下半身と分福の目の前で、転倒してスピンする全裸が道を塞ぎました。

 急ブレーキを掛けられず、下半身が全裸に躓き吹っ飛びます。

 分福は若干遅れていたので、目の前でクラッシュした変態二人を見て咄嗟に飛び越そうとしました。

 しかし、みたま様を背負っているせいで思ったよりも跳躍力は発揮されません。

 分福も全裸に躓き、ぴょんと身体が浮き上がります。


「ああっ!」

「ぎゃっ!」


 分福も派手に転倒します。背負われていたみたま様も廊下に放り出されました。

 派手な四人のクラッシュで、四人共が痛みで立ち上がれずにのたうち回っています。

 顔から落ちて顔を押さえているみたま様は、田中さんに追われていることを思い出し、田中さんのいた方向を見ます。


「あっ……。」


 見上げれば、目の前に田中さんが立っていました。

 包丁を手に持ち、血塗れの田中さんが、2メートルは超えていそうな長身から、ぎょろりと剥いた目玉で睨み付けています。

 体力を消耗し、身体が痛むみたま様は立ち上がる事ができません。周りの変態と分福も同じくよろよろとようやく身を起こしたところでした。


 みたま様に絶体絶命の危機が訪れます。

 

 ごくり、と息を呑んだみたま様の目の前で……。







 くるりと身を翻して、田中さんは元来た道をひたひたと歩いて行きました。


「…………。」

「…………。」

「…………。」

「…………。」


 必死に走ってど派手に転んで全身を打ち付けた四人が顔を見合わせて真顔になります。


「何で放置するんじゃ!!!」


 みたま様は去り行く田中さんに怒鳴りました。

 

「なんでじゃ! 散々追い掛けてきておいてなんで今更引き返すんじゃ! 今のは襲い掛かってくるところじゃろ! なんでスッと帰るのじゃ!」

「いや、帰ってくれるならそれでよくないですか?」


 田中さんはくるりと振り返ります。みたま様は少しビクッとしました。

 田中さんはガン開きだった目をじとりと細めてから、カッと目を見開き叫びます。


「真面目にやれや!!!!!!」

「!?!?!?!?!?!?」


 校内放送で流れていた子供の声で、田中さんが怒鳴りました。


「なんやお前ら!!!!!! なんでホラーの舞台でコスプレしてたり全裸だったり下半身丸出しなんや!!!!!! 空気ブチ壊しなんじゃ、もう帰ってくれや!!!!!!」

「こ、こすぷれじゃない! これはわしのでふぉると衣装で……!」

「普段着がそれの方が悪ふざけやろが!!!!!!」


 もの凄い剣幕でキレる田中さんに気圧されて、みたま様が仰け反りました。


「こちとら真面目に都市伝説やっとんねん!!!!!! なんで変態三人に空気ブチ壊されなアカンのじゃ!!!!!!」

「わ、わしまで変態に入れるな!!!」

「あなたが僕の入浴中に転送するからでしょうが!!!」

「俺がトイレに入ってるときに呼ぶからだろ!!!」


 そうなのです。全裸と下半身は格好こそ変態そのものですが、実際は入浴中に、トイレ中に転送されてきただけの被害者なのです。

 割と自分側に非がある事に気付いた田中さんは、思ったより凄い剣幕で反撃してくる変態達に仰け反ります。


「そ、それはごめんやけど!!!!!! でも、そんな格好で歩き回るのは正気の沙汰やないやろが!!!!!! 猥褻物陳列罪って知っとるか!?!?!? 懲役刑やぞ!!!!!!」

「殺人罪って知ってますか!!!」

「監禁罪って知ってるよな!!!」

「お主もこやつらと似たようなもんじゃろが!!! 血で見えないけど裸じゃろ!!!」


 法律を出してくる都市伝説に猛反撃する変態達。田中さんは更に仰け反ります。


「う、うっさいねん!!!!!! ワシは都市伝説じゃ!!!!!! 人間の法に当て嵌めんなや!!!!!!」

「わしだって神様じゃぞ!!!!!!」

「なんやクソガキ頭おかしいんか!?!?!?」

「んなっ!? わ、わしが万全だったら今の一言でこの世から消し去ってるところじゃぞ!!!」


 もの凄い剣幕で叫び合って、田中さんと変態達とみたま様はぜぇぜぇと息を切らしました。

 田中さんは肩で息をしながら叫びます。


「もう帰ってくれや!!!!!! ぐるっとあっち側から回ったら裏口から下校できるから!!!!!! 外出た時点で元居た場所に帰れるから!!!!!! 頼むからワシの都市伝説に泥塗るなや!!!!!! せっかく都市伝説として畏れを集め始めてた頃なのに、おどれらのせいで変態パーティーみたいな噂流されたらかなわんわ!!!!!!」

「勝手に呼んでおいてなんですかその態度は!!!」

「そうだそうだ!!!」

「わしらは被害者じゃぞ!!!」

「いや、みたま様は自発的に参加したでしょ。」


 田中さんに反論し始めてからもう怖がること無くガンガン攻めていく変態達withみたま様。田中さんはもう若干泣きそうな顔で頭をわしわしと掻きむしります。


「もういやや!!!!!! 謝る!!!!!! 謝るから帰ってくれ!!!!!! ほんますんまへんでした!!!!!! 頼むからワシの都市伝説に変なスパイス加えるのやめてくれ!!!!!!」


 遂に田中さんは土下座しました。

 どうやら都市伝説の中に変態が混じるのは相当嫌なようです。

 流石に泣きながら土下座されたら変態達withみたま様もバツが悪くなってきます。


「都市伝説界隈は水物なんや……時代の移り変わりが激しいし、ほんのちょっとでも変な話が混じるとたちまち存在を保てなくなる……ワシはこれに命が懸かってるねん……頼むからもう帰ってくれ……。」

「……そ、そこまで言うならまぁ。」

「こ、今度からちゃんと連れてくる人選べよ。」

「し、仕方ないのう。分福、帰るとするか。」


 こうして、みたま様と分福、変態達は"田中さんの鬼ごっこ"から逃げ切る事ができたのです。





 田中さんの言った通りに裏口から出ると、白い光に包まれて、気付けばみたま様と分福は三珠神社に戻ってきていました。

 ふぅ、と息を吐きどさっと座り込む分福。みたま様もどさっとビーズクッションに倒れ込みます。


「本当に戻れましたね。」

「……今日は本当に疲れたのじゃ。もうほらーはこりごりなのじゃ。」

「ホラー関係無いところで疲れてますけどね。」


 主に変態二人のせいでした。


「しかし、よく分かったのじゃ。ほらーで奇抜な変態がいると色々と台無しになるんじゃな。」

「ギャグくらいでしょ平気なの。」


 ホラーが盛り上がるには空気感が大事なのです。

 それを実体験を元に学んだみたま様でした。

 ビーズクッションに身体を埋めながら、みたま様はふと思い出しました。


「そういえば、分福。お主、わしが力が抜けてしまった時に真っ先におんぶしてくれたのう。」


 変態二人の救援を断固拒否したみたま様を、分福はさりげなく真っ先に背負って田中さんから逃げました。


「てっきり、お主の事じゃからわしを見捨てて逃げるかと思ったわい。」


 くっく、と冗談めかしてみたま様は笑います。


「いざとなったら慌てて助けるなんて……お主、実はわしのこと大好きじゃな?」


 分福はぽんっ!と人魂形態に戻ります。


「……助けなければ良かったですね。どうせ、田中さん見逃してたでしょうし。」

「くっくっく。冗談じゃ冗談。」


 みたま様はクッションに顔を埋めて言いました。


「ありがとうな、分福。」


 クッションに埋もれて見えないみたま様の顔には、うっすらと笑顔を浮んでいました。




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