第6話 お狐さま in デスゲーム(後編)




 デスゲーム"デッドオアサクセス"に巻き込まれた(自発的)みたま様と分福。

 十枚のカードの内容を当てる"クレヤボヤンスゲーム"にて、みたま様は狐の妖怪らしく人を化かして、一気にこのゲームを支配するポジションへと収まりました。

 チームみたまは果たしてゲームクリアをする事ができるのでしょうか。


 残り時間20分。チームみたまの把握したカード内容は以下の通りです。


みたま様:☆

分福:☆

関西弁おじさん:○

パニック女:△

サラリーマン:☆

正義漢高校生:?

気弱女子高生:?

不気味青年:?

クール高校生:?

クール女子高生:?


 ☆○△□のマークがそれぞれ十枚中何枚かを当てるゲーム、既に☆が最低3枚ある事が分かり、☆は3、4、5、6、7のどれかである事をチームみたまは見抜いています。

 一人当たり3回の入力の中で、それは当てられると踏んだみたま様は、まずは他のプレイヤーの動きを見ることにしました。




 正義漢高校生率いる、このゲームを全員で生き残る事を目指すチーム。

 その意見に賛同した気弱女子高生と不気味な青年が顔を付き合わせて相談をしていました。

 関西弁おじさんを騙しマークを掠め取り、更にはその優位性を得て一気に五個のマークを抑えたみたま様を前にして正義漢高校生はぐっと拳を握りました。


「クソ……! 全員で生き残るには協力が不可欠なのに……!」


 みたま様は場を支配しただけではなく、騙し合い出し抜き合う競争の空気を作り上げました。正義漢高校生の意見を非現実的だと否定したクール高校生とは違い、実際に勝負の引き金を引いたので影響はそれ以上です。

 正義漢高校生の目的は更に遠のいた形となります。どうするかの方法を見出せないまま、正義漢高校生は時間を浪費していました。


「あ、焦ったら、あの狐の子の思う壺です。方法を慎重に考えましょう。」


 気弱女子高生が、焦る正義漢高校生を宥めます。

 とはいえ、焦らずとも事態を変えるだけの方策は見えてきません。


「とりあえず、僕らもマークを共有して正解を探ってみるぅ?」


 不気味な青年がぽりぽりと口元を掻きながら尋ねます。

 その問いに、正義漢高校生は顔をしかめました。


「いや……俺達まで真っ向から戦う姿勢を見せたら……。」

「正解が分からない事には、彼女達の邪魔もできないよぉ? とりあえず仲間なんだし、マークを共有してもいいんじゃないかなぁ?」


 何も出来ることのない以上、不気味青年の言う通りに正解を探る方向に動くのが正しい選択肢なのでしょう。しかし、真っ向から争う事を避けたいと思う正義漢高校生。そんな彼の顔を、不気味青年は下から覗き込みました。


「それともぉ、もしかしてぇ、君は僕らの事を信用してないのかなぁ?」

「ち、違う! 俺は……!」

「もしかしてぇ、他のプレイヤーにクリアされたら困るから、自分の攻略の目処が立つまで時間稼ぎをしたい。だからこその協力の提案だったりするぅ?」


 不気味青年はにたりと笑って言います。

 気弱女子高生は明らかに漂い始めたチーム内の不和を見て、慌てて間に割って入ります。


「や、やめてください! 争ったら……!」





 そんな正義漢高校生チームの不和を見て、みたま様はにやりと笑いました。


「ふふふ、揉めとる揉めとる。分裂すればよりわしらの勝利は盤石じゃ。」

「およそ神様とは思えないゲスい笑いやめて下さい。」


 既にこの小説の主人公では無く悪役ポジションが板に付いてきたみたま様。ノリノリで悪役ムーブをかましています。


 みたま様、分福、パニック女、サラリーマンの四人が集まるチームみたま。

 正義漢高校生、気弱女子高生、不気味青年の三人が集まる正義漢高校生チーム。

 ツンツンとしたクール高校生、一人冷静に何かを考えるクール女子高生、そしてみたま様に騙されてマークを盗まれた関西弁おじさんは孤立した個人勢です。

 

 ここで正義漢高校生チームが崩れ始めた事で、みたま様はほくそ笑みました。


「こうなると気になるのはクール女子高生じゃな。大体あの手の得体の知れない奴が突然突破口を見つけてくるんじゃ。」


 漫画のセオリーで考えながら、みたま様がクール女子高生に目を向けます。

 クール女子高生はすたすたと歩き始めて、孤立し絶望している関西弁おじさんに接触しました。

 ひそひそとクール女子高生は周りに聞こえないように関西弁おじさんに話しかけ始めます。その様子を見て、分福はみたま様に耳打ちしました。


(動き出しましたけど大丈夫なんですか?)

(関西弁おじさんのまーくひとつを聞き出したところでどうにもならん。むしろ、二人組を作る事で三人の正義漢高校生チームと組むこともできなくなるから悪手じゃろ。)


 みたま様はふふふと高みの見物を決め込みます。

 みたま様のように漫画知識に詳しくない分福でしたが、何となく思いました。


(この手の余裕かましてる奴って足元掬われそうだなぁ。)


 漫画というよりドラマや小説etc...あらゆる物語のお決まりです。


 案の定、みたま様が想像もしていない事が起こりました。


「ま、待て! 何をするつもりだ!」


 叫び声を上げたのは正義漢高校生です。

 クール女子高生に目を取られていたみたま様が驚き、ぎょっとしてそちらに目を移すと、正義漢高校生が視線を向けているのは☆のボックスに手を掛けている不気味青年の姿でした。

 不気味青年は不気味ににたりと笑って振り返ります。


「え? 何ってぇ、これから☆の数を入力するに決まってるじゃないかぁ?」

「そ、そんな! 協力してみんなが助かる方法を探すんじゃないのか!?」


 正義漢高校生の呼び掛けに不気味青年はにたにたと笑いました。


「うん。そうだねぇ。みんなが助かる方法を探そうよぉ。」

「じゃあ、なんで入力をするんだ! 鍵を奪い合ったらクラウンの思う壺じゃないか!」

「分かってないなぁ、君は。これはみんなを救い出す為の一手だよぉ。」


 不気味青年はゆらゆらと身体を揺らしながら笑います。


「ど、どういう事なんだ!?」

「あははははは……此処に居る人達はみぃんな、馬鹿だよねぇ。」


 正義漢高校生の質問に答えることなく、不気味青年は☆のボックスに手を掛けます。これには慌てて気弱女子高生も声を上げました。


「ま、待って下さい! 私達のマークだけで答えが分かるんですか!? まだ情報が足りないんじゃ……!」

「分かってないなぁ。情報を集める? 様子見? それで動かないなんて馬鹿のすることだよぉ。」


 パスケースをボックスにタッチして、不気味青年はカタッと数字を入力します。

 暴力行為が禁止されている以上、力尽くで止める事はできません。ボックス前に構えられた時点で誰にも止める事はできないのです。

 あとはEnterキーを押せば入力完了というところで、不気味青年は周りを見回し不気味な笑みを浮かべました。


「こんなの最初は適当に入力すればいいのさぁ。確率は最低でも十分の一。自分のカードが分かっていれば九分の一だよぉ? 当てずっぽうでも十分当たる範囲なのさぁ。」


 みたま様はその発言にぎょっとしました。


「ま、まさかあやつ、当てずっぽうで入力する気か!?」


 当てずっぽうだろうと、九分の一の確率で当たるのです。

 全く非現実的な数字ではなく、当たる時には当たるのです。

 駆け引きもクソもない運任せのゲーム運びは、四人チームを組んだみたま様にとっては最悪の一手でした。


「ま、待て! 早まるな!」

「早まってなんていないさぁ。みんな馬鹿だよねぇ。"1回きり"ならまだしも、僕らには"3回も"チャンスがあるんだよぉ? "2回も"失敗できるんだよぉ? だったら、早い者勝ちの勝負なんだから、とっとと当てずっぽうでも当てた方がいいのさぁ。」


 カタッとEnterキーに指を掛ける不気味青年。

 みたま様は手を当てて祈りました。自分が神様なのに何に祈っているのでしょう。そもそもなんで神様がノリノリでデスゲームに参戦しているのでしょう。


(ここで当てられたらマズイぞ……! ☆はわしらが大きなアドバンテージを持っている数字……! しかも、一人の勝ち抜け枠ができたら四人チームは維持できないのじゃ……!)


 ごくりと息を呑み、ただただ外れる事を祈るみたま様。

 カチッとEnterキーが押し込まれる音がしました。

 それと同時に鳴り響くのは「ブブーッ」というブザー音。それは入力した内容がハズレである事を示す音でした。

 ボックスは開かずに、にやりと笑う不気味青年が正義漢高校生達を振り返ります。


「あはぁ! 外れちゃったぁ! ごめんねぇ?」


 みたま様は胸を撫で下ろします。


(あ、焦らせおって……!)


 そして、一転してにやりと不敵な笑みを浮かべました。


(これで更にわしらは情報を絞り込めたのじゃ……!)


 今の不気味青年の入力に際しての発言がチームみたまにとっては大きなヒントとなっていたのです。


 ―――確率は最低でも十分の一。自分のカードが分かっていれば九分の一だよぉ?


(つまり、奴は最も自分達のちーむで多いまーくを入力したのじゃ!)


 確率を今できる最高の確率で当てるつもりならば、自分が最も多く枚数を知るマークを入力するに決まっています。それぞれ違うマークを持っていたとしても、正義漢高校生チームの中に最低1枚は☆が存在する事が分かるのです。

 入力した内容は分からなかったものの、それだけでチームみたまは☆の枚数を4枚以上7枚以下だと判別できました。


(あいつ滅茶苦茶ですね。運任せに入力するなんて。)

(あいつは恐らく狂人たいぷじゃな。ですげーむを楽しんで掻き回すたいぷじゃ。全くはた迷惑なやつじゃの。)

(みたま様も大分掻き回してると思いますけど。)


 みたま様も人の事を言える立場ではないのです。

 一時は焦ったものの、有利な状況は以前変わらずといった調子のみたま様ですが、ここから更に予想外の事が起こりました。

 すっと動き出すのは関西弁おじさんです。関西弁おじさんは不気味青年に入れ替わるように☆のボックスに歩み寄ったのです。


「んな!? 何をやっておるのじゃお主!」


 みたま様が声を掛けると、関西弁おじさんは引き攣った笑みを浮かべて振り返ります。


「ふふ……ふふふ……! おどれのお陰でワイは誰とも組めないんや……! やったらさっきのアイツの言う通り、当てずっぽうでも入力した方がええ……! 先に当たりを引いたらおしまいやからのぉ……!」


 先程の不気味青年の動きは、当てずっぽうの適当な入力だと本人も言っていました。しかし、その動きはゲームを動かしたのです。

 最早怖い物がなくなった関西弁おじさんは、先程の不気味青年の動きに合わせて、自身も当てずっぽうに☆のボックスへ入力しに行き始めたのです。


(まさか……あやつの狙いは膠着状態を崩し、他プレイヤーの入力を促す事か……!)


 不気味青年のヤケクソのような動きに隠された真意に、今更みたま様は気付きました。

 周囲に「2回まで失敗できる」という事実に気付かせ、当てずっぽうでも九分の一の確率で勝ち抜けという割と分の悪くない勝負である事を示し、他プレイヤーに入力を促す。これでゲームを掻き回すつもりなのだと。


 更に、不気味青年は動きます。

 ☆のボックスの傍らに立ち、関西弁おじさんに入力を促します。


「な、なんや。どけや。」

「いやぁ。ルールじゃ入力を見ちゃいけないなんて話はなかったからさぁ。ここで入力する数を見せて貰おうと思ってねぇ。」


 確かにルール上、入力を見てはいけないという話はありませんでした。

 そして、禁止事項にある「暴力行為の禁止」により、下手に不気味青年を動かす事はできなくなっています。誰にも不気味青年の"入力覗き見"を妨害する手立てはなくなっているのです。


「ちなみに、僕の入力した数字は"1"だよぉ。」

「な、なんやて!?」

「ほら、僕の指の指紋がキーに残ってるでしょ?」


 更に、不気味青年は自身が入力して失敗した数字を打ち明けました。

 他プレイヤーへの情報の開示に他ならない行動に、周囲のプレイヤー達がどよめきます。


(何を考えておるのじゃこいつ……!? これじゃ、関西弁おじさんの正答率が上がってしまうではないか……! いや……こやつの狙いは……!)


 ここでみたま様は気付きました。

 それぞれのプレイヤーが持っているカードだけを推理材料にしていたみたま様。それに対して、不気味青年は「ハズレの数字」の情報を集めるつもりなのです。

 既に1で入力失敗した不気味青年は、続いて関西弁おじさんが別の数字を入力するのを見て、その不正解により更に数字を絞り込もうとしているのです。

 これはみたま様にとって非常にまずい展開です。


(くっ……! 悠長に待っていたら☆の正解を引かれてしまう……! やむを得ん……!)


 みたま様はチームみたまに号令を掛けます。

 

「行くぞ! ☆を取りに行くのじゃ!」


 関西弁おじさんの入力語に、すぐさま全員で☆の入力権を奪い、一気に鍵を取りに行く事にみたま様は決めました。

 不気味青年に一瞥をくれて、みたま様はにやりと笑います。


(ククク……! 確かにお主の突然の動きには驚いたが……自身の入力数字をばらしたのは悪手じゃったな……!)


 不気味青年は"1"を入力したと宣言しました。

 関西弁おじさんに違う数字を押させるための戦略だったのでしょうが、これでみたま様は『正義漢高校生チームには二枚以上の☆はない』ことを確認できたのです。

 正義漢高校生チームに☆が二枚以上あるのであれば、不気味青年は☆のボックスに"1"を入力する事はないでしょう。完全にハズレを前提とした入力になってしまいます。これにより、正義漢高校生チームの三枚のカードの内、一枚のみが☆であると推測ができます。


(2枚は☆ではない……! わしらの握る○と△1枚ずつと合わせて、☆以外のかーどは4枚見えておる……! つまり、☆は4枚以上6枚以下……既に三択にまで絞られたのじゃ……!)


 3回の解答権消費で鍵をひとつ押さえられる。ここで押さえなければ他のプレイヤーに奪われる可能性がある。動き出すには十分なタイミングだとみたま様は判断しました。

 その動きが思わぬ墓穴を掘るとも気付かずに。

 不気味青年はみたま様と目を合わせてにやりと笑います。


「あれ? まだ、『間違えた数字が1である』事しか分からない、九分の一の確率なのに……随分と早く動いたねぇ?」


 不気味青年の指摘にみたま様はどきりとしました。

 そう、不気味青年が提示したヒントはあくまで1つのミスナンバーのみ。後のない関西弁おじさんがヤケクソで動き出すのには十分なタイミングですが、多数のヒントを持つみたま様が動き出すには早すぎるのです。 


(こやつ……わしを嵌めたな……!? こやつが見ていたのは、わしのちーむが動き出すたいみんぐじゃったのか……!)


 みたま様が気付いた時にはもう遅かったのです。


「狐っ子ちゃんのチームに一番多いマークは☆なのかもね?」

「~~~~~~~!」


 声にならない悲鳴を上げるみたま様。

 正確な枚数を掴まれる事はなかったものの、☆のマークが多いという情報を掴ませてしまいました。

 更に、不気味青年は正義漢高校生チームから☆以外のカード2枚を掴んでいます。☆は8以下という事は知っている筈です。

 チームみたま程ではないものの、それに次ぐ情報を得た不気味青年は関西弁おじさんに囁きます。


「おじさん、きっと2枚じゃないと思うなぁ。でも、8枚以上ではないかなぁ。その間当たりがおすすめかなぁ?」


 不気味青年はさらりと関西弁おじさんを正解に近い方向へと誘導します。

 みたま様は一気に肝を冷やします。十分の一や九分の一でも緊張する数字ですが、更に確率は低くなっています。

 不気味青年の言っていることがデタラメだ、という宣言もできません。デタラメなら黙っていた方が有利なのです。つまり、わざわざ指摘する事は痛いところをつかれている事の自白に他なりません。


(やめろやめろやめろやめろ……! 当たりを引くな……!)


 関西弁おじさんは、意を決した様にキーを入力します。

 そして、目を瞑って勢いよくカタン!とEnterキーを入力しました。






 「ブブーッ。」というブザー音。ハズレを示す音が鳴ります。

 関西弁おじさんはそれと同時にがくっとその場に崩れ落ちました。

 みたま様は他のプレイヤーの早あがりを免れることができたのです。


「よっしゃあああああ! わしの勝ちじゃあああああ!」


 みたま様は高らかに勝利宣言し、すぐさま☆のボックスの前に陣取りました。


 残る数字の候補は4、5、6。

 しかも、みたま様は関西弁おじさんが数字を入力するところを唯一見ていました。

 関西弁おじさんの入力した数字は5、つまり残りは4と6です。

 みたま様は真っ先に☆のボックスに飛びつき、パスケースをタッチして4の数字を入力しました。そして、迷う事なくEnterキーを押します。


 ブブーッ!とハズレの音が鳴ります。しかし、これで残る数字は6に絞られたのです。みたま様は分福を振り返り、にやりと笑います。


「分福! 6じゃ! ☆の正解は6なのじゃ!」


 唯一信頼のおける分福に呼びかければ、分福はすぐさまボックス前に滑り込み、6を入力します。そして、躊躇うこと無く分福はEnterキーを押しました。






 ブブーッ!とハズレの音が鳴ります。


「……あえ?」


 間抜けな声を漏らすみたま様。6は不正解でした。

 今まで集めてきた情報による推理で、正解はこれ以外にはないというところにまで数字を絞り込みました。それにも関わらず、まさかの不正解。

 一瞬でみたま様の頭が真っ白になりました。


「んじゃ、次は僕が入力させてもらうねぇ。」


 凍り付くチームみたまを余所に悠々と☆のボックスの前に立ち、パスケースをタッチするのは不気味青年です。

 そのあまりにも飄々とした態度を見たみたま様は、ぎしりと歯を食いしばり、声を荒げました。


「お主が何かしたのかッ!?」

「狐っ子ちゃん、詰めが甘いよぉ。」


 不気味青年が不敵に笑います。


「僕は確かに『自分のカードが分かっていれば』とか言ったけども。"僕らのチームが持っているマークのボックスに入力しにいった"なんて一言も言ってないからね?」

「なん……じゃと……!?」

「僕らのチームは始めからを持っていないのさぁ。」


 ☆を真っ先に入力しにいった事で、☆を最低1枚は持っているとみたま様は推測しましたが、そもそもそれが間違いだったのです。


「そして、僕は☆に"1"を入力した。これで、狐っ子ちゃんは僕のチームには☆が1枚しかない……残り2枚はそれ以外だと思った。違うかな?」


 次から次へとみたま様の推理を言い当てていく不気味青年に、みたま様の顔がどんどん歪んでいきます。


「そして、おじさんの5の入力を見た狐っ子ちゃんチームが☆の正解候補として絞り出したのは4と6。つまり、僕達が☆を1枚、それ以外を2枚持っていると誤認した上で、狐っ子ちゃんは☆が4枚以上6枚以下であると絞り込めた訳だ。」


 不気味青年がにやりと笑います。


「つまり、狐っ子ちゃんのチームが持つマークは……☆が3枚とそれ以外が2枚。違うかな?」


 全プレイヤーの前で明らかにされる、チームみたまの手の内。

 ☆以外のカードが不透明ながらも、今までに得てきたアドバンテージが一気に消滅します。そして、わざわざこの場で不気味青年が☆のカードの枚数を全員の前で明らかにしたという事は……。


「危なかったよ。もしもこれ以上の枚数の☆が存在していたら、こうはならなかっただろうねぇ。途中で狐っ子ちゃんかおじさんが正解を引いていた。だが、どうやら天の神は僕に味方したようだ。」


 神様の前で「天の神は僕に味方した」という最大級の皮肉を飛ばし、不気味青年はキーを入力します。」


「☆の枚数は……狐っ子ちゃんチームの持つ3枚で全て。つまり……答えは"3"だ。」


 みたま様の焦りから情報を引き出し、様々なブラフを織り交ぜて、不気味青年は正解へと辿り着きました。まんまとその立ち回りにみたま様は踊らされていたのです。

 これで☆の枠は不気味青年に押さえられ、チームみたまは瓦解します。把握する☆の枚数の多さからリードを取っていたチームみたまの優位性は失われ、むしろ把握する枚数の少なさから正義漢高校生チームに完全に遅れをとる事になります。

 そして、悪役ムーブが祟ってこれからヘイトを集める事になるでしょう。

 みたま様は最初に自身が言っていた事を思いだしました。


 ―――ですげーむものの鉄則その壱。序盤から目立つ奴は割とはやく死ぬのじゃ。


 思いっきり序盤から目立つ奴になっていたみたま様は、鉄則通りに割と早く死ぬ事になってしまったのです。


(なんという事じゃ……! わしとあろうものが、この鉄則を忘れていようとは……!)


 不気味青年が"3"の数字を入力し、Enterキーを押しました。

 これで一人が勝ち抜けとなり、みたま様は一気に不利な立場へと落ちる事になるのです。





 ブブーッ!

 不正解音が鳴り響きます。


「え?」


 その場にいたほぼ全員のプレイヤーが唖然としました。

 どう考えても正解としか思えない回答が、まさかの不正解判定。

 余裕の笑みを浮かべてへらへらしていた不気味青年も、絶望し項垂れていたみたま様も、完全に顔色を変えていました。


 ただ一人、唖然とすること無く、立ち尽くす不気味青年の横からパスケースをタッチし、カタッと"2"の数字を入力するのは分福。

 しれっとした顔でEnterを入力すると、カチャッと箱が開きました。


 分福は鍵を手に取り、みたま様を見下ろします。


「ぶ、分福……?」

「みたま様って本当に……。」


 分福が実に楽しそうな笑顔を浮かべました。


「愚かですよねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「分福貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 全てを理解したみたま様が泣きながら絶叫しました。


 一番最初にみたま様がさらりと聞き出した分福の持っているマーク。

 何気なく☆だと聞き出したマークですが、

 パニック女やサラリーマンがカードを見せた時も、みたま様と分福だけは口頭でカードのマークを説明していました。


 そもそも、分福の持っているカードは☆ではなかったのです!


 分福は最初から仲間であると信じ切っていたみたま様は、まさか分福から嘘のマークを教えられているとは思いもしなかったのです。

 みたま様は泣き喚きながら分福に擦り寄ります。


「何故じゃ! わしの式神であるお主が何故わしを騙したのじゃ! 酷い! 酷すぎるのじゃ! これではわしはぴえろではないか!」

「フフフ……私はね、みたま様との知恵比べにだけは負けたくなかったんですよ。私はみたま様よりは賢いつもりでいるのでね。」

「そんな理由でこんな謀反を!? そして、わしの事をそんな風に見下しておったのか!?」

「主として認めていますが、アホな引きこもりニートとも思っています。」

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 まさかの謀反により、場の状況は一変しました。

 分福の虚偽の申告と、☆の数が2で確定した事で持っていた情報は完全にひっくり返りました。


みたま様:☆ 残り入力回数2回

分福:☆→☆以外(☆の申告は嘘)

関西弁おじさん:○ 残り入力回数2回

パニック女:△ 残り入力回数3回

サラリーマン:☆ 残り入力回数3回

正義漢高校生:?→☆以外 残り入力回数3回

気弱女子高生:?→☆以外 残り入力回数3回

不気味青年:?→☆以外 残り入力回数1回

クール高校生:?→☆以外 残り入力回数3回

クール女子高生:?→☆以外 残り入力回数3回


 優位に立っていた筈のみたま様がたちまち入力回数、把握しているマーク数、心証、全てにおいて一気に不利になります。

 残り3枠の争いにおいて一番有利な立場にあるのは、☆以外の3枚のマークを把握している正義漢高校生チームになりました。


 分福の謀反ひとつで完全に変わった状況を、更に分福は掻き回しに行きます。


「さて。これで私は勝ち抜けた決まった訳ですが……私のカードの内容は誰も知らないんですよね。このまま持っていってしまっていいものか……。」


 胸に下げたパスケースをぴらぴらと見せつけて、分福は考えるフリをします。

 そして、あっ、と思い付いたフリをしながら高くパスケースを掲げました。


「そうだ。このカードは競売に掛ける事にしましょう。どなたかこのカードを買いたい方はいらっしゃいませんか? をして頂いても構いませんよ?」


 みたま様がパニック女とサラリーマンに持ち掛けた取引方法をそのまま流用して、まさかの競売が始まります。

 このままでは


「私は一千万出す。」


 クール女子高生が真っ先に手を上げると、ぞろぞろとカードの競り落としが始まります。

 わーわーきゃーきゃーと競り落としがされていく中で、○と△しか知らず、カード一枚買ったところで勝ち目のないみたま様はわなわなと震えていました。


 自分が仕切っていたと思っていたゲームで、式神に騙され主導権を奪われて、めちゃくちゃに馬鹿にされてどん底に叩き落とされて、今やゲームの蚊帳の外。






 ぷつん、と堪忍袋の緒が切れる音がしました。


「うがーーーーーーーーーッ!!!!」


 みたま様は雄叫びを上げて立ち上がると、一直線に鉄の扉に向かいます。

 そして、ぐっと拳を握ると、小さな拳を鉄の扉に勢いよく叩き付けました。


 ドガン!と凄まじい轟音と共に、鉄扉がひしゃげて吹き飛びます。


 まさかの行動にその場にいた全員が、モニターに映るクラウンも含めて愕然としていました。

 

「ほーれ、脱出じゃ! わしの勝ち-!」


 ぴょんと鉄扉から部屋を出るみたま様。

 まさかのパワープレイに愕然としていたクラウンもそこでハッとしました。


【は、反則! 反則です!】

「なんじゃい! 禁止事項に『力尽くで扉をぶち破ってはいけません』なんて無かったじゃろが!」

【そんな事わざわざ言わなくても出来ないから言わなかっただけです! 常識で考えて下さい!】

「デスゲーム運営が常識を語るなんてちゃんちゃらおかしいわい!」


 そこは割と正論だなとプレイヤー達は思いました。


【ぼ、暴力です! 禁止事項の暴力行為に該当すると判断します! "デッド"です!】


 ポチッと手元のスイッチをクラウンが押します。

 しかし、みたま様はまるで意に介さずに手首に巻き付いたリストバンドを引き千切りました。


「神様に毒なんぞ効くわけないじゃろ!!!」

【そ、そのリストバンドは腕力で千切れるようなものじゃ……!?】


 みたま様はパチンと指を鳴らすと、プレイヤー達の手首に巻き付いたリストバンドがプツッと切れて地面に落ちます。毒を注射するというリストバンドがなくなり、密室の出入り口が開放された事でプレイヤー達は完全に自由になりました。


「お主らもとっとと出るのじゃ! これで全員でくりあーじゃ!」

【な、何馬鹿な事言ってるんですか!?】

「いーや! お主は最初に言っておったぞ!」


 みたま様はビシッとモニターを指差します。


「『脱出できれば1億の賞金』とな! つまり、形はどうあれ脱出できれば勝ちなのじゃ!」

【ぐっ……! そんな屁理屈……!】

「それに、禁止事項の『一つの鍵で脱出できる人数は一人のみ』も破っておらぬぞ! 鍵使わずに開けたからな!」


 ルールの穴を付いた……というより、常識的に不可能な方法で脱出を実現してしまったみたま様。

 ルール説明に問題があるというにはあまりにも理不尽な神力じんりき任せの脱出に、クラウンはしどろもどろしていました。


「支払わぬというのならこちらにも考えがある! これから貴様のところに殴り込んでやるのじゃ!」

【んな……!?】

「ですげーむなど考える不届き者め……神罰じゃ!」


 フッと姿を消すみたま様。すると、次の瞬間、モニターのクラウンの背後にみたま様が現れました。


【な、何で此処に……!?】

【金を出すのじゃ! おらぁ!】

【痛い! いたたたたた! 誰か助け……】

【何をしている貴様!】

ダダダダダダダ……

【なんじゃい! ぞろぞろと出てきおって! 組織ごと潰してやるわ! まとめて掛かってこい!】

【このガキ……! ぎゃああああああああああ!】


 モニターの無茶苦茶な乱闘を唖然として眺めていたプレイヤー達。

 しばらくして、モニターが静かになると、カツカツと誰かが歩いてくる音が聞こえました。 

 ゲーム部屋の外から歩いてきたのはボロボロになった仮面の男、クラウン。


「…………み、皆様……ゲームクリアです。」


 デスゲーム"サクセスオアデッド"、"クレヤボヤンスゲーム"はこれにて終了致しました。









「あいたたた……。」


 頭にたんこぶを作った人型分福が、神社の中でみたま様の前で正座をしています。

 デスゲームでの派手な裏切りと罵倒でみたま様に叱られたそうです。


「すみません。流石に悪ノリが過ぎました。」

「ふん! 許すのは今回までじゃぞ! 次楯突いたらクビにするからの!」


 みたま様はどかっとクッションに腰を埋めて、ぷんすかと怒りました。


「あーあ! 分福のせいで"ですげーむ"も上手くいかんかったのう!」

「全然まだ怒ってるじゃないですか。それに、一応プレイヤー達には感謝されたんだから良かったじゃないですか。」


 力尽くで"デッドオアサクセス"運営をねじ伏せ、全員分の賞金を引き出したみたま様は、各々がお金を必要とする事情を抱えていたプレイヤー達に感謝されました。

 ちなみに"デッドオアサクセス"はあれ以降潰れてしまったそうです。

 一応、信仰を集めるという目的は叶ったように見えるのですが……。


「わしはきちんと人気じゃんるで活躍をして人気を集めたいのじゃ!」


 みたま様はどうやらご不満のようです。


「そもそも、わしは不死身で無敵の神様じゃ。"ですげーむ"にいても緊張感も何もないじゃろ。緊張感を楽しむ"ですげーむもの"にいたらいかんじゃろ。これほどわしに向いていない"じゃんる"もないぞ。」

「いや、みたま様が参戦を決めたんでしょ。」

「うまいこと途中までは狐と狸らしく化かし合いできてたじゃろ。」

「負けそうになるとすぐ癇癪起こすんだから。」

「神様は気まぐれなのじゃ。」


 神様は気まぐれなのです。

 次回も、気まぐれに人気ジャンルに挑戦していきます。

 



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