第8話 お狐さま out 上級パーティー
「みたま。お前をこのパーティーから追放する。」
パーティーリーダーの聖騎士パラドからの申し立てに、みたま様は顔を赤くして反論します。
「何故じゃ! あと、わしは神様じゃぞ! 様をつけろ!」
「理由はお前が一番分かっているだろう。」
パラドはじろりとみたま様を睨んで言います。
「レアジョブ"神様"を持つから我がパーティーに誘ったのに、お前はろくに役にも立たないし足を引っ張ってばかり。決して安くはない給金を払ってるのに、損害が増えていくばかりだ。」
ぐっ……と言い淀むみたま様。
更に、その後ろからつかつかと見慣れない顔の女がやってきました。
「何じゃお主は。」
「ああ。彼女はお前に代わる新パーティーメンバーだ。回復、支援、妨害、あらゆる魔法を使いこなす"多色魔術師"。既に契約も結んでいる。つまり、お前に居場所は無いわけだ。」
「な……!?」
みたま様は唖然としました。
追放通知以前に、既に新しいパーティーメンバーを雇っている……つまり、話し合いの余地もなく、みたま様の追放は決まっていたのです。
パラドは冷たい目でみたま様を見下ろし、言います。
「もう一度言うぞ。みたま、お前をパーティーから追放する。今日中に荷物をまとめて出て行け。」
こうして、レアジョブ"神様"を持つみたま様は、聖騎士パラドの率いる上級パーティーから追放されてしまったのです。
「という訳で、今日挑戦するのは"追放もの"なのじゃ。」
「何ですか今の導入部。」
はい。今日も今日とてやっていきます。みたま様の人気ジャンルへの挑戦です。
「まずは"追放もの"というものの説明から始めるぞ。"追放もの"とは書いて時の如く、主人公が元居た場所から追放される事から始まる物語なのじゃ。」
「なんでそんな物語が終わりそうな悲しいところから話が始まるんですか。」
ちっちっちと指を振ってみたま様は分福を嘲笑います。
「分かっとらんのう、分福は。」
「うわぁ、腹立つなぁその顔。」
「本当は優れた才能を持っているのに、見る目のない者達により迫害された主人公が、追放される事でしっかりと実力を評価される舞台に出て、たちまち正当な評価を得て、元の仲間達を見返していく……そういう"かたるしす"が楽しまれているのじゃよ。」
「へぇ。つまり、追放される部分よりかは、見返していく……いわゆる下剋上、逆転劇を楽しむって事ですかね。」
珍しく分福があっさりと理解を示して、みたま様はふむふむと感心したように頷きます。
「なんじゃ、お主も分かってきたではないか。」
「下剋上とか逆転劇は昔から人気のジャンルじゃないですか。私も好きですよ。」
「式神から下剋上好きとか言われてわしは気が気じゃないんじゃけど。」
下剋上が好きな部下に怯えつつ、みたま様の追放物語のスタートです。
「ところで、追放ものって事は分かったんですけど……どうしよう、どこから触れようかな。」
ツッコミどころが多すぎて、ツッコミ役の分福が早速迷っています。
今日は久しく人魂モード(省エネなので楽だそうです)の分福がふよふよと思索し、やがて整理が付いた様子でぴたっと空中で止まりました。
「まず、さっきのパラドとかいう人は誰ですか?」
「あいつはわしをぱーてぃーから追放した、この世界でも有数の上級ぱーてぃー"白銀の剣"のりーだー、聖騎士のパラドじゃ。世界で唯一のれあじょぶ"神様"の持ち主として騒がれたわしを見つけて、ぱーてぃーに誘ったにも関わらず、わしが成果を上げないからクビにしてきたのじゃ。」
「知らない単語が並びすぎて理解が追い付かない……。まぁ、みたま様をグループから追放した人って事ですよね。」
「そこら辺分かっておればよい。あいつは最早本筋に関係無い人になるからの。」
「うわぁ、雑ぅ。」
分福は色々と専門用語が並びすぎて混乱しております。
とりあえず、みたま様の説明を大雑把に噛み砕いて言うと、みたま様を追放したのがパラドという人なのです。
ジョブとかパーティーとか白銀の剣とかそこら辺の話はとりあえず置いておいて大丈夫です。
そこら辺は置いておいて、まず分福が疑問に思ったのはそれ以前の話です。
「そもそも、みたま様はいつの間にそんなグループに入ってたんですか。」
「今回、追放ものに挑戦しようと思って、前回の失敗を踏まえて、当人の能力が可視化されるげーむ風世界を選定したのじゃ。まぁ、わし神様じゃし? わしの能力可視化したらえらいことになるじゃろ?」
「まぁ、人間程度相手にならないでしょうね。」
「わしの狙い通り、能力査定でとんでもない高評価を得る事ができたのじゃ。そして、わしの"神様"って立場も見えてしまったらしく、世界で唯一の存在として評価された訳じゃ。」
「はいはい。私が居ないところで既にそこまで進めてたんですね。というか、前に異世界でスマホの電波が届かないだけで諦めたのにまた異世界に来たんですか?」
「まぁ、ちょいちょい行き来できるし良いかなと思ったのじゃ。」
ちょっとコンビニ行くくらいの感覚のお手軽異世界転移です。
とりあえず、みたま様は先に異世界にやってきて、すごい人物であると評価を得るように立ち回ってきたようです。
「あらゆるぱーてぃーからわしは引く手数多じゃった。あれはとても気分が良かったのう。その中から、一番ゲスそうなりーだー率いる上級ぱーてぃーの"白銀の剣"にわしは目を付けたのじゃ。」
「選定基準がひどい。」
言われてみると、分福が思い返したパラドなる人物は見るからにゲスそうな目つきをしていました。
大体悪役は分かりやすい見た目をしているのが漫画のお決まりなのです。
「そして、わしはしばらく"白銀の剣"のぱーてぃーめんばーとして立ち回ったのじゃ。」
「なんか、足を引っ張ったって言ってましたけど、いつも通り周りに迷惑かけてたんですか?」
「いつも通りってなんじゃ!」
みたま様はぷんすかと怒ります。
「別にわしが無能だった訳ではないのじゃ! わしはぱーてぃーから追放されるように、一切ぱーてぃーに貢献せず、徹底的にぱーてぃーに損害をもたらすように暴れ回っただけじゃ!」
「追放されて然るべきクソ野郎じゃないですか。」
いつも通り迷惑を掛けていました。
「そして、わしがいたからこそぱーてぃーが成功していたのだと分からせる為に、離脱の際にやつらに弱体化の呪いを掛けていったのじゃ。」
「"白銀の剣"の人達が可哀想すぎる……。」
優秀だと思った相手をスカウトしたら、悪意を持って活動の邪魔ばかりしてくるのでクビにしたのに、逆恨みで呪いを掛けてくる……とんでもない地雷神様に目を付けられた哀れな上級パーティー"白銀の剣"。
分福も流石に疫病神に目を付けられた彼らに同情しました。
「ここまでのお膳立てをして、ようやくわしの追放後の逆転物語が始まるのじゃ!」
「あんまり逆転して欲しくないクソ野郎ですけどね……。」
こうして、逆転して欲しくないクソ野郎、みたま様の逆転物語が始まります!
「まずは、功績を上げるために高難易度くえすとに挑戦するのじゃ!」
「クエストとは?」
「お仕事みたいなもんじゃ。もんすたー、いわゆる化け物を退治したり、必要な物資を採取したりと依頼を受けて仕事をこなすのじゃ。」
「なるほど、それでまずはどんなクエストを?」
「今日、わしが受注するくえすとは、"どらごん退治"です。」
「前回のそれまだ擦るんですか。ところでドラゴンとは?」
「そして、先に退治したどらごんがこちらになります。」
「キュー○ー三分クッキングかな? うわ、なんですかこのでかい爬虫類」
「日本語で言うところの"竜"ってところじゃな。」
「ああ。竜ですか。へぇ~、蛇みたいな奴じゃないんですねぇ。」
「東洋竜と西洋竜は大分見た目が違うからのぉ。今回は、西洋竜を火で炙って叩きにしました。」
「キュー○ー三分クッキングかな?」
「次回のお料理は"りっちー退治"です。」
「料理って言っちゃった。三分クッキングだこれ。」
そんなコントはさておき。
あっさりと高難易度クエスト"ドラゴン退治"を熟して、巨大なドラゴンの亡骸を滑車に載せてずるずるとみたま様は引っ張っていました。
町の前でみたま様のクエスト達成を確認しに来た冒険者ギルドの者達は騒然となっています。
「ソロでドラゴンを討伐……!? あんな小さな女の子が……!?」
「あれって確か、"白銀の剣"が引き抜いたレアジョブ"神様"の……?」
「でも、あの子は"白銀の剣"をクビになったって聞いたぞ……?」
ドラゴン退治は結構な高難易度クエストだったようで、ギルドの職員以外にも冒険者達も様子を見に来ていたようです。しかも、普通は討伐証明に角や尻尾などの身体の一部を持ち帰る事の多いドラゴンを、丸ごと持ってくるという豪快な帰還が更に野次馬を集めていました。
「ふふふ。凡愚がさえずっておるわ。」
「完全に悪役の台詞なんですよねそれ。」
得意気にドヤ顔をしつつ、みたま様はギルドの職員に戦利品のドラゴン一匹を渡します。
「こ、これあなた一人で倒したんですか?」
「そうじゃ。」
職員は信じがたいものを見るような目で見ていますが、実際にこの狐耳巫女少女がドラゴンを引っ張ってきた事を見たら信じざるを得ないようです。
ドラゴン退治のクエストは無事達成扱いとなり、みたま様は多額の報酬とギルド内での評価を得ることができました。
「いやー、ちょろいもんじゃのう。獣をしばき倒すだけでこんなに稼げて認められるとは。」
「まぁ、みたま様は元々妖怪をしばき倒して成り上がった神様ですしね。こういう野蛮なのは向いてるんでしょう。」
「野蛮は余計じゃ!」
モンスター退治というのはみたま様にとって天職だったようです。
そこからのみたま様は破竹の快進撃を続けました。
長らく討伐されずに放置されていた厄介なモンスターをバッタバッタと薙ぎ倒し、みたま様の通った道には亡骸しか残りません。
ギルド内での評価もどんどんあがり、いつしか"
そんなみたま様が酒場で呑んだくれていました。
「なぜじゃ~~~!」
泣きながらぐいぐいと酒をあおるみたま様に、分福が尋ねます。
「どうしたんですか? 随分と調子良く活躍できているのに。」
「わし、すごい活躍してるのに他の冒険者達に避けられているのじゃ~~~! 全然見直して貰えないのじゃ~~~!」
どうやら、追放されてから周りに見直されるのが目的だったようですが、思ったように周りから評価されていないようです。
たくさんのクエストを熟し、冒険者ランクなる格付けもかなり上位にまで登り詰めているのにも関わらず、避けられているというみたま様に分福は不思議そうに尋ねました。
「え? ちゃんと働きは評価されてるんですよね?」
「ぎるどは評価してくれるのじゃ! でも、追放されたわしがかわいそうだとか、新しいぱーてぃーのお誘いがこないのじゃ!」
みたま様はぐずぐずと鼻を啜りながらぐいと酒を一気飲みします。
「それもこれも"白銀の剣"のせいなのじゃ!!!」
「え? みたま様を追放したパーティーですよね? 彼らが何かしたんですか?」
「あやつらがわしの"でま"を流して評判を落としているのじゃ!」
冒頭でみたま様を追放したパーティー、"白銀の剣"。
みたま様は、彼らが脱退後もみたま様のデマを流して、みたま様の活動を妨害しているというのです。
「わしが自分だけ目立つ為に、入ったぱーてぃーの邪魔をするだとか、ぱーてぃーに入れると明らかに仕事をさぼってるだとか、ぱーてぃー追放の腹いせに弱体化の呪いをかけただとか、謂われのない噂を流しているのじゃ!」
「全部事実じゃないですか。」
みたま様が当初に言っていた通りの話です。完全に因果応報というやつでした。
「なぜじゃ~~~! わしは正当な評価を得たいだけなのに~~~!」
「いや、追放されて然るべきクソ野郎っていう正当な評価を得られてるじゃないですか。」
「分福! お主までわしを馬鹿にするのか!」
「馬鹿にしてるんじゃなくて、みたま様が馬鹿なんですよ。」
「え~~~ん! 分福が苛めるのじゃ~~~! おむらいすのおじさんに言いつけてやる~~~!」
「グルメの話はもう終わったんですよ。」
一頻り泣き喚いた後に、みたま様はグラスをドンと置いて黙ります。
神様には毒物の類いは効きません。実はアルコールで酔うことはないのです。わざわざ酒で酔いたいが為に、毒に対する耐性を失っている神様も世界にはいますが、みたま様は別にお酒は好きではないので酔いは回りません。
今の荒くれっぷりは単純に酔ったフリをしているのです。
スンと冷静になり、みたま様は深く溜め息をつきます。
「うぅ~。このままでは見返す事ができないのじゃ。とはいえ、"白銀の剣"に復讐したらじゃんるが変わってしまうし……。」
「既に極悪非道な疫病神が当たり屋してる別ジャンルになってる気もしますが。」
「当たり屋とはなんじゃ!」
「当たり屋以外の何ものでもないじゃないですか。」
そんな話はさておき。
周りから評価をされない事からにはこの物語はこれ以上進みようがありません。
因果応報と言えばそれまでですが、最早「腕だけは立つクソ野郎」という評価は覆らないのです。
「わしはちやほやされたいのじゃ~!」
「それならちやほやされるジャンルに行けばいいじゃないですか。なんで追放もの選んだんですか。」
「おっ、それもそうじゃな。次回はちやほやされるじゃんるにしようぞ。」
「切り替え早っ。」
さっきまでの泣きじゃくっていた神様はどこへやら、既に立ち直っているみたま様は、腕を組んでヨシと頷きます。
「次のじゃんるが決まったなら、そろそろオチを付けないとのう。」
「オチて。」
「もうらすぼすの魔王を倒してしもうたし。はて、どうやってオチを付けるかのう。」
「ラスボスが三分クッキングより早く倒されてる……。」
本来ならあれこれ倒すのが物語の醍醐味なのですが、全部ワンパンで倒してしまうので話が盛り上がらないのです。
さて、これから倒すべき敵もいなくなった今、どうやってオチを付ければ良いのでしょうか。
「もう異世界はこりごりじゃ~!」
「そんな古いギャグ漫画みたいなオチでいいんですか。」
お後が宜しいようで。
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