ほの暗く芳醇なる妖しさ漂う、美酒の如き極上「異世界」ファンタジー

異世界ファンタジーとひとくちに言っても明度や彩度の違い、ゲーム的な世界観からまるで神さまの視点から箱庭を眺めるように形作られた異世界まで、その在り方は千差万別あるかと思います。

その観点でいうと本作は、まるで額縁におさめて差し出された物語を劇場の観客として鑑賞するような、あるいは、年代物の美酒の封を切った瞬間にコルクと飲み口の隙間から鼻先を擽る芳醇な異世界の香りに酔いしれるような、そうした異世界です。

我々のそれとは異なる時代、文明の光やゲーム的な明朗さからは遠く、いにしえの時代の妖しさがさながら阿片窟の香気のようにただよう、ほの暗さを羽織ったダークファンタジー。
絡み合う数多のキャラクターと、濃密な描写でもって、力強く「異世界」を紡ぎあげる、古き良き――なんて言い方をしてしまうともしかしたら警戒されてしまうかもしれませんが――剣と魔法、神と悪魔の神話に連なる時代の物語。
本作はそうした類の作品です。

ここまで能書き垂れておいてなんですが、まずは一話だけでもお手に取って読み進めてみてください。
「おや、これ面白いな?」と思ったら、あとはどうかそのまま。お気の済むまでこの「異世界」を、どうか先へ先へと進んでみてください。

ちょっと空いた時間にぱぱっと読むのにはあまり向かない楽しみ方のおはなしかもしれません。
けど、一度引き込まれるとどっぷり嵌ってなかなか物語から抜け出せないやつです。

どうぞお試しあれ、です。

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