第4話

「今日は本当に気持ちよかったよ。」

客が満足気に私の頬を撫でる。

そりゃあ、あんな自己満足的な行為をすれば自分は大満足だろう。

「・・・私もすごく良かった。」

そう思いながらも、本音とは裏腹の言葉を発している自分が汚く感じる。

「美海ちゃんが可愛いから、もっと気持ちい事したくなるよ。また、呼んでもいいかな。」

「・・・待ってる。」

汚いお金だけが、どんどん溜まっていく。


ホテルを出てスマフォを取り出すと、また違う予約が入った連絡が届いていた。

これで今日も朝帰り決定か。


いりえに蓮さんの話題を出されてから、ずっと頭の片隅に蓮さんの影がチラついている。

私が嬉しそうに?

蓮さんの事を・・・・?

いや、きっと幻に騙されているだけだ。

だって、蓮さんだって私をただお金を出せば着いてきてくれる女としか思っていない。


「蓮さんにとって私は所詮・・・」

ふと立ち止まり、自分の胸に手を押し当てる。

いりえと話していた時のドクンとなる鼓動は無かった。

やっぱり気のせいなんだ。

人の愛をお金で買っている買っている私がそんなに真剣に人を愛せるわけ・・・


目の前を楽しそうなカップルが通り過ぎていく。

嬉しそうに彼氏の腕に寄り添う彼女。

私はどこで道を間違えたのだろう。


「ママ・・・・」

私って何の為に生まれてきたの。

このままお金の為に幻を愛して生きて行かなきゃいけないの?

目から雫がこぼれ落ちそうになったその時だった。


「美海?」

聞き覚えのある声が聞こえ、ドクンと心臓が揺れた気がした。

顔を上げるとそこには、心配そうにこちらを見つめている蓮さんがいた。

「蓮さん・・・?」

「やっぱり。どこかで見たことある綺麗な子だなと思ったら。」

「・・・こんばんは」

泣いていることに気付かれたくなくて、蓮さんの顔が見れない。

今一番会いたくなかった人に会ってしまった。

だって、今会ったらきっと零れてしまう。

必死に気付かないようにしている思いが溢れだしてしまう。

「美海、もしかしてだけど泣いてる?」

そんな事とはお構い無しに蓮さんは更に近付いてくる。

「泣いてないです。」

「美海。」

「すみません、私予約があるので。」

足早に通り過ぎようとしたその時だった。


身体が全体的に何かで包まれるような感覚。

蓮さんに抱きしめられていることに気付くのはすぐだった。


「・・・・離してください。」

「泣いている女の子を放っておくほど男終わってないから、俺。」

「何それ、なんか・・・ずるいです。」

抱きしめられているせいか、蓮さんの香りで頭いっぱいになっていく。

自然と心が落ち着くような気がした。

「俺の前ではありのままの美海でいいって言っただろ?」

「蓮さん・・・」

ふと顔を上げると、蓮さんの目と合った。

心配そうに見つめる目、私を抱きしめる男らしい腕。


もう、どうにでもなっていいと思った。

「・・・・いて。」

「え?」

「私を抱いて、蓮さん。」


初めて私は、蓮さんの事が好きなんだと自覚した。

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