第9話
まっすぐな、優しい眼差しが私を見つめていた。
蓮さんに見つめられるのとは違う、まるでおばあちゃんの腕の中のような優しい温もり。
「いりえ、私・・・・」
「安心して。もう諦めてるから。というか、なんかそういうんじゃないってなんとなく思った。」
いつになく恥ずかしそうにいりえは頬を掻いた。
「俺、妹が居るんだ。」
私の肩に顔を埋めながら、いりえがボソボソと話し始めた。
「頭がよくて、優しい俺には全然似ないすごく良い子。親はとっくに俺には関心がなくて妹にばっか期待の眼差し向けてさ。」
「妹・・・・」
いりえが自分の家族の事を初めてかもしれない。
「だからって親の事恨んでるとか、そんな事もないんだけど。そこまで繋がりとか気にしてなかったし。でもさ、俺が家を出て1年位経った頃かな。」
そう言って私の事をいりえが抱き締め直す。
かすかに体が震えているような気がした。
「母さんから電話があって知ったんだ。妹が死んだって。」
「いりえ・・・・・」
「妹は母さんと父さんの重圧に必死に耐えてきた。誰にも相談も出来ずに。そして限界を迎えて、変な男の甘い言葉に釣られた。レイプされそうになってその男に反動で・・・・」
「いりえ!・・・もういいよ。」
か細くなっていくいりえの声に耐えられなくなり、私はいりえを抱き締め直した。
「もう、分かったから。」
「・・・俺がもっと家族との関わりを持っていれば、妹の愚痴の捌け口になっていればって何回も思ったけど、もう後の祭りだからね。そんな時に美海に会った。」
体を離すとそこには目を赤くしたいりえが微笑んでいた。
「最初は体売って金稼いでるなんて親不孝者な子だなと思ったけど、だんだん話を聞くにつれ、思ったんだ。ああ、俺はこの子を守らなくちゃいけないんだって。いつかこの気持ちを美海に伝えたいって。」
「いりえ・・・・」
「でもさ、最近違うって分かった。俺はあの時助けてあげられなかった妹と美海を重ねているだけだって。」
満足気にいりえは微笑み、体を離した。
「美海には幸せになってほしい。そりゃ体を売って金を稼ぐとかは心配だけどさ、美海が決めた事ならって何も言わずに見守ってきた。でもそろそろ自分の幻を脱いでも良いんじゃないの?」
「!」
「蓮さんの事話している時の美海、本当に嬉しそうな顔してたよ?」
どっくんどっくん。
心臓が波打つ音が聞こえる。
「美海」
優しく私の事を呼ぶあの声を思い出す。
幻じゃない私を認めてくれようとした。
私の過去を聞いて涙を流してくれた。
私は、本当にこの幻を解いて、あの人に向かっていいの?
「私・・・・私は・・・」
「俺はいつでも美海の味方だから。」
「・・・いりえ、だいすき!」
「素直な美海、本当に可愛いよ。」
嬉しそうに微笑むいりえに私はまた、強く抱きついた。
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