第10話
心が高鳴っていく。
スマフォの画面には蓮さんの連絡先。
深呼吸をして、通話ボタンを押す。
蓮さんはすぐ電話に出た。
「美海!」
「こんにちは。蓮さん。」
「良かった。何度連絡しても出てくれないから。」
電話先でも分かる蓮さんの安心したような声に私も心が落ち着いていることに気付いて心がキュッと締め付けられた。
「この前は私」
「この前は本当にすまなかった!」
私が謝る前に蓮さんが先に謝られ、言葉につまる。
「俺の考えばかり押し付けて、美海の気持ちを考えていない話を口走ってしまっていた。美海が困惑するに決まっているのに。」
「私の方こそ、優しくしてくれたのに冷たくしてごめんなさい。」
「・・・・じゃあ、仲直りだね。」
「!」
ああ、なんでこの人はこんなにも私の心を揺らませるのだろう。
やっぱり私はこの人の事が好きなんだ。
「あの、蓮さん、今日予定空いてる?」
勇気を振り絞って問いかけると、少しの沈黙の後悲しそうな声で蓮さんが答えた。
「・・・・ごめん。しばらくは会えそうにない。」
「・・・・そっか。」
「会えそうなタイミングになったら必ず連絡する。それまで待っていてくれる?」
「分かった。でも、あんまりに遅いと知らないんだからね。」
少しの強がりで言った言葉に蓮さんはくすっと笑った。
「分かってるよ。美海。」
優しく名前を呼ばれて、また心臓の鼓動が早くなった。
「え!パパ活やめたの!?」
いりえは驚いたように言うと、飲んでいたお茶にむせてしまった。
「そんなむせるほど驚くこと?」
「そんな驚くことって、あんなに私は誰かの幻のなかで愛されれば良いって言ってた美海がそんな簡単にパパ活やめれるって、そうとうな進歩だよ?」
「そうかな・・・・」
依存のようにしたいたパパ活もアカウントも全て消し、もらっていた連絡先も全て消した。
数十件わたる連絡先に幻の中の私をこんなに愛してくれていたんだと思うと自分は幸せ者だったんだなと感じた。
「私、ずっと私の事なんてみんなお金で買っているだけって思っていたけど、意外と愛されてたのかもって思っちゃった。」
「・・・美海は本当、そういう所純粋だよね。」
ぼそっと言った言葉に、いりえはため息をつきながら私の頭を撫でた。
「一歩間違えれば一生残る傷を抱えることにもなるんだから。これからはもう少し自分の事も大事に出来る仕事探すんだよ。」
「いりえ・・・・」
「ま、ホストの分際で言えた立場じゃないけど。」
「本当に、ありがとう。」
優しくいりえの頭を撫でると、いりえは照れ臭そうに笑った。
「この電車で合ってるか。」
そう独り言を呟く。
バイトの面接の為に朝から電車に乗るのも久しぶりだ。
大きい駅の本屋のバイト募集を見つけ、応募したらすんなり面接まで行ったことに少し驚いた。
まあ、面接で落とされたら元も子もないけど。
それでもいい。
少しでもまともな自分になって、今度蓮さんに会ったときに一泡吹かせれば。
もっと私の事を好きになってくれるんなら、何でも出来る。
そんな気持ちで来た電車乗ろうとした時だった。
「れんー!またよろしくね?」
「はいはい。」
女に抱きつかれている蓮さんが目に入った。
なんで、ここに蓮さんがいるの・・・・?
優しく女を離した蓮さんと目が合う。
「美海・・・・!」
私の顔を見た途端に、蓮さんの顔が曇っていく。
あの時のママと蓮さんが重なる。
無意識に涙が溢れる。
なんで、なんでこんな事ばかり起こるの?
私は、やっぱり必要とされない存在なの?
心の中が色々な感情でぐちゃぐちゃになっていく。
「美海!」
私を呼ぶ蓮さんの声を無視して、その場を離れた。
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