第11話
「美海は俺に必要ないよ。」
蓮さんが私に向かって呟く。
その姿がママに変わっていく。
「ごめんね、美海。このままだと私、あなたを殺してしまいそう。」
やめて。
みんなして私の存在を否定しないで。
本当は私、お金なんていらない。
私が本当に欲しいのは・・・・。
「ただ、愛されたいだけなんだ。」
「!」
「美海ちゃん?どうしたの?」
隣から聞こえる男の声に目をやる。
「・・・・平賀さん。」
「美海ちゃん、急に寝ちゃったから。疲れていたんだね。」
「・・・最近寝れてなかったから。平賀さんが優しいから安心したのかも。」
「美海ちゃん!・・・もっと可愛がってあげるね?」
男は嬉しそうに私の胸に顔を埋めた。
あの後は記憶がない。
あのまま面接をすっぽかして、手当たり次第のパパ活相手を探して寝た。
家には帰っていないので、いりえから鬼のような連絡は来るけれど、無視している。
もう、誰の事も信じたくなくなっていた。
「美海ちゃん、また遊んでくれる?」
「今よりご褒美くれたらあげようかな。」
「美海ちゃんは本当にかわいいなあ~!」
抱き締められても、人の温度を感じても今は何の感情を持てないままだった。
お金をもらえばもらうほど、自分の存在がなくなっていくような気がしていた。
「殺してって言ったら、殺してくれるのかな」
「美海ちゃん?」
ぼそっと呟いた言葉に、男は驚いた目で見つめていた。
「!・・・・・何でもないよ。」
誤魔化すように抱き締め返し、幻を被った私はキスをねだった。
「またね!」
「ばいばい。」
嬉しそうに去っていく背中を見送り、次のパパ活先を探そうと携帯に目を向けた時だった。
「美海!」
聞きなれた声。
私の心を、心臓を震わせる。
「蓮さん・・・・・。」
「ずっと連絡取ろうとしても拒否されてるし。いろんなホテル探してやっと見つけた。」
「・・・もう先客がいるので私はここで。」
目を合わせないように立ち去ろうとした私の腕を掴む。
「痛いな!離してよ!」
「美海、お願いだから俺の話を聞いてくれ。」
「今さら何を言おうって言うんですか。綺麗な女の人と電車で楽しそうにしていたじゃないですか。どうせ私の事なんてどうでも良いと思っていたんでしょ?」
「美海、あれは違うんだ。お願いだから場所を変えてちゃんと話をしたい。」
こんな必死な顔をしている蓮さん初めて見た。
でも、私はもう、誰も信じられないの。
それなのに。
それなのに、なんで掴まれた腕を離せないの。
「美海。」
心臓が久しぶりに震えているような気がした。
この声には抗えないと心臓が言っているような気がした。
目の前にカフェオレの入ったマグカップ。
顔をあげると気まずそうに俯く蓮さんが居る。
なんで家に着いてきちゃったんだろう。
来たことを後悔しながらカフェオレを飲むと、蓮さんがぽつりと呟いた。
「美海を探しているうちに、いりえと言う人に会ったよ。」
「!」
驚いてカフェオレを持つ手が止まる。
「自己紹介したら、その途端にこれだよ。」
蓮さん髪をあげると、こめかみに青あざが見えた。
「それ・・・!」
「バイトの面接を受けに行った日から帰って来なくなった。パパ活を再開している噂を聞いている。きっと俺との関係に何かあるに違いないって。」
「いりえ・・・・。」
「美海、誤解を解かせてほしい。その前に。」
そう言うと蓮さんは立ち上がり、地べたに正座すると、頭を下げ土下座をした。
「止めてください!私そんなことしてほしい訳じゃないです!」
「いや、男のけじめとして謝罪させてくれ。美海を傷つけてしまって本当に申し訳なかった。」
私は立ち上がり、土下座をしている蓮さんの前にしゃがんだ。
「・・・・あの一緒にいた女の人は?」
「・・・風俗店のオーナーだ。」
「!」
「ちょっと調べていた事があってね。どうしても話すにはデートしてほしいって聞かなかったから。本当に申し訳なかった。」
「それにしても、なんで風俗のオーナーと・・・・?」
「美海、落ち着いて聞いて欲しい。」
蓮さんは顔をあげ、真剣な顔で私に話した。
「美海の母親を見つける事が出来たんだ。」
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