第3話

「美海・・・・」

誰だろう、私を呼ぶ声が聞こえる。

「ごめん、美海・・・」

この声は蓮さん?


頭に手の温もりを感じる。

蓮さんが私の頭を撫でてくれているのか。

「美海・・・」

そんな愛しそうな声で呼ばないで。

勘違いしてしまいそうになる。

蓮さんが本心で私の事を・・・・


「ん・・・・」

目が覚めると、部屋は朝日で照らされており、隣には誰も居なくなっていた。

いつものように蓮さんは私を置いてホテルから去っていた。

ベッド近くのテーブルを見ると、数枚の1万円札とメモ帳に走り書きされた手紙。

“今晩も楽しかったよ。愛してるよ 蓮”


「愛しているなら、朝まで傍に居てよ。」

結局蓮さんも本当に私の事なんか愛してくれない。

勘違いしてはいけないんだ。

私は、お金の為に幻の愛を提供しているのだから。


「結構金溜まったんじゃねえの?」

「溜まってたらこんな仕事最初からしないわよ。」

へんへいと返事をしながらカップラーメンを啜っているのはホストのいりえ。

住んでいるアパートの隣同士で、年齢も近いせいかよく私の部屋に来てはだらだらと話している。

「だってさ、一晩寝ただけで数万は、本当に真っ当に働いている人にとったら働くのが馬鹿らしくなるよな。」

「お酒飲ませて好き好き言って、高いお酒買わせてる人に言われたくないけどね。」

「痛いところつくよね〜、美海ちゃんは!」

そう言いながらいりえは嬉しそうに笑った。

「・・・私もいりえみたいに自然に笑えたらいいんだけど。」

「美海ちゃんももっと自分の心に素直になればいいのに〜!もっと人生楽しいよきっと。」

こういう所がきっといりえが女の子に好かれるんだろうなと思う。

自分を包み隠さず出せたらと何度も思う。

「・・・いりえみたいな人に早めに出会えたら私も変われたのかな。」

「え、素直すぎるの美海ちゃんらしくない。」

「そうですか。カップ麺代請求するよ。」

「わー!ごめんなさい!」

いりえとは本当に男女という事も関係なく自然と話せる唯一の相手だと思う。

向こうに好意が見えないからだと思うけど。

「でも、そのさ。美海ちゃん少し変わったよ。」

いりえが嬉しそうに私を見つめる。

「何も変わった覚えないんだけど。」

「ううん。変わったよ。」


「蓮さんって人の話している時はなんかちょっと嬉しそう。」

蓮さん、の名前が出た瞬間、心臓がどくんと弾んだ気がした

「・・・そんな事ない。」

「そうかなあ?蓮さんの話している時の美海ちゃん、お客さんが俺と話している時の顔と似てる」

「そろそろ出ないと。早く部屋戻って。」

「へーい。」

話を遮るように立ち上がるといりえも仕方なさそうに支度し始めた。


そんなわけない。

こんな汚れた私が誰かを好きになるなんて。

まだドクンドクンとうるさい心臓を落ち着かせながら、私も支度を進めた。


今日の客は最悪だった。

「美海ちゃん可愛いね。僕本当に好きになりそうだよ。」

「ありがとう。」

「ねえ、延長しちゃおうかな。」

ご飯をしている間も、話をしている間も足や腰を触られる。

新客とはいえ、久しぶりのはずれ客だ。

「美海ちゃんが言うなら、倍以上だすよ?」

そう言いながら抱き寄せられる。


私っていつまでこんなことでお金をもらうんだろう。


「美海。」

脳内にあの人の影が見え隠れする。

「どんな美海も素敵だよ。」

そんなの嘘。

お金の為なら男に媚び売る女を素敵だなんて。

だから、私は目の前の幻を愛する。


「私ももっと一緒にいたいな。」

そう言い私は笑みを浮かべ、頭の片隅にいる誰かの存在をかき消すように、指を絡めた。

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