第2話

「美海・・・」

私の声を呼んで、指を滑らせる。

「ん・・・」

「美海、綺麗だよ。」

優しい声、私だけに向いている愛情。

でも、それはお金を通じての愛情。

どんなに名前を呼ばれても、愛を囁かれていても、この時間が終われば何も無くなる。


「美海」

呼ばないで。

「可愛い。」

優しい言葉で囁かないで。

「大好きだよ、美海」


どうせ、私の事なんかちゃんと見ていないくせに。


「んっ・・・」

目が覚めると閉められたカーテンから月の光が差している。

ふんわりと香る煙の先を見ると蓮さんが窓を見つめながらタバコを吹かしていた。

月の光が蓮さんを照らしている。

がっつりとした肩、太い首筋。

少し伸ばしている顎の髭が月の光にキラキラと照らせれている。

真っ直ぐ外を眺めている瞳に、さっきまで私が映っていたと思うと心の奥がじんと熱くなる気がした。

「美海、起きちゃった?」

「うん。ごめんなさい、寝ちゃって。

これでも仕事中なのに。」

俯く私の顔に手を添え、蓮さんはおでこに優しくキスをした。

「気にしないで。無理させたのはこっちの方だし。俺の前にも誰かと会ってきたんだろ?」

「・・・そうだとしたら?」

貴方は少しでもその相手に嫉妬の感情を持ってくれるの?

そんなことを思いながら聞くと、蓮さんは苦笑いを浮かべ、またタバコを吹かした。


「どうせ、俺も君のお客の一人だからね。人気なのは誇らしい限りだよ。」

「・・・・そうだよ、ね。ありがとう。」


何を期待していたんだろう。

私は蓮さんになんと言って欲しかったのだろう。

「まだ起きるのは早いよ。ゆっくりおやすみ。」

「はい・・・おやすみなさい。」

「おやすみ、美海。」

そう言って蓮さんは優しく私の頭を撫でた。


私と蓮さんは所詮お金を通じて生まれている関係。

ただそれだけなのに。

私の中の本当の気持ちが膨らんでいく。

この幻のような時間がずっと続けばいいのに。

そう思いながら、蓮さんの手に擦り寄り眠りについた。


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