第7話

「美海ってさ、もし本当に好きになった人が出来たらパパ活やめるの?」

いりえにそんな話をされた気がする。

「そんなの、本当に人を好きになるなんて考えられない。」

「じゃなくて!もしもの話だよ。

だって本当に好きになったらさ、他の男となんてできないじゃん。」

「もしも、か・・・」

もしも、私が心から人を好きになったら、どうなるのかなんて言われるまで考えられなかった。

でもその時は、奇跡的なものが起こらない限りあり得ないだろうと思っていた。

だって、私が本当に愛して欲しかったのは。


「パパ活をやめて、俺と一緒に住もう。」


蓮さんの真っ直ぐに見つめる瞳に頷きそうになって、慌てて俯いた。

「な、なんでそんな事・・・冗談はやめてください」

「冗談じゃこんな事言わないよ。」

「冗談としか思えないです。そもそも蓮さんとはただのパパ活だけの関係」

そう言おうとした時、蓮さんに抱き締められた。

「美海が心配なんだ。それじゃあ理由にならないか」

「・・・そんな心配だけでパパ活相手を家に迎えられるんですか。」

「美海・・・・俺には分からない。この話をしてくれたのも少しは俺の事を信頼してくれているということだろ?なのに、なんでそんなに距離を置こうとするんだ。」


「・・・・気まぐれですよ。」

「気まぐれ・・・?」

「蓮さんに会う前に酷い抱かれ方したから、つい昔の話を思い出しちゃっただけです。」

ぎこちない笑みを浮かべながら、蓮さんの体を放した。

「美海・・・・」

「蓮さん、優しいからつい甘えそうになっちゃうんです。でも、一緒に住もうまで言ってくれるんなんて。」

「美海、君本当にそんな事思って」

手を取ろうとする蓮さんの手をはらう。

「!」

玄関に向かい靴を履く。

「美海!」

強く名前を呼ばれる。

幻の中の本当の自分が揺らぐ。

「カフェオレ、ごちそうさまでした。」

そう言って私は蓮さんの家を出た。


怖い。

本当に私が人を人を好きになったら。

本当に愛して欲しかった、ママみたいに離れていくかもしれないのに。

またひとりに戻ってしまうんだったら。

また幻のままで誰かに必要とされる私のままでいれば、傷つかなくて済む。


気付くと、いりえの部屋のインターホンを鳴らしていた。

「はいはーい・・・って、美海」

「・・・・」

「美海どうしたの。顔死んでるけど」

心配そうにしているいりえに強く抱きついた。

「ちょっと、美海苦しい」

「もう、分かんないの!どうしたらいいの、助けて・・・!」

「美海・・・」

泣きじゃくる私をいりえは優しく抱き締め返した。










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