第5話
「何も無いけど。」
「・・・」
蓮さんが、家の鍵を開け扉を開けた。
「何か飲もうか、酒あったかな」
リビングに向かおうとする蓮さんの背中に抱きついた。
「・・・美海から抱きついてくるなんて、こんな嬉しいことはないな。」
「いくらで抱いてくれるの。」
「・・・ビールしか入ってないかもな。コンビニ寄って来れば良かった。」
ぼそぼそと呟く蓮さんを私の方へ向け、正面から抱きしめた。
「もうお金払わなくてもいいから・・・抱いて。」
「美海・・・」
私を見つめて蓮さんはふうと呆れたように息をついた。
「・・・・ごめんなさい、やっぱり私帰ります。」
やっぱり蓮さんにあそこで出会ったのが悪かった。
蓮さんだって、他の客と同じ私の幻を愛していたのに。
幻の中の私が存在意義を求めてはいけなんだ。
「変なこと言ってすみません。もう本当に大丈夫ですから。」
そう言って立ち去ろうとした時だった。
「美海。」
思わず顔を向けると、目の前が蓮さんでいっぱいになった。
「んっ・・」
蓮さんの暖かい唇が私の冷たい唇に重なった。
私の唇が蓮さんの体温で暖かくなっていき、深いキスへ変わっていく。
蓮さんと体を交わる事はしていたけれど、キスをする事は一度もなかった。
だから、本当に好きにならずに済んでいたのかもしれないけれど。
長いキスが終わり、無言で蓮さんを見つめる。
蓮さんの真剣な眼差しが私の心の中まで見透かされるようで。
蓮さんの前で振舞っていた幻が白けていくような気がした。
「俺は悲しそうな美海を抱くために家に上げたんじゃない。本当に美海が心配で家に連れてきたんだ。」
「蓮さん・・・」
「そりゃ美海をお金で買って抱いている客の分際で心配とか言えた立場じゃない。でも、俺は美海には幸せに生きていて欲しい。だから、嫌じゃなかったら何があったのか教えて欲しい。」
なんでこんなに私に優しくしてくれるんだろう。
いりえと一緒にいる時とやっぱり違う。
私は、この人の前でありのままでいていいの・・・?
蓮さんが私を優しく抱きしめられ、躊躇いながら蓮さんの背中に腕を回した。
「何があったのか、話してくれる?」
「・・・はい。」
こうして、私は蓮さんに今までの話をする事になった。
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