最終話





あれから数年が経った。

私はというとパパ活としての賞味期限はとっくに切れ、都会からは少し離れた町の本屋で働いている。

あの時よりお金は沢山は稼げないけど、私は寂しくなかった。

だってね、お金だけが幸せではないことを実感しているから。


「美海、今日は一段と綺麗ね。」

「ありがとう・・・・・・ママ。」

そう、ママと一緒に住むことになったから。

あの後ママも風俗を辞め、夜の仕事ではあるが小さいスナックのママとして働いている。

でも、無理をしない働き方になったおかげか昔のより顔色も良く、笑うようになった。

「ママ、今楽しい?」

「ええ。幸せよ。」

そう言って微笑むママの顔は小さい頃に見たことのある笑顔だった。

そう、死んだおばあちゃんの面影にも似ているような、優しい笑顔。

私は思わずママに抱きついた。

「ママ、だいすき!」

「あらあら、いい年なのに美海は甘えん坊ね。」

「年は関係ないのー!」


「そう可愛い子ぶっちゃって。時間大丈夫ですか、お嬢さんー?」

後ろから声が聞こえて振り向くと、そこには意地悪な笑みを浮かべたいりえが立っていた。

「居候が生意気な事言わないでよね!」

「居候なんて口の悪い子だ!この家の番犬と言って欲しいね!」

そう言っていりえは両手を犬のように丸めた。


いりえもママの勤めるスナックのボーイとして住み込みで働くことになって、度々私とママの家に顔を出している。

「いりえこそ何の用よ!」

「何の用って美紀さんとお家デートだから。」

「いつも色々働いてもらってるからね。」

「いりえ、ぜんぜん相手にされてないよ。」

「美紀さーん・・・・・」

いりえはママと会ったときに一目惚れしてしまい、ずっとアプローチしているみたい。

ママには響いてないみたいだけど。

「あ、美海そろそろ本当に遅刻するわよ。」

「本当だ!行ってくるね、ママ!」

私は抱きついていた体を離れ、鞄を持ちドアを開けた。

「行ってきまーす!」


「美海、あの頃と本当に変わった。」

「ちゃんと、お金で自分を包まなくても愛してくれる人が出来たからかしらね。あの人には頭が上がらないわ。もちろん、いりえにもね。」

「美紀さん・・・・!」

私の知らないところで色々動き始めているみたいだけど、今はそっとしておこう。


私にも、心から大切にしたい人が出来たのだから。

私の事をお金では見ない。

私を幻から連れ出してくれたあの人。


六本木通り交差点を過ぎた所。

どっくんどっくん。

立っている後ろ姿を見て心臓が跳ねる。

「蓮さん!」

大きな声で名前を呼び、振り向いた笑顔に向かって私は走り出した。




ずるいまぼろし 完













































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ずるいまぼろし 舞季 @iruma0703

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