祝祭籤

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（492文字）

情景が、特に美しく描かれています。
大きな和室、晩夏の日差し、ひぐらしのこえ────

背景描写だけなら、「ぼくのなつやすみ」と言っても通用しそうな
そんな空気感

そこで交わされる、謎めいた会話
徐々に輪郭を帯びていく、おぼろげな事情

近未来的なギミックのあれこれが全く出てこない
これは紛れもなく、真のSFと言っていい作品

極度に先鋭化した思想は
時に私達に微笑という剥がれない仮面を植え付ける
それが、押し付けられたにせよ、絡め取られたにせよ……

いつしか、世界は変質してしまったと後悔する前に
この作品から感じ取るべきだろう

我々が、数々の深く考えずに選び取ってきたものたちの
成れ…続きを読む

主人公は亡き友人の父に面会する。故人を偲ぶ会話に終始すると思いきや、その予想は二重、三重に、裏切られてゆく。なぜこのタイトルなのかを理解した時の恐怖を、あなたにも味わっていただきたい。

もしあなたがこの作者の作品に初めて触れるなら、この作品はおすすめしません。
他の作品を読んで、確かな筆力に慣れてからにしましょう。
あと、リアリティの作り方にも。
それくらいキツイです。

この物語の出だしは、事情がわからない会話から始まります。
大抵の作品ならそれは単なるフレーバーですが、本作はそれでも読ませる力があります。
そして、いつの間にか私たちの世界とは違う、私たちの世界と同じ残酷な話になっていきます。

どこに恐ろしさを感じるかも面白いですね。
私は、その世界線で祝祭籤を企画してる自分を見たことに戦慄しました。

秋の夜長にウトウトしながら読み始めました。いつの間にか、よく晴れた夏の日の、じっとりした湿度を感じるストーリーでした。あったかいコーヒーよりは、冷たい麦茶が飲みたくなるような。スイカも食べたくなりました。

読書とはその文章、物語から想像するものだと思います。

そして書き手は『喜怒哀楽』を文章で表現します。長編のあとがき、エピローグのような雰囲気が漂うこの作品。まさに書き手の『すべらない話』とはこうあるべきを見事に表現されております。

この作品を繰り返し読みながら毎回芽生えた感情は

『ここで読むことを止めれば解放される。ここまででもよく出来た物語で終わるじゃないか。だけど好奇心がそれを許さない』

です。

一万文字に満たないこの作品、ただ、十分では読めません。そして読後にはあなたの持つ想像力がさらにあなたを想像の世界へいざなってくれるでしょう。

（文章力、表現力の高さはすでに存じてまし…続きを読む

この小説は主に会話で綴られる。
情景の描写は最低限で、感情を押し殺した登場人物の心理描写は記されない。

読み手は小説として文章を読んでいたはずなのに、いつのまにか、抑制された空気に押さえ込まれてその場に正座しているかのように居た堪れなくなる。この文章にはそんな力がある。

どこか遠い国の出来事のような不条理でズレた物語をとつとつと話し聞かされ、抗うこともできずに一気に読み終えてしまう。
実際に自分の身にそんなことが起きるはずもないのに、ふと、今にも郵便配達人がとある封筒を運んでくるのではないか。空恐ろしさを植え付けられる。

不条理SFとしての世界観をグーで殴られるような圧力で語る怪作です…続きを読む