とかく世界は不条理なもので

この小説は主に会話で綴られる。
情景の描写は最低限で、感情を押し殺した登場人物の心理描写は記されない。

読み手は小説として文章を読んでいたはずなのに、いつのまにか、抑制された空気に押さえ込まれてその場に正座しているかのように居た堪れなくなる。この文章にはそんな力がある。

どこか遠い国の出来事のような不条理でズレた物語をとつとつと話し聞かされ、抗うこともできずに一気に読み終えてしまう。
実際に自分の身にそんなことが起きるはずもないのに、ふと、今にも郵便配達人がとある封筒を運んでくるのではないか。空恐ろしさを植え付けられる。

不条理SFとしての世界観をグーで殴られるような圧力で語る怪作です。読むべし。

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