何この清々しい敗北感。
敗北? いやいや、僕は負けていない。勝ったのは一羽のペンギンであり、チャールズという名のポジティブの塊だ。彼が勝ったのだから清々しいのだ。
一羽のペンギンがつがいペンギンに言われた一言が、すべての意識に変革をもたらすお話。
これは神話であり、一遍の詩であり、言葉でぶん殴ってくるようなポジティブの塊である。
何言ってるかわからなくなる。自分が? ペンギンが? そんなのはどうでもいい。物語はすでに始まっているんだから、こちらも一緒に駆け抜ければいい。
言葉を読む面白さを一羽のペンギンが教えてくれた、そんな心地よい敗北感をご堪能あれ。
イワトビペンギンのチャールズが主人公の本作品。
何が凄いって、作中からほとばしるパッションが凄い。
チャールズは島生まれ島育ちなのだが、まずもって島へ安穏ととどまる選択をしない。
それはひとえに、愛する妻が放った、たった一言によってでもあるが。
とにかく彼はその愛の一言と、自分のペン突猛進する気概によって、地球を闊歩する。
いや闊歩と表すは生ぬるい。
語りたいことは様々あれど、騙されたと思って読んでいただきたい。
小ネタごと楽しい、そんな小説であるし、言葉というものに愛着がある人なら一粒どころかさらに何粒でも美味しいこと請け合いである。
また、ペンギンが陸から海へと入ると途端凄い泳力を発揮するように、作中端々に「空を見上げて嘴がみする。」といったような詩的表現もあり、その多彩さに心躍るだろう。
私は魅了された。