詩一さんは紳士です

これだけは言っておかねばという使命感にかられました。
詩一さんはいいひとです。
こんな反骨心あふれるエッセイをお書きになり、タグに「滅びよ人類」とつけてしまう。
もしかしたら、初見の方には「怖い人なのでは?」と思われてしまうのでは、と懸念しました。
違うのです。とても知的でやさしい方です。いつも穏やかで感情的になることは少なく、奥様や友達を大事にされている方です。入院した時も励まし続けてくれてたし、お菓子とかくれるし。

そんな紳士の詩一さんが、真摯に語っておられます。
その熱量に圧倒され、そして「これまでどれほど悔しい思いをし、どれほどの怒りをためてこられたのだろう」と想像しました。
マイノリティであることの悔しさ、多数派であるだけで力を持つ人々に虐げられてきた苦しみ、一度はご経験のある方も多いのではないでしょうか。

作者様はその苦しみに目を背けることができない方なのでしょう。
わたしなら、なんとな~く気持ちよく生きられる方を選択してしまうかもしれません。
「命って大切」「出産って尊いね」
あまりよく考えないままそう言うかもしれません。そう言っとけばだいたい世の中うまくいくから。

しかし小説を書きたい者として、「どんな心だろうと真の己の心に向き合う」という態度は持っていたいもの……。
でもでも、世の中から受け入れられないような心を外に出すのは怖い。反社会的なやつと思われたら損だし攻撃されるかもしれない。
内に込めて、なかったことにして、YouTubeでゲーム実況でも見て忘れたい。
うん、そうしよう。

そういう誤魔化しをすることができずに、全身全霊を込めたエッセイに本音を綴ってしまう。そんな作者様は、やはりアーティストだなあと思います。まずその勇気に心打たれます。

子どもや出産に関しては(作者様もおっしゃっているように)各々の考え方があると思います。
わたしはこちらのエッセイに半分は共感、半分は違う考えを持っています。
長くなるので簡単に書きますと、「命」に関しては、自分の体は遺伝子の集合体であると思っていて、「個」や「種族」の子孫を残すことにあまり重きを置いていません。
他者や他の生き物の中にも共通する遺伝子があるのだし、それらが残っていけばそれでいいんじゃないかなと……。
たとえ人が滅びても、人と共通する遺伝子を持った生き物たちが繫栄するのなら、それは負けでも何でもないと思っています。その時代、その場所に適した生き物が繁栄するだけのこと。
もし生き物が絶滅したなら若干凹むけど、なんらかの物質がそこに存在するその世界は、それもまた自然なありようなのかなと。

しかしそんなことは置いておいて、いろいろなマイノリティの苦しみを味わったことのある者として、世間の常識に対して牙を向ける詩一さんという方を、強く応援したくなるのです。
命を重んじて、子どもの一生を真面目に考えたからこそ、子を持たないという選択肢もあるのだと。大切なのは持つ持たないではなく、その人にとって真剣な決断であったのかだと思いました。

どちらの立場もいていいはずなのに、「子を持たない」人にとって逆風にさらされやすい現代ではありますね。
少子高齢化で悩んでいる国なのか、人口爆発で困っている国なのかで、子を持つことの「正義」度も変わるのでしょうし、常に絶対的なものはないのでしょう。

出産や子育て論は糸口にすぎず、これは「自分と異なる意見の人を受け入れる心」の大切さを書いたエッセイなのだと思いました。
作者様の主張したいこと、それは「あなたたちも自由に考え行動していいから、わたしたちの自由を奪うな、押し付けるな」という踏みつけられてきたマイノリティの必死な叫びに他ならないのではないでしょうか。

それにしても、詩一さんは本当に素敵な紳士なのです。

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